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この映画がBLすごい2014暫定1位、「トム・アット・ザ・ファーム」

この1年、けっこう映画を観ている。元旦からして2本観たし、その後も月に1,2本は見ている。「え、それだけ?」と世間の「映画を見ている」人には言われるだろうけど、とりあえず自分の人生のなかではマジでけっこう観ているほうなのだ。

土日や毎月1日、水曜日などは、「あー今日余裕あるから映画見に行こうかな」と頭に「映画」という選択肢が浮かぶようになったのは、初めてのことだ。

今年すでに観た映画はこんな感じ。

1.かぐや姫の物語
2.ブリングリング
3.ゼロ・グラヴィティ
4.新しき世界
5.Dear Girl~Stories~THE MOVIE2 ACE OF ASIA
6.ワールド・エンド
7.WOOD JOB!
8.銀の匙
9.アナと雪の女王
10.ヴィオレッタ
11.アクト・オブ・キリング
12.DOCUMENTARY of AKB48 The time has come 少女たちは、今、その背中に何を想う?
13.渇き
14.GF*BF
15.グランド・ブダペスト・ホテル
16.her
17.オール・ユー・ニード・イズ・キル
18.怪しい彼女
19.ジャージー・ボーイズ
20.イヴ・サンローラン
21.フランシス・ハ
22.まほろ駅前狂騒曲
23.5つ数えれば君の夢
24.ぼんとリンちゃん
25.ゴッドタン キス我慢選手権 THE MOVIE2 サイキック・ラブ
26.トム・アット・ザ・ファーム

あ、一月2本よりはペース早い。

ちなみに、これらはすべて劇場で観た新作だ。旧作を家で観たのは1,2回で、しかも途中で早送りとかしてしまった気がする。

私はそもそもじっと座って長時間何かひとつのものをすることが苦手だ。

本やマンガだったら、せいぜい1冊1時間はかからないし、自分のペースで一時停止し他のことに取り組んでからまた再開しても比較的ストレスなく作品世界に戻ることができるのでいい。

しかし、「映像」というのは「ながら見」をするには注視すべき情報量が多すぎるし、一時停止をしてまた再開するとなるとどうしても筋が思い出せず作品世界に戻るのに時間がかかる。しかも映画はだいたい100分以上ある。ようは私がめんどくさがりすぎるというだけの話なのだが、家で他の誘惑にかられながらも集中力が持続できるのは、せいぜい30分くらいなので、アニメは見られるけど(それでもDVDパッケージを買った後ディスクを機械に入れるのすらめんどくさくてシュリンクを開けないことも多い)、とても映画のDVDなどを家で鑑賞することができない。

そのため、映画DVDを家で自発的に見ることは今も昔もほとんどない。そもそも縁遠いので、劇場に足を運ぶことも、これまでは年に1,2回だった(過去に、劇場版『ハゲタカ』と『オペラ座の怪人』だけは異常にハマってそれぞれ5回は観たけど)。

だがしかし、社会人になってから、映画ってみんな意外と観ているんだなあと自分の教養のなさを憂い、2、3度映画館に足を運ぶうちに気づいたのである。映画館という、一度入ってしまうと他に気が散るもののない退場しづらい空間にはいっていれば、こんな私でも集中して作品を鑑賞できるということに。そして集中して鑑賞すれば映画はおもしろいということに……。

そして学生のころだったら高い出費に見えた映画代も、飲み代に比べたらそうでもないし、サービスデーだったら1000円で見られるし、あと社会人になると休日に遠出する体力はないんだけどほどよく現実の疲れを癒やしたい……みたいな願望も満たしてくれるし……と気づいて、今ではすっかりヒマを見ては映画館に行っているのであった。

で、ある程度映画好きの方のTwitterで自分に合うことを確認してから観に行っているのもあり、鑑賞した作品は(思い出せてる範囲では)どれもよかったし、こちらに一応感想めもをつけているのだけど、今回「トム・アット・ザ・ファーム」を観たら、圧倒されすぎたので、別記事で書き残しておく。つまり、ぐだぐだと前置きをしたけれど、ここからが本題です。

「トム・アット・ザ・ファーム」が初めて気になったのは、新宿シネマカリテでポスターを見かけたとき。頬に傷をつけたぼさぼさの金髪の青年(イケメン)がどこかを見ているキービジュアルと、「僕たちは、愛し方を覚える前に、嘘のつき方を覚えた。」というキャッチコピーが、大変に刺さった。そのうえ、岡田育さんもコメントを寄せているらしい、ということも知り、先日渋谷アップリンクにおもむいたのだけど……ほんとすごかった。すごかった。すごかった。(大事なことなので3回言いました)

物語はかいつまんで言えば、もうタイトルどおり「トム・アット・ザ・ファーム」でしかない。これほど嘘偽りのないタイトルもないってくらいに、トムがアット・ザ・ファームしている。しかし、もちろんそこにはストーリーがある。トムはモントリオールの広告代理店につとめているのだが、同僚であり恋人であるギョーム(同性)が事故で亡くなったために、ギョームの実家であるケベックの農場を訪れるのである。

だだっぴろく荒涼とした農村のなか、彼の生家をたずねたトムを待っていたのは、ギョームの母・アガットと、兄で農場を継いでいるフランシス。

到着直後に、ギョームが自分との関係を隠し、女性の恋人がいると偽っていたことを知ったトムは、そのうえギョームの嘘を見破っているフランシスに「母を悲しませないよう口裏をあわせろ」と脅しを受けます。母と弟への愛と、ホモフォビアに支配されているフランシスから理不尽な暴力を受けるようになるトム。反面、農場と母に縛られているフランシスは、自分よりも自由に見えるトムを農場にとどめようとも画策し、彼の暴力と執着、恋人を失ったことへの悲しみのなかでトムの精神もだんだんと変化していく……。

という感じ。

……このあらすじは、腐女子向けにはひょっとしたら「メンヘラ鬼畜マッチョ攻×ビッチ金髪メガネ受だよ!」などとおすすめすることもできるのかもしれないが、そうやって軽率にすすめるにはなかなかハードなサイコホラーなので、心臓が多少つよい方のご鑑賞をおすすめします(内臓系グロとかはないです)。

私自身、最初は「これはBLでは?(・∀・)ニヤニヤ」などというやましい気持ちも抱いていたものの、開始10分くらいしたら、そんな気持ちはふっとんでしまった。すみません、タイトルで書いた「この映画がBLすごい2014」というのは本心ではあるのだけど、核心ではありません。

いや、もちろん萌えるところもところどころあり、「これはBLだ!」と思ったシーンもいろいろあったのだけど、それよりも切実に複雑な何がしかが描かれていたのです。それは、別に「萌え」を軽視しているわけではなくて、「萌える」というのはある意味で物事を「記号化」する行為なのだけど、この映画では、「記号化」できない、もしかしたら「言語化」もできない、いろいろな感情や矛盾がすくいとられていて、それだけで語るのはなんか全然違う気がしているのでした。

セクシュアリティにしても、都会の虚栄と田舎の鬱屈にしても、母への愛と裏返しの母への恐怖にしても、死んだ者への愛憎にしても、とにかく白黒つけられないし、どこまでいってもグレーでしかない物事が、ミルフィーユのように層をつくって一つの物語になっていて、そしてこんなふうに今映画を因数分解したように見えても、きっと実際の映像の魔力を1/100も伝えられないくらいで、とにかく、なんかものすごーーーーーく圧倒されてしまった。

しかも呆然としたままパンフ買って驚いたんだけど、監督・脚本・主演が全員一緒という。グザヴィエ・ドラン。25歳ってマジですか。同い年なんですけど。平成生まれだよこの人。もちろん素人目にも映像も話もすごいなと思いつつ(原作はあるけど)、こんな、殴られたり殴ったり嘘つかれたり嘘ついたり捕らえられたり逃げたり逃げたりする役に、自分をキャスティングできることがただただすごいなと思ってしまった。

そのうえパンフに寄せられた本人の文章では、「(原作となった戯曲の作者に対して)『映画を撮るのは、この僕さ』と皇帝ネロのような謙虚さで答えた。」とかいう超傲慢なコメントが書いてあって、なんか本当にグザヴィエ・ドラン様すごい!みたいな気分になっていて、もう様づけですよ……インスタグラムとかTwitterも超おしゃれで、この人は自分のセンスで窒息死しないんだろうかって感じ……。作品のなかでは受けっぽいけど、スーパー攻め様感が激しい……。(ちなみにドラン様は自身がゲイであることを公表してますね)

でもさらりと天才的なことをやってのけてるようで、それこそこうしてアウトプットすることで理性を保ってるのかもしれないなあ……とも思ったり。パンフには春日武彦さんと吉野朔実さんの対談も掲載されていたんですが、「この役をどうして自分でやろうと思ったんだろうね?ドランさん自身が結構病んでいる感じがしましたね」って書いてあったし(笑)。

http://www.uplink.co.jp/tom/

そんなわけで、ここ最近映画館に足を運ぶようになっていたのは、もしかしたらこの作品に出会うためだったんじゃないかくらいのアドレナリン出まくり状態なので、ご紹介を書いたのでした。上半期は「新しき世界」が今年最高のBL映画では……とか言ってたんですけど。「萌え」と言い切れないとか書いたけど、萌えるシーンは多数はあるので、茜新社系ちょっとノワールなBLが好きな人にはおすすめです!

いつもありがとうございます。より良い浪費に使います。