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【2019 J1 第21節】横浜F・マリノスvs清水エスパルス マッチレビュー

1.はじめに

 前節神戸戦において、途中で10人になりながらも日本平での反省を活かして勝利をおさめたマリノス。続く翌週にはマンチェスターシティとのフレンドリーマッチを挟み、今節は清水エスパルスが相手です。

 フレンドリーマッチの反響がすごく、#シティズンおいでよ清水戦というハッシュタグが大流行し、各所で様々な動きが。その影響もあり、この日30,000人を越える動員数を記録することができました。招いた側からしても、今後優勝戦線に生き残るためにも、絶対に負けられないこの試合。いつもは現象ありきで説明していますが、今回はデータや考えをベースに綴っていきます。では、いってみましょう。

2.スタメン

■横浜F・マリノス

・陣形はマルコスシステムを継続
・負傷離脱したエジガルに代わり、CFには大津が入る
・出場停止のチアゴに代わって槙人が先発

■清水エスパルス

・北川移籍により空いたトップ下には河井が先発
・立田ではなく新加入の吉本が先発出場

3.清水エスパルスの守り方~取らず抜かせず~

・トップ下が前に出て4-4-2のような陣形でブロックを敷く
・ボールサイドのFWはCBへ寄せる
・逆サイドのFWは逆サイドのCHにつく
・両SHは相手両SBにつく
・両CHはボールサイドのCHにつく
マルコスには吉本や竹内がずれて対応
・後ろの4バックはボールサイドへずれてコンパクトな陣形を保つ

 清水の守備時の陣形はトップ下である河井を前に出して4-4-2の陣形を敷き、ブロックを作って相手がくるのを待ち構える形でした。2トップの役割としては、ボールサイドにいるFWがボールを保持しているCBに寄せ、反対のFWは逆サイドにいるCHにマークにつきます。逆にいるCBへはマークにいかず、そこに通される分には構わないといった割り切り方でした。

 中盤の4人は、オリジナルポジションに位置して待ち構える。ボールが近付いたとき、自分の前に入ってきた人に対して出ていって寄せるボールが離れるまでは寄せた人にどこまでもついていく。といった守備方法を取っていました。マリノスとの噛み合わせ上、上図のようにSHがSBに、CHがCHにマンツーマンでついているような状況が多かったです。畠中がいる都合上左からの展開が多く、ヘナトが扇原やティーラトンからボールを刈り取る姿が印象的でした。マルコスも左に流れることが多く、浮いた彼をマークするのは竹内が右にずれて対応するか、吉本が前に出て対応することが多かったです。吉本が前に出てきたときは瞬間的に後方が同数になりますが、そこへのルートを消していたこともあり、リスクは許容していたようです。

 後方に控える4バックはボールがある方向にスライドし、逆サイドは捨てる守り方でした。逆サイドはある程度やられても構わないので、中央を封鎖しようという意識が強かったように思います。この4人は前に出て対応することと、マンツーマンでどこまでもという意識が非常に強く、一度捕まえた相手を放すことはほとんどありませんでした。

 全体として、ボールが入った相手へ素早く寄せて時間とスペースを奪うが、ボールを積極的には取りにいかず、振り向かせないことと抜かれないことを重視してプレスをかけていました。自分たちで能動的にボールを奪いにいかない ”待ちの守備” を選択してきました。素早く寄せていくけど、ボールを取りにはいかないので戻すことはできる状態でしたが、振り向かせてもらえないことと、寄せも早いためにボールを前進させるのには大変苦労しました。また、抜かれたとしても中央は絶対に封鎖しようと、4バックの横幅は基本的にペナルティエリア幅。中央封鎖されてサイドからしか前進できず、そこを突破できたとしてもペナルティエリアを固められているのでシュートまでいけない。特に前半はチャンスらしいチャンスがほとんどありませんでした。

 その硬い中央封鎖の意思はスタッツにも表れていました。

■噛み合わせから見るデュエル勝率

・マルコスと大津に対しては相手両CBが圧勝
・渓太とエウシーニョは同じ勝率、仲川も松原と競っている
他はマリノスの圧勝

 全体を見てみると、基本的にはマリノスが圧勝している組み合わせが多いです。中盤より後ろは基本的に勝っているため、相手に抜かれていないことがわかります。あまり多くのチャンスを相手に作らせなかったことは1対1(特に空中戦)で勝っていたからなのでしょう。

 翻って、前方を見てみると両翼は相手と互角だったり、ちょっとだけ勝っていたりと、競っている状況です。マルコスと大津に関しては、相手CBの圧勝となっています。特に大津は0%なので、完全に相手CBにおさえられていたと言っていいでしょう。

 清水にとってみれば、前方では相手に剥がされたり、競り負けてたりしていましたが、最後の砦となるディフェンスラインで食い止められていたということになるでしょう。

■清水の選手たちのインターセプト回数とクリア回数

両CBと竹内の回数が多い
・ドウグラスが多いのはセットプレーの守備だと思われる

 赤字がクリア回数、黄字がインターセプト回数になります。この値についても両CBの数値が特筆して高かったです。特に二見は合わせて10回と、すさまじい回数を記録していました。その他でも竹内とドウグラスの回数が多かったです。竹内のインターセプト回数が多いことはこの試合でカバーしていた範囲の広さを考えると驚愕の数値です。ポジショニングの良さが伺えます。ドウグラスのクリア回数が多いのは、セットプレーの守備の影響だと思われます。

 この値についても両CBが特筆したものを記録していました。最後の部分を攻略できず、跳ね返され続けてきたことが伺えます。

4.失点シーンについて~出せるけど出さない選択をする勇気~

 この待ちの守備に対して、こちらのパスミスから失点をしてしまいました。まさに清水狙い通りの得点だったかと思います。

 こちらは失点する直前の後半49分ごろのシーンになります。

 槙人からマルコスのパスを相手に奪われ、ディフェンスラインの裏を抜けた西澤にボールが入り、パギとの1対1を決められて失点しました。そのきっかけとなった槙人がパスを出したときの盤面が上図になります。

 このときゴールキックから始まっていたため、後方にいた畠中がまだ上がっている途中でした。そのためオフサイドラインは畠中となり、ボールを持っている槙人の背後には、オフサイドにならずに飛び出すことができる危険なスペースがありました。たしかにマルコスへのパスコースは空いていましたが、そこは敵も多く密集している地帯。少しでもパスがずれれば相手にボールを取られ、まだ上がり切っていないディフェンスラインの後方を使われるリスクも負っていました。こういった背景がありましたが、槙人のパスはマルコスの左側に少しずれてしまいました。その方向は味方が全くいない状態。すぐに相手に取り囲まれ、ボールを奪われてしまいました。

 たらればを考えると「このパスが左ではなく右にずれていたら…」と思ってしまいます。そちらにずれても広瀬がいたため、すぐに危険になる可能性は少し下がったかもしれません。ボールを奪われても中央ではなく外側ですしね。もう1つは、この状況でマルコスにパスを出さず、パギに下げることです。前に出すことができる状況だとしても、後ろが整っていなければ失ったときのリスクは高まる。ビハインド時ならこのリスクを冒すこともわかりますが、同点の状況かつ奪いにきていない相手に対しては少し軽率だったと感じてしまいます。これは槙人にとってもいい勉強になったかと思います。 "出せるけど出さない勇気" は今後も問われる機会があるでしょう。

5.マルコスシステムと逆三角形システムの比較

 この試合、マルコスシステムを使用している時間帯はあまり攻めることができなく、三好を投入してからの逆三角形システムに変更してからの方が攻めることができていたように思います。どのくらいうまくいっていたのかを比較するため、それぞれパスマップを作成してみました。

■マルコスシステム

 マルコスシステムのパスマップは前半20~40分までの20分間の成功パスを集計しました。左がパスの出し手、上がパスの受け手になります。例えば、パギから畠中へ出したパス数は7となります。

 数値や図を見てわかる通り、ディフェンスラインのパス回しが特に多いことになります。出し手としても、受け手としても畠中と槙人の数は20を越える大きな数値を記録していました。また、広瀬や扇原のパス数も多く、いかに前線に出せなかったかがわかります。パスを出す方向も外に誘導されていることが図を見ても伺えるため、清水の中央を守るディフェンスに苦戦して後ろで相手を伺いつつパスを出していた印象はあっていたようです。

 また、扇原やティーラトンにパスが集まっていますが、そこから前にパスがあまり出ていないため、ヘナトや金子に振り向かせてもらえなかったこともわかります。

 こちらはFootball LABのヒートマップになります。先ほど述べたサイド誘導され、そこからの前進に詰まってボールを下げているといった様子がこのようにヒートマップにも出ています。特にゴール前は壊滅的で、中央はほとんど色がついてないか、非常に薄い状態でした。

 なぜボールが前進できなかったかというと、マルコスシステムは中央の選手のローテーションにより、まず中央からボールを運び、最後の選択として3トップを交えて相手に選択を迫るシステムだからだと考えています。基本的には「マルコス+CH+SB」から成る2つの三角形で選手がローテーションします。このローテーションにより、中央へボールを運ぶことが目的です。それをスムーズにするため、3トップは幅を取って前方に張ることにより相手をピン留め。そのため、選手が動き回るのは中盤で、前線は動かずに構えています。今回清水は、マルコスに対してCBの吉本やCHの竹内を駆り出すほど中央を封鎖する意識が強かったです。中央から突破しようとするマリノスと中央をブロックしようとする清水。正々堂々と勝負を挑んでいる形になりますが、これに敗北。外から回り込もうにも、WGは動かないため、相手SBは非常に守りやすい状況。外回しにボールを運んでも後ろに戻すしかありませんでした。

■逆三角形システム

 マルコスシステムがうまくいかないと踏んだ監督は、後半64分ごろから扇原に代えて三好を投入。中盤を逆三角形の形にし、攻勢に出ようとしました。今度は逆三角形になってからの後半65~85分の20分間の成功パスを集計し、パスマップを作成しました。

 マルコスシステムと比べて明らかに前でのパスが増えたことがわかります。パスの出し手としても、受け手としても高い数値を記録したのは、広瀬、喜田、ティーラトンの3選手です。内側へ絞った両SBとアンカーの3人でゲームを支配したことから、三好やマルコスへのパスも増えます。IHにパスが通ることにより、ペナルティエリア角であるハーフスペースを攻めることができるようになりました。チャンスも多く作れていたかと思います。

 惜しいシーンもありましたが同点に追いつけず、これではまずいと思った篠田監督は、立田を投入して5バックに。全体を5-4-1として逃げ切りを図りました。この5バックが曲者で、横を広げて5レーンを埋めるのかと思いきや、ペナルティエリア幅でいることは変わらず、中央の3レーンを5人で埋めていたため、スペースを得ることが難しかったです。ここをこじ開けるのは今後も課題になりそうです。

 こちらが後半のヒートマップになります。ここからも前でプレーできるようになったことが伺えます。実際シュート数も増えており、マルコスシステムの間である0~60分までで3本。逆三角形システムの時間が長かった61~90分までは8本でした。

 逆三角形システムは「WG+IH+SB」の2つの三角形で選手がローテーションします。このローテーションによって相手ディフェンスラインを動かせたことがうまくいった要因の1つ。もう1つは中盤の高い位置に選手を2人配置することにより、相手CHを押し下げることができ、ペナルティエリアの角を使えるようになったからだと思います。

 相手が奪いに来る守備をしなかったこともあり、安全にビルドアップするためにCHを2人配置するより、アンカー1人にしても大きなリスクがなく効果的でした。また、サイドの選手もローテーションするため、相手のSBを引っ張ることができる。ハーフスペースに侵入できるので相手CBを釣り出すことができる。結果論ですが、今節の清水に対してはこちらの方が効果的だったように思います。

6.スタッツ

■トラッキングデータ

 この数値で特別抜けているのが竹内の数値です。走行距離はヘナトと同じく11km越えを記録。スプリント回数は中央の選手にも関わらず26回と、サイドの選手である仲川や広瀬とほぼ同じ記録でした。河井も65分までで8kmも走っており、いかに中央封鎖のため走りぬいていたかが数値からも伺えます。90分間待ち構えるミドルプレスを持続できたことは素晴らしいプレーだったと共に、大いに苦しめられました。

■チームスタッツ

7.おわりに

 清水の待ち構えるけど寄せは素早く、時間とスペースを与えない。しかも中央は絶対に通さない硬い守備に最後まで手を焼きました。マルコスシステムから逆三角形にしたことにより、攻撃の糸口を掴めたので、対戦相手のやり方や傾向に合わせて使い分けができるといいのかと思います。

 今回の場合は、前線で時間とスペースを与えられなかったため、CHやSBが上がる頻度が低く、前に人数をかけることができなかったために相手ディフェンスラインを動かすことができなかった。これが崩せなかった要因のように思います。相手のやり方やシステムというより、守り方や選手の質の差により。 "どこで時間とスペースの貯金を作れるのか" によって使い分けるのかな?とぼんやり思っています。ここはまだフワフワしているので、考えを詰めていきたいです。

 そして次の対戦相手である鹿島も中央封鎖の4-4-2です。守り方も質の高さにものをいわせたデュエルを好むため、清水に似ていると思います。(待ち構える守備か、奪いに来るかはわかりませんが…)近いうちにまた同じ難敵にぶち当たるこの状況。復習した成果が問われると思います。直接の優勝争いをしている相手でもあるため、絶対に勝ちたい試合。この敗戦を糧にできると期待しましょう。


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