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【2019 J1 第9節】横浜F・マリノスvs鹿島アントラーズ マッチレビュー

1.はじめに

平成最後の試合。奇しくも対戦相手はオリジナル10の鹿島アントラーズ。互いにリーグ降格の経験がない古豪同士。クラブW杯でもいい試合をしたことが記憶に新しいですね。

昨季に金崎、植田、昌子と、主力が複数人移籍し、過渡期にある鹿島。
新戦力を加えながら、昨季の攻撃的サッカーを浸透させつつあるマリノス。
昨季は硬い守備に大変苦しめられましたが、チーム事情や状況が変わる今季はどうなったでしょうか。
The CLASSIC、振り返ってみましょう。

2.スタメン

■横浜F・マリノス

・最前線のCFはマルコス
・渓太が名古屋戦ぶりのリーグ先発起用
・ルヴァン杯で好パフォーマンスだった和田が先発
・負傷離脱していたパギが先発に復帰

■鹿島アントラーズ

・SBに負傷者を多く抱える中、永木を右SBで起用
・空いたボランチには三竿健斗を起用
・翔さん日産に凱旋

3.違和感のあった前半

鹿島アントラーズの守備は4-4-2のブロックを後方に形成。マリノスの選手たちにはハーフェーラインまでの持ち上がりを許します。そこからプレスにくるのではなく、CBやアンカーからの縦パスに対してリアクションするという、受け身な守り方でした。そのため、後方の4-4のブロックを締めるために重心は低く、2トップがCB、アンカー、SBのいずれかの選手に何となく対応にくるくらいで、明確な限定は最前線からはかけてきませんでした。

そういった相手の対応の中、マリノスのインサイドハーフの選手の動きに違和感を大きく感じました。

こちらは前半2分ごろのシーンになります。

前述した通り、2トップの寄せはかなり甘いため、CBやアンカーはビルドアップ時の補助をあまり必要とせず、自身がボールをドリブルすることによって持ち運ぶのが容易な状況でした。

それにも関わらず、左インサイドハーフの天野はよく後ろに下りてきてビルドアップに参加していました。
代わりに空いた箇所は和田が入ることによって高い位置を取ります。本来的なSBの仕事を得意とする和田は、大外を駆け上がってのクロスや、中に入ったとしてもショートパスを繋ぐことが多く、ハーフスペースの深くを攻撃することはあまりありませんでした。
相手のペナルティエリアの角に走り込む選手が不在なため、サイドの攻略は渓太のカットインが主になります。また、ハーフスペース深くに人がいないため、相手のボランチやCBを釣り出すことができず、中央をガッチリ塞がれてしまっていました

反対サイドの三好もビルドアップ時に大外に開く頻度が高いことが目立ちました。中央に広瀬が上がるか、仲川やマルコスが下りればいいですが、広瀬はあまりそこへは上がらず、また、仲川やマルコスが下りた場合は最前線の人数が不足し、脅威が減ってしまいました。

中央にいるレオ・シルバは見る選手である三好はサイドハーフに任せられるため、自身は中央を自由に守ることができていました。
この場合、天野が和田のいる位置に入り、大外に和田がいたほうがよかったように思います。

こちらは失点をした前半10分ごろのシーンになります。

前述しました通り、インサイドハーフのポジショニングに違和感があったことの影響か、このとき、喜田の周りは味方選手がおらず、中央にぽっかりと空間ができている状態でした。
ここでボールをロストして相手に取られましたが、相手ともつれてこぼれたとき、周囲にいる選手が相手のみのため、こぼれ球を拾われるのも必然という状況。近すぎてもダメですが、この時はちょっと味方が遠かったように思います。

ボールを奪ったレオ・シルバ。前にこちらの選手がいないことを確認したため、ドリブルによってボールを持ち上がりました。これによって、戻った喜田、チアゴ、広瀬の3人を引き付けました。奪ってすぐにパスをした場合、このように人を引っ張ってくることはできず、相手ブロックを崩すことが難しくなります。この持ち上がりを迷いなく選択したことはさすがですし、非常に効果的な攻撃でした。

3人を引き付けたレオ・シルバは外を上がった白崎にパスを出します。この対応のため、広瀬は外にズレて白崎へ対応に行きます。
しかしこのとき、既に安西が大外をスプリントして上がってきていました。この試合、カウンター気味で相手ブロックが整っておらず、広瀬が白崎に対応した場合、安西は必ず全力疾走で大外を駆け上がってきていました。

このスプリントに仲川が対応することはなく、またもや広瀬がこれを見ようと反転して走り出しましたが、最初から前を向いて全力疾走している相手に追いつけるわけもなく、ボールを受け取った安西にそのままカットインされ、シュートを決められてしまいました。

①レオ・シルバ
②白崎
③安西

広瀬は短い時間の中、上記3選手へ対応を変えていました。
3人がかりで1人を攻撃した形となり、さすがに広瀬の対応キャパを越えてしまっています。
手段の1つとしてはWGが戻ってきてマークにつくことでしょうが、何かしらの決め事をチームで設定しないと対応が難しいことのように思いますので、そのあたりの修正を期待したいです。

4.修正した後半

後半になって、前半にて指摘した、インサイドハーフの位置取りが適切なものになっていたように思います。
天野は下りる頻度が明らかに減り、三好は大外に開くより、ハーフスペースでの位置取りが増えました。正確ではないですが、人力大雑把計測によると、天野がビルドアップ時に下りていたのは、前半は6回でしたが、後半は2回のみでした。後半は前方での仕事に従事できたことが伺えます。

①和田へボールを落とし、自身はハーフスペースへ走る
②和田は渓太へパス
③渓太はパスし、中央へ移動
④天野は中央へ入った渓太に落とす

こちらは後半59分ごろのシーンになります。

前での仕事が増えた天野。後方にいる和田にボールを落とし、自身はハーフスペースに走り込み、ペナルティエリア脇へ移動。和田は大外にいる渓太にパスを出す。天野の走り込みにより、中央にいたボランチの三竿をサイドに釣り出せたので、渓太は天野にパスを出した後、空いた中央へ走る。そこへ天野がボールを落とし、チャンスになった場面でした。

このペナルティエリア脇を突くことが天野は非常にうまく、この飛び出しにより、相手中央のボランチやCBを引き出すことに成功していました。これにより硬い中央が空くため、そこへ選手が入り込む形が後半増えたと思います。中央の攻略が増え、前半よりもチャンスの回数が多かったのは天野が前にいたことが大きかったです。

こちらは同点になった後半68分ごろのシーンになります。

相手ゴールキックが犬飼に入り、それを阿部に繋いだところに和田が対応に行きました。このとき、近くにいた天野やマルコスがボールを奪えるとみなし、3人で囲い込みました。このハイプレスが奏功し、苦し紛れの中央へのパスを狙っていた喜田がカットしました。そのまま中央から仲川まで繋ぎ、シュートによって同点に追いついた場面になります。

前節の三好最前線起用の際には見られなかったハイプレス。機動力のあるマルコスがいたからこそできたボール奪取からの得点だったと思います。

5.スタッツ

■トラッキングデータ

この試合一番走っていたのは和田だったようですね。攻守に渡り安定したプレーだったように思いますが、走りでも貢献していたみたいです。
また、3トップのスプリント数が全員20回越えでした。攻撃時の飛び出しや、守備時の追い込みで全力疾走をして貢献していたことがわかります。

■チームスタッツ

(左:マリノス 右:アントラーズ)

・前半

こちらが前半のスタッツになります。
ボールはほとんど保持できていましたが、シュート数は4本、エリア内は2本と、パスを多く回せていた割にはチャンスが少なかった前半でした。

・後半

こちらが後半のスタッツになります。
ボール保持率とパス数は若干下がりましたが、シュート数が12本と前半の3倍でした。エリア内シュートも5倍の10本と、後半修正ができ、チャンスが増えたことが数値からもわかるかと思います。

■個人スタッツ

畠中のスタッツになります。
成功パス数が3桁の109本、ロングボールも9本中6本成功と、相手2トップからのプレッシャーが少なく、持ち上がりなど含め自由に行えたことが数値からもわかります。しれっとキーパス1本もあるのが恐ろしいですね…

後半チャンスを量産していた天野のスタッツになります。
成功パス数72本、キーパス2本、クロス10本と、後半になって攻撃に多大な貢献をしていたことが数値からも見えます。調子が上がっているように思えるので、次節も期待したいですね。

6.おわりに

うまくいかずに先制された前半。修正して逆転に成功した後半。自分たちで考え、試合をひっくり返したことは勝利以上に大きな価値があると思います。しかも勝負巧者である鹿島相手に。課題は勝ちを続けることの安定性が今季見られないことなので、次節で勝利できるかどうかが大事になると感じています。

この試合先発で好パフォーマンスを披露していた和田。まだ天野と動きが被ったり、不用意に中央に入ることはありますが、それでも特殊なマリノスのSBに早くも適応していると言えるかと思います。彼の長所は安定した1対1の守備だと思います。ぜひ!前半6分ごろの阿部との1対1を見ていただきたいです!すぐに滑らず、最後まで相手を見てじっと動かず粘り強く対応していたのは、今のマリノスのSBでは最大の武器だと思います。
安定性の和田、MFのような攻撃性の広瀬、後方からの刺すような中距離パスの松原、距離問わずパス精度が高いティーラトンと、それぞれの強みがはっきりしていて分かれているため、相手によって先発を変えることが可能な陣容なのはチームの強みなのではないでしょうか。

しかしそんな和田を契約上の関係で起用できない次節広島。平成最後の勝利の勢いを持ち越し、令和初の勝利をもぎ取りたいところですね!

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