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ガチ恋オタクが女主人公に嫉妬せずに済むたったひとつの冴えたやりかた (ミュージカル『Dance with Devils』を観ました)

『Rejet』×『Elements Garden』の原作アニメを舞台化したミュージカル『Dance with Devils』(以下、ダンデビ)を観てきました。そんなに熱心な2.5次元オタでもリジェオタでもないんですが、めっちゃ楽しかったんでメモ。

ダンデビのあらすじをざっくり説明すると、「手に入れると世界を支配できるという『禁断のグリモワール』をめぐってアクマとヴァンパイアが争っている世界。615年に一度のグリモワールの出現が近づき、グリモワールが人間界にあることを知ったアクマとヴァンパイアは、その鍵を握ることが判明した女子高生・立華リツカのもとに集う……」という感じです(原作をきちんと観ていないため、本当にざっくりです……)。

で、みんなリツカに恋しちゃうんだけど、実は『禁断のグリモワール』=リツカそのものなので、グリモワールを手に入れようとするとリツカは死んでしまうということがわかり、愛と使命の間で男性キャラたちが苦悩するという、乙女ゲー方式のハーレムストーリーです(乙女ゲーとしての展開前提で始まったプロジェクトと思われますがあくまでアニメスタートなのでここでは「乙女ゲー方式」という表現にしておきます)。

ミュージカル「テニスの王子様」に端を発する2次元作品の舞台化=2.5次元舞台の流れは、弱虫ペダル、BREACH、ダイヤのAのような少年漫画のみならず、『金色のコルダ』、『遙かなる時空の中で』、『薄桜鬼』、『緋色の欠片』といった乙女ゲー作品にも広がり、Rejetも『ディアボリックラヴァーズ』という別作品をすでにミュージカル化していました。

しかし、私が乙女ゲー舞台で気になっていたのが「女性キャラの扱い方」。乙女ゲーオタにはやはり「女主人公はあくまで自分の分身である」という人間が少なくなく、主人公の顔は常に隠されているというパターンのゲームもあります。まあ「乙女ゲーで恋愛しているのは自分ではなく、応援できる女主人公ちゃんとかっこいい男性キャラという第三者どうしの恋を楽しんでいる」という人間もいるのですが(うたプリの春歌ちゃんが愛されているのはこっち側の発想かなと思います)。

しかも、ゲームの主人公の選択肢を選んでいるのは自分なので、顔や声があってもまだ「自分の分身」と言い聞かせられるかもしれませんが、舞台で女主人公が登場するとなれば、演じるのは必然的に3次元世界の女優さん。原作のように愛をささやかれたり抱擁されている存在が自分じゃない女性であるという事実をオタクは純粋に楽しめるのか?という疑問がずっとありました。

さらに心配なのが、乙女ゲー舞台を観に来ているのがその原作のオタだけではないということ。そう、2.5次元舞台を中心に活躍している若手俳優オタも、乙女ゲー舞台を観に来ます。彼女たちのなかにも、擬似恋愛的な感覚で舞台のうえの彼らを眺めている人間がいるわけで、原作オタよりもなおさら若手俳優と女性の絡みを嫌がるのではないか?という気がしますし、実際ガチ2.5次元舞台オタの友人からそんな話を聞くことが多々ありました。

そういった葛藤に配慮するためか、乙女ゲー原作であっても女性を出演させず、あくまで観客に語りかける方式の舞台というのもあるにはあったのですが……(舞台『ストームラバー』がそのパターンでした)、ダンデビは「禁断のグリモワール」をめぐる物語。グリモワール=リツカの存在はとても物語から除外できるものではありません。まあ、『ストームラバー』のように登場させないという手もありますが、リツカ自体がさらわれたり襲われたりという展開が多いので、その演出は結構厳しい。しかも、やっぱりヒロインなしでラブシーンやるのは厳しい。

しかし、ダンデビはすごかった。「主人公・リツカっぽい存在は登場するが、それはあくまで『キャラそのもの』ではなく、リツカの存在を『表現』するダンサーであり、セリフも人格もない」という演出をとったのです。キャスト表に「立華リツカ役」ではなく「立華リツカ表現」と書いてあったので、一体どういうことなんだろう……?と思いましたが、観てみて度肝を抜かれました。

舞台上で演じ歌う男性キャストたちの間をひらひらと踊り歩くリツカダンサー。しかし顔は見えないし声も出さない。このリツカダンサーに「人格」はありません。リツカの主体、男性キャラたちが恋し守ろうとしているリツカはあくまで客席にいる女子たちであり、リツカダンサーはあくまで舞台上に「リツカ」という概念を表現することでその両者の愛を媒介する存在にすぎないのです。だからいくら男性キャラたちがリツカダンサーの手をにぎったり追いすがったり抱擁しても私たちは嫉妬する必要がありません。だってアレは媒介だから。その証拠に、心を込めて愛の言葉をささやくとき、男性キャラたちは、ダンサーのほうではなく客席に顔を向けるのです。いや〜〜〜ものすごいダブルスタンダードだ……。

とはいえ、リツカダンサー、顔は出てるし、わりと頻繁に舞台に登場するし、かなり強く抱きしめられたり男性キャラに情熱的に尻を触られたりしてるんで、「役」としてのリツカではなくこのダンサーさん本人に嫉妬する女子は残るのでは……?と最後まで懸念してたのですが、終演後によくよくキャスト表を観てびっくりしました。

リツカのダンサーをしていたのは男性だったのです。

そこまで徹底するのかネルケプランニング……!とめちゃくちゃ感動してしまいました。いや〜たしかに結構身長高いし胸ないなと思ったけど。

というわけでガチ恋若手俳優オタの友人にこそすすめたい演出満載のダンデビだったのですが、残念ながら今日が千秋楽。今後も「男性キャラor若手俳優とファンの愛の時間としての2.5次元舞台を壊さないための配慮」がどこまで進化していくのか、にわか2.5次元オタかつ乙女ゲーオタとして楽しみです。


余談1:まあ「女主人公を一人格として愛しているタイプの乙女ゲーオタ」がダンデビにもいるとしたら、今回の演出はかなりの禁じ手だと思いますが……。

余談2:あくまでひとつの演出にフォーカスして感想を書きましたが、ミュージカルとしても楽しかったです。犬役(語弊あるけど)の内藤大貴さんの歌がうますぎて「犬が一番歌うまいミュージカル……」と謎の感慨を覚えた

余談3:「マドモ★アゼル」めっちゃ中毒性があって楽しい歌ですね。




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