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[人生は1インチの積み重ね]米国MBAから国内スタートアップへ

新卒から6年間日銀にいて民間の事業経験が一切ない自分が、MBA留学を経て、創業4年目の10XにCorporate Strategyとして加わりました。自分にとって今回の転職はキャリアだけでなく人生の大きな転換点になったので、1年を総括する意味でこれまでの経緯と想いを整理して書き残しておこうと思います。

1. MBAを通じて学び直した人生というもの

私は2019年夏から2年間、アメリカ東海岸のフィラデルフィアにあるペンシルバニア大学のMBAに留学していました。MBA(Master of Business Administration)とは経営学修士のことですが、具体的には経営に関わる幅広い知識やソフトスキルを身につけるプログラムです。他の学問のように狭く深く研究するというよりは、マネジメント、マーケティング、ファイナンスなどの知見を幅広く学ぶと同時に、リーダーシップや交渉力などのソフトスキルも身につけます。しかし私にとってこの2年間は、何より自分の生き方を変える大きなきっかけとなりました。

31歳にしてやっと人生について真面目に向き合ったのかと言われれば、恥ずかしながらその通りだと思います。
私は都内の中高一貫校から東大を経て新卒で日銀に入りました。その過程でもちろん自分自身のやりたいことは考えていたのですが、それよりも目の前に立ちはだかる壁を乗り越えていくので精一杯でした。高校時代は東大合格に向けた受験勉強の日々、大学時代はリーグ昇格を目指してバスケットボール漬け、日銀に入ってもチャレンジングな業務に追いつくので精一杯でした。そしてその間には色々な周辺情報に影響を受けてきたなと今となっては感じます。東大に合格した際の両親の喜んでいる姿、バスケ部で主将として部員の手本にならなければいけないというプレッシャー、日銀で若手の自分にチャンスを与えてくれた上司からの期待など、いつの間にか私は自分自身の声より周囲の声に耳を澄ませるようになっていました。

考え方が大きく変わるきっかけとなったのは、MBAの1学期目に2年生のメンターが言ってくれた言葉でした。

”What do YOU want to do?”

これは、卒業後のキャリアから逆算してMBA在学中に何をするかの優先順位付けするために1対1面談をしている際に唐突に投げかけられた質問でした。平凡な質問なのに、その時何て答えれば良いかわからずとても戸惑ったのを覚えています。私はそれまで、もともといた組織から求められている自分のキャリアパスは〜だとか、自分のバックグラウンドを踏まえると向いているのは〜だとか、結婚したてでこれからの生活を作っていく上で重要なことは〜だとか説明していました。一通り説明し終わった後にこの質問が投げかけられたので面食らったのだと思います。

彼女と何度も議論を交わすうちに、今まで話してきた内容が必ずしも自分の本心ではないことに少しづつ気づき始めました。上司や同僚、親、友人、そしてパートナーなど、「周りの人から見た自分の人生」を無意識に歩もうとしていました。しかもこの「周りから見た自分の人生」も半分以上は自分が勝手に思い込んでいるものです。日本にいた頃の自分は日々の生活や仕事にいっぱいいっぱいで、周囲ばかりに気を張りめぐらせ、自分の心に向き合っていませんでした。

それからは自分の人生を模索する旅が始まりました。既にキャリアで成功をおさめている20個上のWharton卒業生からコーチングを受けたり、様々な国籍・職歴のクラスメート達と週一で人生観について議論するプログラムに参加したり、Mindfulness(瞑想)の授業を取ったり、近しい友人たちと日夜問わず1対1でコーヒーチャットに行ったりしました。そうして2年間かけて内省を繰り返していくうちに、段々と自分の心の傾いている方向が感じ取れるようになっていきました

最終的に私は、日銀を離れて民間企業に行くことを決意しました。日本社会に貢献したいという想いは変わらずですが、政策などを通じて社会の安定性を確保するのではなく、日本の成長を促すことに情熱が向いていることがわかったのです。こうした考え方の転換は何よりも自分にとって大きな財産になったと感じています。

"Your time is limited, so don’t waste it living someone else’s life. Don’t be trapped by dogma — which is living with the results of other people’s thinking. Don’t let the noise of others’ opinions drown out your own inner voice. And most important, have the courage to follow your heart and intuition. They somehow already know what you truly want to become. Everything else is secondary."

(Steve Jobs at Stanford Commencement, June 12, 2005.)


2.MBAからスタートアップというリスクテイク

民間企業で頑張ることを決意した自分でしたが、どの業界に行くかについては再び悩みました。自分が思い描くキャリアパスを念頭に置きつつ、自分自身が適性のある業界・企業はどれか、MBA生を採用をしているか、卒業後に学費を返済しつつ生活設計ができるかなど、おそらく多くのMBA生が同様に悩むようなことに考えを巡らせました。その結果、MBBと呼ばれる外資系コンサルティング会社のうちの1つか創業4年目のスタートアップかという選択肢まで絞り込まれ、最終的に後者へ進む決断をしました。

決め手は、自分の思い描く将来像に少しでも近づける道が10Xだと確信したことでした。前段で民間企業に行くことを決意したと書きましたが、より具体的には、私はCorporate Financeの領域から事業を支える人になりたいと考えていました。もともと右脳的な考えが不得意な一方でデータをもとにロジックを積み上げて議論することが好きだったことや、企業が成長する上での金融の価値を信じていたことが背景です。

10Xで採用トライアルを受ける過程で、まさにそうしたキャリアパスを歩む上ではこの会社以上に最適な場所はないと感じるようになりました。事業は順調に成長しており、それらを実現するために優秀な人々が集まってきている、そしてそうした事業環境のもとで尊敬できるCFOのもと成長機会を与えてもらえる。自分の日々の業務が直接会社の事業に影響するという事実は、自分の視座を経営視点まで高めるとともに、1つ1つの業務にオーナーシップをもたらしました。こうした環境でこそ自分が思い描くCFOという将来像に近づけると確信した結果、いつの間にか「MBAから国内スタートアップに飛び込む」という道を自然と選ぶようになっていました。

もちろん不安な点もありました。

1つは自分が通用するかという不安。金融のバックグラウンドと言っても民間での実務経験がない自分が、スタートアップで初日から付加価値を出せるかは正直不安でした。しかしトライアルを通じて気付かされたのは、(特にアーリーステージの)スタートアップで働く上で重要なのは専門性よりも自分にとっての常識をunlearnし、その企業が置かれたステージ(時間軸)と提供している事業の幅(事業軸)から逆算して今何が必要なのか判断・実行する力だということでした。もちろんある程度の専門性は必要となりますが、それ以上のハードスキルは後からでも学べます。それよりも重要なのは、目まぐるしく変化する事業環境と組織に適応していく力で、それはMBA卒で新しい業界にチャレンジする人でも十分通用する世界です。

2つ目は財務面です。MBAの学費返済という大きな制約を抱えていた自分にとって、生活設計できるかどうかは無視できない要素でした。当然プロフェッショナルファームが提示する給与やサインアップボーナスは魅力的で、額によりますが場合によっては2~3年で学費を完済することも可能となります。一方、国内のスタートアップも給与水準は増加傾向にあります。SO制度も考慮するとトータルで考えればプロフェッショナルファームに行く並の収入を望むことも可能となります(詳細は弊社CFOが記事を書いているのでご興味があればぜひご一読ください)。もちろん学費の返済期間が伸びる、上場の不確実性がある、などの要素もありますが、私は先に書いたリターンを得るなら十分取るに値するリスクだという結論に至りました。

スタートアップ業界がさらに成長してくれば人材の取り合いはより一層激化していくことが容易に想像されます。優秀だが柔軟性も併せ持ったMBA人材は国内スタートアップにって貴重な獲得プールになってくるはずで、今後はMBAから国内スタートアップへという道を辿る人が増えてくることを期待しています。


3. 人生は1インチの誤差の積み重ね

最後に、今回こうしたMBA→スタートアップという決断をした際に自分が大切にしていた考えがあります。それは「人生は誤差の連続」だということ。

外資系コンサルティング会社という所謂王道の道があるにもかかわらずスタートアップに行くと決断した時、周りからは「3年やってからスタートアップに行くのでも遅くないのでは?」と指摘されました。確かに普通に考えれば3年後もきっと10Xのような魅力的な機会はあるかもと思いました。また、その間にプロフェッショナルファームで働ければ多くの経験を積めるほか、学費も早期に返済できる。決して無駄にはならず、むしろキャリアにとってプラス要素しか思いつきません。ある年上の方に相談した際には、「3年という期間は長い人生で考えれば誤差の範囲では」という言葉ももらいました。

でも私は、そういう誤差の積み重ねこそ大切にしたいと思いました。その3年間の過ごし方は短期的にはさほど大きな差は生まないと思います。でもその誤差による生き方の角度の違いは、その先数十数後の自分を大きく変えることになると思うからです。

これは、MBA留学を振り返っても当てはまると思います。よく MBAを志望する受験生から「MBAは行った価値はありましたか?」「留学前後で何か変わりましたか?」と聞かれますが、それに対して私の回答は「2年程度の留学で人は激変はしない」です。もちろん人脈は広がり、幅広い知見も蓄積され、貴重な経験になったことは間違いはありません。でもそれと自分自身が2年間で大きく変わったかは別問題だと思っています。私は、MBAはあくまでもきっかけを掴むものでしかないと思っています。大事なのはむしろそこで掴んだきっかけをもとに卒業後どれだけ自分に変化をもたらせるかです。

10Xへの転職も同様でした。確かに長い人生から見れば目先3年間をスタートアップかプロフェッショナルファームか、どちらで過ごそうが大差ないかもしれません。でも私は、その3年間が先行き30~40年の世界を大きく左右すると信じています。だからこそ、この「誤差」を大事にしていきたいと思いました。

これからは、MBAで得たきっかけをもとに自分がスタートアップで経験・成長していく過程を少しづつ記事に残していこうと思います。同じような選択肢に悩まれている方にとって少しでも参考になれば幸いです。

最後に、私が好きな映画の1つ"Any Given Sunday"の中で俳優アル•パチーノが試合直前のプロアメフト選手たちにロッカールームで送った言葉を紹介します。「人生は1インチの積み重ね」という言葉を刻みつつ、来年も頑張ろうと思います。

"...life or football, the margin for error is so small — I mean one-half a step too late, or too early, and you don’t quite make it. One-half second too slow, too fast, you don’t quite catch it. The inches we need are everywhere around us. They’re in every break of the game, every minute, every second. On this team, we fight for that inch. On this team, we tear ourselves and everyone else around us to pieces for that inch. We claw with our fingernails for that inch, because we know when we add up all those inches that’s gonna make the fuxxing difference between winning and losing. Between living and dying. I’ll tell you this: In any fight, it’s the guy who’s willing to die who’s gonna win that inch.  And I know if I’m gonna have any life anymore, it’s because I’m still willing to fight and die for that inch. Because that’s what living is."

("Any Given Sunday" (1999))


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