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寄稿:『マチネの終わりに』連載を終え 自由意志巡る物語に挑戦

 十カ月余りにわたって朝刊で連載してきました「マチネの終わりに」が、一月十日を以て、無事、完結致しました。長らくお付き合い下さった皆様、ありがとうございました。お楽しみいただけましたでしょうか?

 新聞連載は今回が二度目の挑戦でしたが、前回の「かたちだけの愛」は夕刊だったので、日曜日が休刊であり、月に四日は休みがありました。実際は、その休みも、執筆の遅れを取り戻す予備日のようなものでしたが、これがあるのとないのとでは、大違いでした。

 一日あたりの掲載分量は、原稿用紙換算で約二枚半です。日曜日の一回分は、一週間の残りの日にならしてしまえば何とかなるだろうという目算でしたが、五カ月ほどが経ち、連載開始前に書きためておいたストックがいよいよ底をつきかけると、月に四回の休みがあったならば、今頃は、×五カ月分も余裕があったのかと溜息が漏れました。

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 長編小説の執筆はマラソンに喩えられたりしますが、普段は沿道に誰もいない、実に孤独なマラソンで、一体、ゴール地点で、何人が自分を待っていてくれるのかさえわからず、まったく以て心細い限りです。しかし今回は、連載中から期待以上に多くの人から、「面白いです!」、「毎日楽しみにしています!」と声を掛けられ、大いに勇気づけられました。

 昨今は、よくある「ページを捲る手が止まらない!」という本の売り文句に対抗して、むしろ、「ページを捲りたくない、このままずっとこの世界に浸っていたい」と思ってもらえるような小説を書こうと意を決しているのですが、そうした作者の思いを酌んでか、予定よりも長くなってしまったこの連載も、「終わってほしくない」と言ってくださる心優しい読者に恵まれました。

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 恋愛というのは、古今東西、人を惹きつけて止まないテーマですが、情報環境も、貞操観念も、ますますその障害たり得なくなりつつある今日では、恋愛小説自体は難しくなってしまったという印象を抱いていました。しかし、状況は、その可能性の故に、むしろ恋する人々を思いもかけない隘路へと追いやっているようにも見えます。

 私が試みたかったのは、自由意志を巡る新しい物語であり、古典的な運命劇の二十一世紀的な更新です。それこそが、ジャンルを問わず、目下の世界の最も重大な関心事なのですから。

 何かと悲観的な気持ちにさせられる昨今ですが、だからこそ、せめて小説を読む時間くらいは、美的な世界に浸って、精神的な高揚感を得たいと願いながら、この小説を執筆し続けました。もちろん、単なる夢物語を書いてみても虚しいですから、この現実の世界が、無残に否定しようとしている生をこそ擁護したいという思いも、根底では強く働いていました。

 単行本のかたちで、改めて本作を皆さんのお手元に届けられる日を、再度の推敲に取り組みつつ、楽しみにしています。

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 また、単行本の発売に先駆けて、「マチネの終わりに」特設サイトを立ち上げる予定です。

 サイトには、単行本のこと、イベントのこと、コラボクリエイターの方々のことなどの最新情報の他、読者の皆様の感想を掲載したいと考えています。

 そこで、『マチネの終わりに』の感想を募集いたします。いつもコメントくださっていた方も改めてになりますが、感想をいただけますと嬉しいです。こちらのフォームより、ご入力くださいませ。

▶︎http://bit.ly/1KIZmMl
 『マチネの終わりに』感想フォーム

 また、「#マチネの終わりに」というハッシュタグをつけ、noteやTwitter、SNS、でつぶやいてくださったものもピックアップいたします。

 皆様からのご感想を心待ちにしております。

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 「マチネの終わりに」は2015年3月1日から16年1月10日まで連載。単行本は毎日新聞出版から4月に刊行予定です。


平野啓一郎

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