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【2019 J1 第26節】横浜F・マリノスvsサンフレッチェ広島 マッチレビュー

1.はじめに

 前節、ガンバの柔軟なフォーメーション変更による苦戦を乗り越えて連勝を掴んだマリノス。今節は残り試合でも大事、もしかしたら今シーズン最重要な試合になるかもしれないサンフレッチェ広島が相手です。再び訪れた6ポイントゲーム。今後優勝戦線に生き残るための戦いが再び幕を下ろします。では、いってみましょう。

2.スタメン

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■横浜F・マリノス

・代表帰りのティーラトン、畠中、渓太が先発
・広瀬の怪我からか、松原が札幌戦ぶりの先発出場
・前節怪我をしたマテウスは回復してベンチ入り

■サンフレッチェ広島

・CFが負傷者続出、代役は渡
・森島もベンチスタート、ボランチに青山を入れて川辺をシャドーに

3.前半の広島ディフェンス~諦めた前から守備~

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・全体的に時計回りになり4-4-2に近い布陣
・前線は同数で高い位置からの奪取を狙う
・噛み合わせの都合上、マルコスが浮く
・エリキが内側を好むため、柏を高い位置に上げられる

 試合開始当初、広島は全体を時計回しにして5-4-1ではなく4-4-2に近い布陣で守備をしてきました。なぜそのようなアグレッシブな守備ができたかというと、エリキが外に張るのではなく、内側を好み中に位置することが多かったからです。その位置だと佐々木が自然と見ることができ、わざわざ柏が外側にいる必要もないため、1列高い位置に上がることができる。それにつれてシャドーの東も1列上げて後方の余剰をなくしていました。その結果、前方から相手とキッチリ噛み合い、ディフェンスライン+ボランチの6人をマンツーマンで見ることができます。こちらのビルドアップを狙うように、前から激しくプレスをかけてきました。

 しかし、こうすると最早お馴染み。マルコスがフリーになるため、相手を左右に振り、隙間を作ってマルコスへボールを届けてチャンスを作ることができました。

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 こちらは前半7分ごろのシーンになります。

 青山と稲垣はボランチの位置にいるティーラトンと喜田をそれぞれ捕まえようと前進。そのため相手ディフェンスラインと中盤の間に入り込んだマルコスはフリーでした。わずかな隙間でもピタッとパスを出せる畠中はマルコスへ縦パスを出す。ボールを受けた瞬間、荒木の視線はそちらへ向く。そんな荒木の後方では死角から仲川が裏にランニング。タイミング抜群の浮き球を仲川へ送り、大きなチャンスになりました。

 このように、浮いたマルコスを起点に攻められることが増え、広島は守備のやり方を変えてきました。

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マルコスを捕まえるため、ボランチが1列下がる
・重心が下がったため、柏もディフェンスラインに下がって5バックに
・必ず片方のボランチがマルコスを見て、もう片方は相手ボランチに対応

 フリーなマルコスを捕まえることを優先し、両ボランチが1列下がりました。片方のボランチは必ずマルコスを見る。もう片方のボランチは前に出て相手ボランチへ対応。両脇はシャドーが見ることに。また、重心が下がったことにより柏が前に出るスペースもなくなったため、ディフェンスラインに吸収されるようになりました。先ほどまでは4-4-2のような布陣でしたが、今度は5-4-1という守備的な布陣に変更。前から奪ってショートカウンターを狙うことより、失点しないために自陣にブロックを作り、守備を固めることを優先してきた形です。

 このようにこもられるとそれをこじ開けることは難しく、マルコスが塞がれたこともあって試合は膠着してしまいました。広島が後半勝負に賭けているのかはわかりませんが、早いマリノスペースではなく、テンポを殺すゆっくりしたものに切り替えたかったのだと思います。そして狙い通り、スコアレスで前半を折り返します。

4.エリキが幅を取る影響

■前半:内側にいることにより攻守にずれる

 前半、エリキは外側に張るのではなく、仲川のすぐ横にいるくらい内側へ絞ってプレーすることが多かったです。そのため右サイドは幅が取れず、外側にいる柏ではなく、内側にいる佐々木が易々と守れる状況でした。

 そして、攻守は表裏一体なのがサッカーです。内側にいる影響は守備にも出ていました。ハイプレスの際、エリキは佐々木に寄せるのではなく、荒木に寄せることだったり、外側にいる柏ではなく、佐々木に寄せることが多かったです。この守備のため、後方がカバーして右側にずれることが前半多発。例えば、エリキは荒木に寄せますが、大迫はその頭上を越すパスで佐々木へボールを提供。これによって前に出ることができなくなりハイプレスを途絶。松原が柏、喜田が東を見ることになってしまいます。また、相方のボランチもスライドするため、全体として大きく右に寄った陣形となってしまう。広島が狙うわけでもなく、こちらの守備の都合上でオーバーロード状態が作られ、逆サイドにいるハイネルがアイソレーションするということがありました。

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 エリキのネガトラ遅れにより、全体が右にオーバーロードした状態になったのが、前半38分ごろのシーンになります。

 攻撃後、エリキが中々戻らないため、上がってきた佐々木に喜田が対応。後方にいる東は松原が見る。また、仲川もヘルプで戻っていたため、マリノスの選手たちは右サイドに多く固まることに。また、喜田が右の大外に駆り出されたため、中央を埋めるために扇原も右にスライドしています。全体として押し下げられ、右サイドにオーバーロードしている状態。そこから佐々木は後方にいる柏へ戻し、柏は荒木へパス。仲川が戻っていたため、荒木へはノープレッシャーです。逆サイドでフリーになっているハイネルを確認し、正確なボールを蹴る余裕がありました。そこへキレイなロブパスを送り、ハイネルは右サイド深くまで侵入。クロスを上げられてしまいました。

■後半:幅を取るだけで相手に負担をかける

 そのままではまずいと指示を受けたのか、後半は内側へ入ることをやめ、外に張るようになりました。たったそれだけの行動ですが、効果は絶大。外側にいるため、佐々木が外に広がって対応するか、柏が戻ってきて対応することを相手に強いれるようになります。前者は荒木と佐々木の間が開いてスペースができること。後者は攻撃に労力を割かせたいエースを後ろに下げてしまうことが広島にとってのデメリットでした。これにより、広島の左サイドの脅威は前半に比べて下がりました。

 また、守備面でも効果覿面。エリキは外にいる佐々木や柏を主に見るようになり、マリノス守備陣が不用意に右サイドに寄ることが減りました。守備時に出ていかず、仲川やマルコスに行ってくれと指示している姿もスタンドから確認できました。

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 こちらはエリキが幅を取るようになって効果的な攻撃を行った、後半53分ごろのシーンになります。

 松原は右大外でフリーになっているエリキへ長いパス。柏が松原に出ていたため、外への対応に出向いたのは佐々木でした。佐々木が外に開いたことにより、荒木との距離が大きく空いてポッカリとスペースができあがります。そこを全力で駆け抜けたのはマルコス。そのままハーフスペースを抜けてローポストへ侵入してチャンスを作り出しました。

 このように、中長距離のパスを出せる松原はエリキに近付かないため、右大外にエリキをアイソレーションさせることができます。広瀬のようにコンビネーションで崩すようなSBより、相手と1対1の状況にし、広大なスペースを与えたほうが彼は活きるのかもしれません。そうなると、松原は最適な相棒と言えるのではないでしょうか。

 エリキはただ外に張るようになっただけです。これだけで絶大な効果を発揮します。前節からそうですが、エリキは誰かに指示されないと内側でプレーする癖があります。主に指示出ししている喜田が次節出場停止なので、そろそろ独り立ちできないと次節苦労することになるでしょう。この中断期間でマリノスのWGとしての役割を体に染みつくことを願ってます。

5.完璧だった松原の柏対応

 この試合、柏が左大外で裏を取ろうとしたシーンが何度かありましたが、松原の素晴らしい対応でそれをことごとく潰していたことが印象的でした。

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 こちらは後半52分ごろのシーンになります。

 左サイドに大きく寄ったマリノスをかわし、荒木から東へパスが入りました。このとき一番近かったのは松原でしたが、彼は東に出ていかず、後方へ下がることを選択しました。一見相手を見逃して自由にしているように見えますが、この後退は柏を最大限に警戒した行動です。

 松原が後ろに下がることにより、柏が取っていた後方のスペースが狭まり、裏を取ることが難しくなりました。また、松原に合わせてチアゴや畠中も後退。中央から東に突破されない体制を整え、味方の戻りを待って東への対応を待っていました。

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 仮に松原が東へ出ていった場合、後方のスペースが肥大化し、柏に裏を取られてしまいます。東にしてみれば、一瞬でも松原を外せれば柏へパスを出して大チャンスを作れる状況。こうなると大きなピンチとなってしまいます。

 これと似たような場面が、後半60分、71分にも見れました。相手のエースである柏対策として、事前に考えられていた対応だったのかもしれません。この試合、松原はこのような柏への対応を1度も間違えず行っていました。無失点で抑えられたことは、彼の働きが大きかったと言えるでしょう。

6.スタッツ

■トラッキングデータ

■チームスタッツ

7.おわりに

 試合前は堅守の広島に苦戦するものと思っていましたが、終わってみれば3-0の快勝でした。去年の頭が痛くなる思い出ときれいに払拭できましたね。また、この勝利と鹿島が勝ったことにより上位との差はググっと縮まりました。

 前半開始直後の激しい前プレに屈しないこと。相手の狙いである試合を殺すようなゆっくりしたペースに合わせず、最後までマリノス特融のテンポの高さをキープできたこともチームが主体的に戦えるようになった成長の証だと思います。ボールを奪ったら相手ゴールへすぐ迫る。守備ではハイラインをキープすることと、ボールを奪われたら即時奪回をかけるハイプレスをかけること。これらにより、前方では裏を狙え、後方は苦しくなるのでゆっくり回していられない。結果的にボールを蹴らせ、相手のターンを少なくできたことが大きかったです。また1週空くので、その期間を休養や戦術理解に充て、よりチームとして大きな姿を見れればなと思います。

 次は天皇杯鹿島戦です。今後リーグで直接対決することのない優勝争いをする相手。リーグの勝点に直接影響しませんが、こちらを波に乗せることと、相手の意気を削ぐことができるため、天皇杯だけでなく、リーグタイトルという意味でも大事な一戦だと感じています。

 また、次のリーグ戦はアウェイ仙台戦。喜田とティーラトンがイエローカード累積により出場停止と、チームの大黒柱が不在の中、控えを含む総合力を試されます。相手のシステムも変わっており、一味違った試合になると思います。チームが波に乗っている今、我らも応援で後押しし、天皇杯ベスト8進出と、リーグ4連勝を勝ち取りましょう!

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