デザインを変えたら商品の生産ラインが止まった話を聞いてきた

桃茶豚ブランディングデザイン インタビュー

(※この記事は、2017年5月2日に書いたMediumからの転載です)

株式会社KOZAKIKAKUが手がかげた「桃茶豚」のブランディングデザイン。そのプロジェクでのデザインの役割や変遷をインタビューしました。以下の文章は、その内容です。桃茶豚とは、神奈川県厚木市にある養豚業者が手がける六次産業化での豚肉の商品名です。尚、今回のお仕事はPIE BOOKSの「スタイル別ブランディングデザイン」にも掲載されています。


平野 :「桃茶豚」のブランディング仕事は、どういった状況からのスタートしたのですか?

小崎:最初に依頼された仕事はWEBサイトの開発でした。「桃茶豚」は六次産業化と呼ばれる生産者が流通販売まで担当する商品なので、養豚業者さんが自分のブランドを持って、それを販売することが背景にあります。依頼主は、WEBサイトだけあれば商品の注文が取れて販売できると考えていました。


平野:なぜWEBサイト以外の制作も請け負うことになったのですか?


小崎:ヒアリングを通して「桃茶豚」という豚肉が非常に上質な商品だということが分かりました。神奈川県では年間で約1万頭の豚が出荷されるのですが、上位2パーセントの「桃茶豚」というブランドとして販売されていたのです。

そこで、この商品が「極上の豚肉」であるということを一瞬で伝えないとWEBサイトを作っても売れないと考えました。まず、それを象徴するロゴマークの必要性を依頼主に伝え、そのロゴマークを使って「極上の豚肉」を伝えるための道具とし、ポスター、WEBサイト、パンフレット、商品ラベル、商品箱があることを提案しました。


平野 :「極上の豚肉」ということが伝わっていないという本質的課題を見抜き、依頼主に逆提案をするわけですよね?本来、予定していなかったことを提案された時、依頼主はどのような反応でしたか?


小崎:「それでいきましょう!」という返答でした。依頼主さんも全体を統一することの必要性は感じていたのですが、たまたまWEBサイトがなかったので、まずこれをやるべきなのかな?と考えていたようです。


平野:その状況で依頼主が既に作っていたパンフレットがありますけど、既にあるものをリニューアルすることに対して、どのように提案したのでしょうか?

リニューアル前のパンフレット(左)
リニューアル後のパンフレット(右)


小崎:リニューアル前のパンフレット(左)には、いくつもの課題がありました。まず、表紙の写真が豚肉ではなく「料理」だったことです。盛り付けもスタイリングもされて撮影はされていますが「極上の豚肉」だということをを伝えきれていませんでした。

さらに、“牛肉より美味しい豚肉”という養豚業者の主観がたくさんつまったコピーが書いてありました。本来、牛肉より豚肉が好きな人に向けた「極上の豚肉」であるはずなのに、このコピーでは、牛肉に対するコンプレックスの塊みたいなものが際立っていました。

酪農の世界では牛肉は3年間で出荷さますが、豚肉は1年で出荷されるので、どうしても価格は牛肉の方が高くなります。価格だけで考えると、牛肉が肉業界の王様というイメージがあります。このコピーは「それよりも美味しい豚肉なんだ!」という構造になっています。

しかし、消費者から見れば、別に牛肉よりも豚肉が好きという人もいますし、その人達に向けた商品でなければなりません。
また、パンフレットを開くと見開きで大きく「子豚」の写真が中央に出ていました。「極上の豚肉」を売るためのパンフレットなのに、この豚を食べるのか…。という気持ちになる設計でした。

その他にも、紙面全体の基調色が「抹茶色」で統一されて、全く食欲がそそられない色であり、購買意欲を落ち着かせてしまう色彩計画でした。この抹茶色によって、苦味を読み手に伝えてしまい、商品本来の味をイメージしづらくしていました。


平野:紙面の下にあるキラキラしたものは何でしょうか?


小崎:これは、お問い合わせ先が変更になったために、訂正用に張られたシールなんですね。キラキラしているので視線がそこに集まります。しかし、これを貼ってる依頼主は、このエリアを隠すためにシールを貼っています。このシールが悪目立ちしていることに全く気づいていなかったのです。


平野:どのように「極上の豚肉」を伝えるためのデザインを着想したのですか?


小崎:このデザインは一言でいうと「和洋折衷」です。養豚が黒船来航から日本に伝わってきたっていう経緯があるので、鎖国を開いたころの横浜から着想しています。黒船来航によって、アメリカから日本に養豚の技術が伝えられた結果、横浜から養豚が始まります。横浜が日本最初の養豚事業なんです。そして、横浜から郊外へ、そして、厚木までに養豚の事業が拡大していきました。


平野:なぜ、日本の養豚の原点ということを表現する必要があったのですか?


小崎:まず、桃茶豚のルーツを掘り下げることが高級感につながると考えました。養豚の歴史を表現することがそのまま価値になると思ったからです。日本の伝統工芸もそういった特性があると思います。つまり、この豚肉が高級だということを伝えるために、造形表現のみ高級することは本質的には意味がないと考えたからです。この桃茶牧場だからこそ、高級な豚肉を作れる理由が“絶対に”あったはずだと考えました。それをどうにか可視化し、視覚伝達することがミッションでした。

例えば、今回は「極上厳選」「美味芳醇」というコピーと説明文を漢文調で表現しています。昔から受け継がれてきたものがここには投入されてるんだっていう意図をそのコピーと表現で伝えました。開国から現代に至るまで、養豚に関わってきた人々が脈々と積み上げてきたノウハウがこの桃茶豚に太鼓判を押していることを伝えることが一瞬で高級感を伝える方法だと考えました。

平野:極上の豚肉を一瞬で伝えるために、物質的な価値の尺度を使って伝えるのではなく、長い歴史や伝統といった時間的価値の尺度を使ったのですね。

小崎:養豚に関わってきた先人たちの自負と威厳をデザインに込めようとしました。


平野:このシンボルの紋章にはどういった意味が込められてるんですか?


小崎:一番上にあるクレストには、豪華な食卓をイメージし、キャンドルのついた西洋風の猫足の椅子にしました。西洋の高級食卓の象徴としてクレストに配置しています。その下のリースには、厚木市の木の紅葉の葉っぱが5つ星のように配置しています。左右のサポーターには、羽の生えた豚が「美味しさ」を守るという意図で配置しました。羽を生やした理由は、厚木だけではなくて、日本全国の遠くの人にこの豚肉を届たいからです。


平野:紋章を作る過程にはクライアントさんの意見もうまく組み合わせたのですか?


小崎:そうですね。僕の方で一発で出したデザインではなく、デザインをみながら、クライアントさんと対話を通してつくりました。例えば、一番下にあるモットーの部分がラテン語で「特別な日に、幸せを味わう」書かれているんですが、このコピーもクライアントさんと一緒に考えました。


平野:リニューアル後の反応を教えてください。


小崎:まず桃茶豚は、少量ですが養豚業者さんの近辺での取引はありました。デザインが変わったタイミングで、不特定多数の人に対しても、この豚肉が販売されました。その結果、完売になり、現状の生産ラインでは間に合わないほどの商品が売れました。
元々、数に限りのある商品ですが、桃茶豚の味が認められたことで、それに対応するうれしい企業努力をしなければいけなくなったというのが、このお仕事の結果です。


平野:他にはどういった反響はありましたか?


小崎:クライアントさんから中国から豚肉のブランディングとして視察が来られた話は聞いてます。


平野:まさに、厚木から世界に向けて飛び立っていったったのですね!最後にどういった立場でこのビジネスを捉えているのかを教えてください。


小崎:桃茶牧場のクライアントさんとは「桃茶豚」を世間に広めていくためのパートナーとして、一緒に活動しています。それをビジネスとして考えると「食肉」を売ることも重要ですが、肉マンの材料といった加工食材への利活用の模索、生活者に対しての販売(BtoC)から、レストランへの販売(BtoB)への販売経路の確保なども考えなければなりません。そして、クライアントのビジネスに対して、デザインとして何ができるのかを考えることも重要です。


平野:ビジネスに寄り添いながらデザインの実績を積み上げていく、ビジネス支援をするデザインの可能性に対して、どう考えていますか?


小崎:僕がデザインした成果物は、桃茶豚のロゴマーク、パンフレット、ウェブサイト、ポスター、箱です。しかし、それらを落とし込むまでに「桃茶豚の本質的な良さ」を色々考えたわけですね。

「桃茶豚の本質的な良さ」とは何かを丁寧に説明すること、分かるようにすることで、この桃茶豚のビジネスを支援したわけです。そして、それを伝えるべきグラフィックに落とし込んだのです。どんなに考えたものも、最後のビジュアルでズレたら、結局伝わらないですからね。

これからも、そういった商品やサービスの本質的な魅力的を探求するためにデザイナーとしてできること、そういったことが求められる仕事にまた関わっていきたいと思います。もちろん、それを最後グラフィックデザイン、ビジュアルに落とすところまでやり遂げたいと考えています。


平野:本日はありがとうございました。


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平野 友規

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