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貴方は嫌いな女の名前を覚えていますか?

月刊「根本宗子」第9.5号『私の嫌いな女の名前、全部貴方に教えてあげる。』を観てきました。

先週まで、恥ずかしながら根本さんのお名前すら知らない人間でしたが、かつきさんのnoteや、同じ声優のすずきたつひささんクラスタのお姉さんが「泣いた」ってツイートしているのを見て、そしてタイトルにむしょうに惹かれるものがあって、当日券に並んで観てきました。


劇としての評は、かつきさんのnoteで十分だと思うのですが(そして私には書けないのですが)、個人的に主観的に激しく揺さぶられた部分があったので、メモ。

今日で千秋楽でしたので、ほぼほぼネタバレしております。


舞台は、深夜のカラオケ店で開かれている合コン。メンバーは5人のキャバ嬢と、2人の男。
かなりいびつな人数比ですが、それが成り立つのは、男の1人が、アイドル的人気をほこるバンド「KONOYO NO OWARINI」のボーカル・川西だから。
キャバ嬢たちは思い思い自分のキャラをアピールしながら川西の歓心を買おうとしていきます。

この前半のクソ飲み会(根本さん本人がパンフで書いてた)の女子同士のやりとりと、バンド名だけでも、小一時間くらい酒が飲めるわけですが(実際鑑賞後3時間飲んで終電逃しそうになった)、おそろしいのは、そのクソ飲み会の間、カラオケ店のセットの上で、川西の彼女(根本宗子さんご本人)が何も知らずにいつもどおりの夜を過ごしているようすがえんえんと展開され続けていること。

飲み会がどれだけ盛り上がろうと、執拗にノンアルコールにこだわる女が発狂しようと、川西の熱狂的なファンが乱入して場が騒然となろうと、アホキャラに徹しすぎた女がパンツを見せようと、キャバ嬢同士の表面上おだやかだった関係性が取り返しのつかないことになろうと、その裏で、カシスオレンジの薄めばかり飲んで酒弱いアピールしていた地味系女が「世界観とか、ほんと素敵ですよね」なんてテキトーなこと言って着々と川西との仲を深めていようと、彼女の夜はあくまでおだやかに続いていきます。

とにかくクソ飲み会のなかで事件が起きるたびに、ついついセットの上の彼女=根本さんを見てしまうんだけど、彼女は一切そちらに影響されずに暮らしている……というので、観劇中つねに緊張させられました。

もっとも、その穏やかさは、あるきっかけによりクソ飲み会と彼女の部屋という断絶された空間がつながってしまうことで、取り返しのつかないくらいにバラバラになり、そこからがまたおそろしいシーンの連続です。

川西の浮気を知ってしまった根本は、「浮気するにしても隠しきれよ」「知りたくなかった」と怒るくせに、その一方で川西の携帯を奪って浮気相手となった「笠島」の名前を特定し、彼女のもとに向かいます。
(このねー、川西って男が「自分の寝た女の名前全部順番にケータイでメモしてある」って設定が最高ですよねー……)

包丁をもって笠島を突撃した根本は「川西のこと何も知らないくせになんで彼をとったの」「あなた彼が曲を書いているときどんなふうに悩んでるかも知らないくせに」と、自分しか知らない川西のくせ、性格、などなどを笠島にぶちまけるのですが、最後には「こんなに私は彼のことを知っていたはずなのに、あなたのせいで私が知らなかった彼の一面と向き合わないといけなくなった」と怒り狂い、笠島を刺殺します。

とにかくこの舞台を、すごくすごくおそろしくしていたのは、上演中に頻繁におこる笑い。

たしかにクソ飲み会でのキャバ嬢たちの牽制シーンとか、みんなでLINEのID交換してるけどKYで嫌われてるノンアルコール女だけはグループに入れてもらえないシーンとか、実は今回の飲み会のセッティングをしたアホ女が、川西じゃないほうのださい男と付き合っていることがバレてみんなにバカにされるシーンとか、アンリが乱入してきて「川西くんは世界一綺麗な男の子なんだからこんなことしちゃだめだよ!」というシーンとか、浮気がガマンできない根本が「浮気したことよりもこんな気分悪い気持ちにされたことがショックだよ!」と3ヶ月たってもねちねちねちねち川西に言い続けるシーンとか、実はキスだけじゃなくてセックスもしてた川西が「キスまでしかバレてねーのに自分からセックスしたなんてバラす必要ねーだろ!キスだけでこんなにぐじぐじ言われてんのによお!」と逆ギレするシーンとか、たしかにちょっと笑えるような演出になってるんだけど、でもそこで描かれてる感情とか立場とかが、個人的はまったくもって身に覚えのあるものばかりで、ぜんぜん笑えないんだけど、まわりが笑ってるってことはもしかしてここ笑いどころなのかな……?と半拍遅れて笑うところが多々ありました。

で、終わってみて思うけど、やっぱりちっとも笑えることなんて描かれてなくて、ぶっちゃけ全部笑えないことでした。

とくに笑えなかったのは、盲目的に川西を崇拝しているファン・アンリの台詞ひとつひとつ。実は先に書いた根本の笠島刺殺の後、飲み会の途中で退場していたアンリが再登場し、根本を刺します。まったく意味がわからなくてポカーンとする根本に、アンリは、「本当に彼を支えているのは毎回CD1000枚買ってる私だ」「私は24時間彼を見ているけれど、彼に幻滅したりしない」「お前のことを川西くんの彼女だと思っているのはお前だけだ」「大事な時期なんだから彼女ヅラするな」「キチガイになんなきゃやってらんねえんだよ」と叫び、川西が歌う「炎と森のカーニバル」にあわせて踊りだすのです。

終演後もいっしょに観劇した歌人の馬場めぐみさんと、「最後の笑えなかったねえ……」「たぶん笑ってたのは男の人だと思う」って焼きとん食べながら3時間くらいしゃべりました。
(馬場さん、ちょうど上京してるってことでお芝居にお誘いしてお会いしたのですが、初対面から観る芝居だったかどうかは激しく疑問……)

それは別に、本当にマジで、自分の多少なりとも好きな男性俳優やら声優やらバンドマンやらアイドル的な人たちにとって、ファンが一番の支えだと思ってるとか、女の子と遊んだりしているわけがない、アイドルしてるときの人格こそが彼だ、と思い込んでいるから、ではなくて、でもできるだけそうしていないといいな、とか、できるだけそれを見せないでほしいな、と思っていて、そういうニュースがあったりするとモヤモヤしたりとかするわけで、そこを突きつけられたというか。

だからたとえば私は、すずきたつひささんが女遊びしてようとプライベートで何をしていようといいと思っているんですが、そもそもそんな想定自体を考えるところに今回の劇で描かれている「知りたい」と「知りたくない」のゆらぎがあって、そのうえ、この「いい」は、別に私がどうこう言える領域の話ではないんですよね。

そんな感じで芝居中すずきたつひささんのことが脳裏にちらつきまくりました(笑)。

劇に出てくるいろいろな立場の女たちが「知りたい」と「知りたくない」の間でゆれているのが、自分の「知りたい」と「知りたくない」のことを否応なく考えさせてきて、そもそもこの「知りたい」も「知りたくない」も、それ自体が相当なエゴなのではないか、と思わされました。

(そのうえでの馬場さんの、「でも、すずきさんは『ファンに対する顔』が、『声優』と『バンドのボーカル』のときとで違っていて、そのどちらかのファンであるときに、もう一方のほうの『顔』が『知りたくない』部分を見せてくるからやっかいですよね」という指摘をされていて、その通りすぎるなと思いました)

で、私の答えとしては、「ああ私の嫌いな女とは私自身なのではないか」と思った。それは根本さんにとっても、私にとっても、観ているすべての女にとって。

実際、登場するキャバ嬢たちは嫌なところはいろいろ持っていても、どこか憎めなくて、それは結局、自分が彼女たちのいろいろにシンパシーを感じているからなのかもなあと。

そのなかで「笠島」は、自分が全然ああはできない、今世紀最大のクソ女(根本さんがパンフでry)だったけれど、逆にラストの開き直り具合にめちゃくちゃ好きになってしまった……笠島さん最高。

それにしても、終わった後に自分が嫌いな女の名前を思い浮かべようと頑張ってみたのだけど、1人も思いつかなくて、きっと自分が嫌いな女の名前を覚えている女のほうが、いい女なんじゃないかなって思いました。

いつもありがとうございます。より良い浪費に使います。