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【2019 J1 第29節】横浜F・マリノスvs湘南ベルマーレ ゆるれびゅ~

1.はじめに

 仙台戦の反省を活かし、徐々にゲームをコントロールできるようになったジュビロ磐田戦。渓太がポスト直撃で負傷するヒヤリとしたアクシデントがありながらも、2-0の勝利をおさめることができました。

 さて、今節の相手は湘南ベルマーレ。クラブ内が慌ただしくなっていましたが、先日新監督の就任が発表。体制が固まり、ここから仕切り直しという意識が強いでしょう。今後1つ1つの試合が難しくなる中、それでも優勝という2文字に向けて我々は勝利しなければならない。さあ、いってみましょう。

2.スタメン

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■横浜F・マリノス

・前節と同じ先発メンバー
・3トップは右に仲川、中央にエリキが入る

■湘南ベルマーレ

・まさかの布陣変更
・ボランチは金子が出場停止なので、菊地と松田天馬のコンビ
・2トップは山﨑と山口が入る

3.湘南の奇策 ~4-4-2について~

 「あー、何か古林の位置やたら高いな」、「ん?山田外に開きすぎじゃない?」、「え?外にいるマテウス見るの岡本なの?」試合開始から2,3分ほどはこんな感じで見ていましたが、そこでハッと気が付きます。「そうか!湘南の布陣は4-4-2だな!マリノス用に変えてきただと!?」まさに青天の霹靂でした。多くの人が予想だにしていなかったであろうこの布陣変更。その狙いを見ていきましょう。

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・各所で1対1を作ってマークをハッキリさせる
・ボールに近いボランチが相手のボランチにつく
・残ったボランチはマルコスを見る
・ボールが逆にいったら役割交代し、2人で3人を見る

 「うりゃあああ!前からどんどんいくぞ!」、「1人ずつ相手を捕まえるんだ!」布陣が変わったからといって、やること自体は変わってないみたいですね。前から怒涛のようにマリノス選手へ迫り、各所で誰が誰を見るかハッキリさせる守備。「うっ…頭が…ちょうど一年前にこんな光景を見たような…」…嫌な事件だったね。ギリギリ記憶の奥底に眠っていたものが呼び覚まされた気がします。

 ただ、その時と違ったのは中盤の対応。湘南のボランチである松田天馬と菊地はマルコス絶対放さないマンと化していました。前半戦で痛い目に遭いましたからねぇ…「マルコスは絶対に自由にさせないぞ!」そんな強い意志を感じました。空いた相方はマリノスのボランチを捕まえ、近場のパスコースを消します。ボールが反対のサイドに渡ったら役割交代。前に出ていた選手が下がり、後ろにいた選手が前に出ます。

 このように気合十分でマリノスに挑んだ湘南ですが、この新布陣は不慣れだったのか、いくつかの問題(闇)を抱えていました。ミステリアスな方は魅力的ですが、サッカーまでミステリアスだと何をすればいいかわからなくなってしまいます…その闇とは何なのか。以下に挙げてみます。

①ボランチの仕事が多く、スタミナの消費が激しい
②サイドハーフは内側に入ったサイドバックとボランチのどちらを捕まえればいいか迷う
③4バックが5バックの感覚で立ち回るため、サイドバックとセンターバックの間が大きく開く

 これらの問題を1つずつ見ていきましょう。

■ボランチだけブラック企業務め

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 先ほどお話しましたが、湘南は守るとき基本的には1人あたり見る相手の選手は1人です。しかしボランチの2人だけは3人の相手を見なければなりませんでした。実に1.5倍の仕事を割り当てられていることに…

 更に仕事内容も異なります。他の選手は「決まった人へ特攻すること」この1つが主な仕事です。しかしボランチの2人は、

・ボールが右に寄ったら松田天馬が前に出て、菊地がマルコスにつく
・ボールが左に寄ったら菊地が前に出て、松田天馬がマルコスにつく
・他の人たちの囲い込みがうまくいき、ボールを取れそうだったら2人とも前に出る
・自陣にまで攻められたら2人とも撤退して中央の守備に切り替える

 もう見てるだけで軽くめまいがする複雑な内容。なんと彼らの仕事量は他の人の4倍にもなります。先ほどのものも合わせると6倍もの差に!他の人たちはホワイト務めなのに対して、ボランチの2人は真っ黒な状態。金子くんはちょっとお茶目して謹慎。齊藤未月くんは体調不良でお休みと、人数も手薄な状況でこの大変さ。多くの仕事に振り回されててんてこまいでした。

■両手に花なサイドハーフ

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 仕事量がめっちゃ多いボランチの2人。左右に素早く振られると、お互いの役割交代が間に合わないことがありました。そうなったとき、湘南のサイドハーフの選手の前には2つの選択肢ができあがります。"ハマの苦労屋さん"ことボランチと、"実はサイドバックじゃないのでは?"というサイドバックが目に映るではありませんか。「俺が本来つくべきはサイドの選手だが、中央を通過されるのもまずい…どっちも怖いなぁ…」どちらへ向かえばいいか迷いが生じます。両手に花状態で非常に羨ましいですが、守るとなると困りものでした。

■浮嶋監督「圭子、それ5バックやない、4バックや」

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 サイドバックである岡本や鈴木はマテウスや仲川についていました。相手が外に動くと自分もついていく。しかしすぐ隣にいる坂や大野があまりこっちにきてくれないことが何度かありました。こうするとペナルティエリアの角が空くという危ない状態でした。

 「圭子、何留まっとるんや。これは4バックやろ。5バックちゃうやんか」浮嶋監督は坂に対してこのように思ったかもしれません。こうなった原因は慣れ親しんだ5バックの感覚が抜けていなかったからかもしれませんね。

4.マリノスのビルドアップとカウンター

 マリノスの苦手とする布陣でしたが、前述しました通り付け入る隙もありそうでした。その中でも、うまくボールを前進させたシーンと、カウンターを仕掛けたシーンを取り上げてみたいと思います。

■積極的に動いて相手の視線を独り占め

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 こちらは前半30分ごろのシーンになります。

 「俺が外に動いて相手の注意を引いて…」喜田が中から外へ移動します。「おっ、目の前にいる選手が外に動いたな。俺もついていかなきゃ」山田もそれに合わせて外へ移動。「キー坊サンキュー。相手が外に動いたから中に入ればチアゴからボール受けられるよ」このとき松原は喜田と入れ替わるように中央へ移動。「キー坊は囮か…となると正解は…中で空いてるケンだな!」フリーになった松原へチアゴは縦パスを送りました。

 先ほど述べたサイドハーフ両手に花問題をうまく活用したボール前進。見事山田にハニートラップを仕掛けることに成功しました。

■カウンターするけども…

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 こちらは前半13分ごろのシーンになります。

 ティーラトンがボールを奪ってさあカウンターの始まりだ!右に流れたマルコスへパスを送って攻撃開始。そこから中央へきたマテウスへパス。それに合わせてか、左サイドにいたエリキまで繋ぎます。しかしこのとき目に映るのは湘南の選手たちばかりではありませんか…

 「やべー、抜かれた!俺たちさっさと戻るぞ!」湘南の選手たち、とりわけ4人のディフェンダーとボランチの2人はすさまじく戻りが早かったです。それに対してマリノスは3トップとマルコスの4人。いかにカウンターとはいえ、4対6では分が悪いです。素早く前へ展開することは数多くできましたが、相手の戻るスピードを上回ることができたのは、スタミナが切れた後半に入ってからがほとんどでした。

5.空いたスペースをうまく使えたのか

 5バックじゃなく4バックなんだよ問題。これによって出来上がった広大なスペースをマリノスは有効活用できたのでしょうか。前後半でやり方を比較しながら見ていきます。

■前半 ~主な使用者はマルコス~

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 こちらは前半24分ごろのシーンになります。

 松原が外にいる仲川へパス。それに連動してエリキも右側へ移動。「エリキ待て!お前の相手は俺だ!」大野もエリキを離すまいと懸命についてきました。「俺の持ち場っていつもならこのあたりだよな」まだ5バック感覚が抜けないのか、相方の坂は中央に陣取る。その結果、2人の間に大きな亀裂が…!?「おっ!あそこ空いたのか。飛び込むぞ!」エリキからの折り返しを仲川が受ける間に、マルコスは亀裂目がけて飛び出しました。「くっ…相手がたくさんいてここからは出せない…」そこへボールを出したかったのですが、彼の周りには湘南の選手が多く、パスを出すことができませんでした。仕方なく後ろにいる松原へ戻します。

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 ボールを受けられなかったマルコスはそのまま右へフラーっと流れていきます。「次俺の前に立ちはだかるのはマルコスか。待て!」またしても大野が鬼の形相で追いかけてきました。再び松原からボールを受け取った仲川はマルコスへパス。またしても坂は中央から動かず、大野との間に再び大きな亀裂が。それはさながらモーセの十戒にある海が割れたかのように…「あそこ空いてる気がするけど、俺が出ていくタイミングじゃないかな」しかし喜田はそのエリアへ出ていくことはしませんでした。

 このように、食いつきのいい "肉食系ディフェンダー" 大野と、5バック感覚が抜けきってない "天然系ディフェンダー" 坂の間に大きな溝ができることは何度かありました。前半はティーラトンや扇原の上がりも控え目で、ここを使おうとする意識高い系選手はマルコスだけ。「あー、あそこ空いてるんだけどな」、「んー、誰も出ていかないか」前半はもどかしく思うことが多かったです。

■後半 ~今度はサイドバックも参加~

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 こちらは後半49分ごろのシーンになります。

 しかし後半になると状況は一転。扇原やティーラトンが高い位置を取り、それによってマルコスもより相手ゴールの近くでプレーする頻度が増えました

 相手の間に見事入ったマルコス。「そこだ!」扇原はそこへパスを出します。「くそっ!エリキが気になって前に出れないじゃないか!」何気にエリキが大野をその位置から動かせないポジションを取っていたことに注目です。しかしマルコスが反転するにはスペースが小さかったのか、ボールを扇原へ戻します。「じゃあ今度は左にいるマテ…は無理か。おっ、ブンちゃんいけるんじゃない?」これまた相手の間に入ったティーラトンへパス。「ハハハ、マテウスにくることはわか…ってそっちかーい!!」外側を警戒していた古林や岡本を欺くかのように出されたこのパスは見事!ボールを受けたティーラトンはそのままミドルシュートを放つも、惜しくも外れてしまいました。

6.データから攻撃を見てみようのコーナー

 では実際どうだったのでしょうか。マリノスがペナルティエリア角付近(ハーフスペース)でボールを受けた位置と回数。湘南がボールを奪い去った位置と回数を前後半に分けて集計してみました。

■マリノスの危険なエリア使用頻度

 マリノスの選手がペナルティエリア角付近でボールを受けた位置と回数を、前後半に分けて集計してみました。コーナーキックやフリーキックで直接受けたものは除外しています。白い四角が今回定義した場所。数字が背番号になります。

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 まずは位置を見てみると、前半の方が相手陣内深くで受ける回数が多かったことがわかります。エリア内は前半が11回、後半が3回と、回数にも大きな開きがあります。それは合計数を見てもわかります。前半が30回、後半が15回と2倍もの差がありました。自分の印象とは裏腹に、前半の方が攻勢に出れていたのですね。

 選手別に見ていきます。先発メンバーだと扇原以外は前半に受けた回数が多かったです。特に3トップとマルコスの前線4人組は抜きん出ていました。この4人が受けた割合を見ていくと、前半が24/30=80%、後半が渓太と大津を含めて11/15=73%。微妙にですが、後半の方が受ける割合が減っていたみたいです。これは後ろの選手が受ける回数が増えたということでもあります。後半の方が分厚い攻めができていたのかもしれませんね。

■湘南のボール奪取

 湘南の選手がボールを奪い、もう1タッチしたときを奪ったという定義にして集計しました。こちらも数字が背番号になります。

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 奪取した位置に注目すると、前半より後半の方がわずかに敵陣でボールを奪えていたようです。全体を見ると、前半の方が縦にコンパクトなのに対し、後半は縦横に広がっています。また、前半は右サイドでの奪取が多かった。これらのことから、互いに統率された守備をしていた前半、大味になって深い位置での応酬が多くなった後半と言えるでしょう。

 次に回数を見てみましょう。こちらは前後半で奪取数は変わりませんでした。後半になって極端にプレス精度が落ちたということはなさそうです。(互いに疲れてミスが増えたという見方もできますが…)人別に見てみると、鈴木冬一の奪取数が下がり、古林や岡本の奪取数が後半に伸びたことが目立ちます。マリノスは前半、右サイド中心に攻めていたために鈴木の数が伸び、後半は左サイド中心に攻めたことによって古林や岡本の数が伸びたのだと思います。渓太の途中出場と仲川の途中交代が影響したとも見れるかもしれません。菊地は相変わらず素晴らしいボール奪取を見せていました。走行距離も13km近くと、攻守に渡って奮迅していたことがわかります。

 以上より、マリノスが前半危険なエリアを使えなかったわけでもなく、後半湘南のボール奪取回数が減ったり位置が下がったりすることもなかったことがわかりました。つまり、自分が思っていたほど前半悪くなかったみたいですね…ボールを受けることはできていたので、あとはどうフィニッシュに持っていくか。撤退が早い相手の場合どうやって攻略するかが大事になるのかもしれません。

7.スタッツ

■トラッキングデータ

 坂、岡本、鈴木冬一、菊地、古林が走行距離10km越え。坂、大野、岡本、鈴木冬一の4バックのスプリント回数が15回越えと、4バックと両ボランチがいかに早く撤退していたかが数値からもわかります。対するマリノスも3トップがスプリント回数20回越えと、こちらもカウンターでよく走っていたことがわかります。

■チームスタッツ

8.おわりに

 さて、色々見てきましたが色々なたらればがあった試合だったように思います。前半3分の古林のゴールがオフサイドによって無効にならなかったら。15分の古林からのクロスにチアゴが触れていなかったら。18分のコーナーからの折り返し、山口のシュートをパギがセーブできていなかったら。22分の中央からの崩し、チアゴの伸ばした足が届かずに菊地へ渡っていたら。先制点を許したかもしれないシーンは多くあったように感じます。もし先に失点してしまっていたら、全然違う試合展開が待っていたかもしれないですね。

 監督交代が遅れてこのタイミングになったこと。台風19号の影響で馬入のグラウンドが使えなかったこと。金子が出場停止だったこと。もっと練習時間を取れ、消耗が激しいボランチにも本職のバックアッパーがいればこの4-4-2はもっと嫌なものになったでしょう。守備の整備はある程度できていましたが、攻撃は不慣れな部分が散見されました。どこから攻めようか迷っていたように思います。いつもやっていた位置と違ったので、山﨑と古林は困惑していたのではないでしょうか。ここを煮詰める時間がなかったのは、マリノスにとって運が良かったです。

 前節のジュビロ戦に引き続き、どちらに転んでもおかしくない試合をものにすることができました。気付けば首位との勝点差も1に迫り、優勝が前より現実味を帯びてきています。巡り合わせもいい今季のリーグ戦。残り5試合を1つずつ乗り越え、その先に待っているものを楽しみにしたいです。

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