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【2019 J1 第24節】名古屋グランパスvs横浜F・マリノス ゆるれびゅ~

1.はじめに

 前節セレッソ大阪に敗れ3連敗。新戦力のエリキとマテウスは攻撃性能の高さを存分に見せてくれましたが、守備の不安定さも露呈。より攻撃に振り切った印象のあるマリノスでした。次なる試合はアウェイ名古屋戦です。互いにボールを保持し、攻撃に定評のあるチーム同士のマッチング。前回対戦はノーガード戦法で殴り合う展開でしたが、今回はどうなるでしょうか。では、いってみましょう。

 通常レビューはこちらになります。

2.スタメン

■名古屋グランパス

・丸山が怪我から復帰して先発
・それ以外は前節と同じメンバー

■横浜F・マリノス

・マテウスは契約条項上出場できず、渓太が先発出場
・並びが変わり、エリキが右サイド、仲川がワントップ、マルコスがトップ下
・扇原が出場停止明けで先発に復帰

3.名古屋の守備とマリノスの攻撃

 名古屋の守備はボールが敵陣にあるときと自陣にあるときで、対応の仕方が少し違っていました。それぞれ見ていきましょう。

■敵陣での守備

ほぼ全てで1対1の状況
・ネットとシミッチは前に出て喜田か扇原をマーク
・浮いたマルコスには丸山か中谷のどちらかが対応
・守備への切り替え時は、前線の人の多さを活かしてすぐに奪いに行く

 ボールがマリノス陣内にあるときは2トップと中盤4人の計6人が「おらー!前から奪い取ってやる!」と猛烈なアプローチを仕掛けてきます。ただ、あまりにも前に出るので、後ろにいるマルコスはポツンと一人ぼっち。けどそんなマルコスくんを放っておくほど名古屋男子は冷たくありません。攻撃的なスタイルということもあり、丸山や中谷が前に出てマークをしていました。

 攻撃していてボールを奪われた場合、守備への切り替えは前にたくさん人がいることもあり、すぐに奪い取ることを目標とします。「ちっ…すぐとれなかったか…」となるとサイドバックは素早く戻り、守備陣形を整えます。

 ほとんど1対1の対応なので、一人をかわすことさえできれば芋づる式に相手を引っ張っては空いたとこへ、引っ張っては空いたとこへ、どんどんパスを繋ぐことができます。ただ、引っかかるとすぐに囲まれてカウンターを受けるため、苦戦することもありました。

■自陣での守備

ボランチは後方へ下がりセンターバックと共に中央を固める
・2トップの戻りは比較的遅め
・そのため扇原や喜田は比較的自由なことが多い
・守備への切り替え時は4バックとボランチの6人はとにかく戻り、前線が戻る時間を稼ぐ

 名古屋陣内にボールがあるときはある程度後方に引っ込みます。外に出ている方が積極的で家に入ると消極的という外弁慶な方なんですね。シミッチとネットはセンターバックと近い位置を取って中央を封鎖。「俺ら攻撃に力使いたい系男子なんだよね。戻るのちょっと待ってて」2人のトップはそこまで素早く戻ってきませんでした。そのためボランチとツートップの間が開き、扇原や喜田は誰からも制約を受けない自由な空間を手にすることができました。

 攻撃していてボールを奪われた場合、自陣に蹴り込まれたら4バックとボランチは一目散に戻ってきました。攻撃していた選手は比較的戻りが遅かったですが、「うおおおお!!広瀬ええ!許すまじ!!」積年の恨みがあるのかわかりませんが、和泉だけは広瀬が上がると全力で戻ってどこまでも追いかけまわしてきました。

■マリノスの攻撃(カウンター以外の遅攻)

マルコスはあまり中央から左右に動かず相手ボランチを縛る
・両翼は外で動かないことにより相手サイドバックを動けなくする
・ボランチやサイドバックがカバーできないためペナルティエリアの角が空く
・左の隙間は扇原やティーラトンが上がって使う頻度高め
・右の隙間は広瀬がたまに上がるかエリキが絞るくらいで使う頻度低め

 この試合、前線4人がアクセル全開で踏み切ったカウンターを相手の急所に突き刺すことがよくできていました。しかし、相手を押し込んで「さあて…どう料理してやろうか…」とじっくりねっとり攻め込む攻撃、いわゆる遅攻はあまり成果を挙げられませんでした。

 マルコスはあまり中央付近から動かずじっとしている。そうすると名古屋ボランチは「他のとこのカバーにいきたいけどマルコスを離すわけにもいかない…くそっ!あまり動けない!」と中央付近を離れることができなくなります。さらにサイドは渓太やエリキが開き、同じように外側に相手サイドバックを押しやる。そうするとボランチとサイドバックの間、すなわちペナルティエリアの脇が空くわけです。(ここをハーフスペースと呼んでいます。)

 左に関しては「よし!俺が行っちゃおう!」と扇原やティーラトンがよく顔を出していましたが、右は広瀬がときどき上がるか、エリキが突っ込むことが少しあるくらいで、あまり活用されませんでした。この日の広瀬は守備対応に追われていたからかもしれないですね。

 飛び出た選手がうまく前線と絡めたときはチャンスを作れていましたが、そうでない場合、マルコス、渓太、エリキ、仲川の4人がほぼ固定砲台と化してるため相手から見ると動きがなく捕まえやすいことになります。選手たちがぐるぐるまわってポジション交換を頻繁に行い、相手選手に迷いを生むことができなかったのが、遅攻が効果的でなかった理由だったのではないでしょうか。

4.名古屋の攻め~選択を迫れるかどうか~

 攻撃時、名古屋は2トップと両方のサイドハーフが最前線まで上がり、外側を空けます。その空いたところへ両方のサイドバックがこんにちは。なんと!最前線に6人を置くハイパーファイヤーフォーメーションだったのです。この攻撃方法、うまくいって超火力でマリノスにアタックすることもあれば、失敗してカウンターを浴びることもありました。

 こちらはうまくボールを奪えた前半18分ごろのシーンになります。

 先ほど言いました通り、前線の4人は最前線に、両サイドバックも高い位置へ出張しています。そうすると後方に残っているのはセンターバックとボランチの4人です。その状況でネットが下がってボールを受けようとしますが、これは扇原にバレバレ。「パスコースはネットしかないな。出るとこそこだけだ。じゃあ奪っちゃおう」迷いなくネットに寄せることができます。これにびっくりしたのか、ネットは中谷にボールを戻しますが、その先は仲川&渓太の包囲網。リターンパスを受けた中谷を囲い込み、ボールを奪い取りました。

 翻って、こちらは相手にうまく前進された前半16分ごろのシーンになります。

 扇原は元々のマークであるネットについていました。そこへ前線にいた前田が下りてきて扇原の横へ。「横にも人がきた!?俺は…どちらへいけばいいんだ…!」突如として色男2人に囲まれた状態です。彼が出した答えはボールに近かった前田にいくことでした。しかし寄せが十分でなく中谷に落とされてしまいます。そうすると先ほど空けたネットへのパスコースが開門。「マークがいなくなって楽になった。今なら受けれるよ」ボールを受けたネットは反転して前を向くことができました。

 魅力的な男性に囲まれるとね、やっぱり迷っちゃうんですよ。このようなホスト2人体制の豪華接待は、ついつい、いいパスを何本か入れちゃいましたよね。「はいー!いただきましたー!スルーパス入りまーす!」みたいな感じ。

5.まずかったマリノスの守備~無法地帯~

 この日目立ったのは守備の無法っぷり。これはどうだったのだろう?と疑問を投げたくなるシーンをいくつか見ていきましょう。

■ラインを上げるタイミング~鹿島戦の過ち再び~

 こちらは前半9分ごろの前田にフリーでヘディングシュートを撃たれた場面になります。

 左サイドをゴリっとえぐる吉田。「これ以上突破されたらたぶんやばいよなぁ…じゃあいったほうがいいのかな?」疑問を抱きながらも、なんとなーく吉田に戻るエリキ。しかしそうすると後方にいるシミッチはフリーに。そこへボールを下げたとき、マリノスの選手たちは一斉にラインを上げました。「お、奥でナオキが空いてる。そこへクロスだ!」フリーなので顔を上げて状況を楽々と確認。これが通りますが残念オフサイド…じゃないいい!?というのも、チアゴがポツンと残っていたからです。みんなが前に行くのに取り残されているような状態。どこか既視感がありませんか?そうです、鹿島戦に勝ち越しゴールを挙げられた場面にそっくりなのです。またしても同じ過ちを繰り返してしまいました…ボールを持っている選手がフリーならラインを上げない。ここは今後整理されるといいですね。

■エリキのフラ~っとした守備対応

 こちらは前半14分ごろのシーンになります。

 エリキは丸山に寄せるでもなく、吉田へ戻ることもなく、なんとなーくフラ~っと動いていました。それを見逃さなかった丸山は外側にいる吉田へパスを通します。「ちっ…しゃーねーな、俺がカバーにいくよ」元々内側を守っていた広瀬が外に出てきてカバーに入る。「よし!内側が空いたな。そこを突き刺してやる!」その隙を和泉が狙います。「まずい!和泉につくべき広瀬は外出中だ。仕方ない、俺がジョーのマークを捨てて対応だ」このカバーに入ったのはジョーをマークしていたチアゴ。でたらめな走力で追いついて何とかできましたが、遅れて畠中がジョーに対応していたこともあり、かなり危険な状況でした。

 1人のずれが3人のずれに繋がったこの場面。「俺基本的にはこっち見るからあっちよろしく」みたいな簡単なルールをエリキに与えてあげれば、こういったことは減るかもしれませんね。

■後ろ少なく前たくさん、これなーんだ

 こちらは前半12分ごろのシーンになります。

 この場面ではカウンターがうまく決まりました。そのきっかけとなったボール奪取の瞬間は上図のような盤面です。まずはディフェンスラインへ目を向けてみましょう。こちらは4人のディフェンダーに対し、相手は5人います。しかも外側にいる宮原は完全にフリーな状態。そのちょっと前を見ても前田がフリーな状態と、かなり危険な配置でした。反対に前線を見てみると、4人のマリノス攻撃人に対し、名古屋はセンターバックの2人のみ。圧倒的に数で勝っています。この状態でボールを取ることができました。そりゃカウンターも決まるわけですね。

 このように、今回の試合は後ろ人少なめ、前多目のやわらかめ守備でした。ハラハラするようなこの博打的な守り方。うまくいけば数にものを言わせた百姓一揆カウンターが相手を脅かしますが、失敗すると即ゴール前とノーガードもいいところ。カウンターが多かったり、自陣深くまで攻められたことが多かったのはこれが理由だったのだと思います。

 では実際どうだったのでしょうか。ということで、前半のボール奪取した箇所を大雑把に集計してみました。ボール奪取の定義は、「相手からボールを奪って1タッチ以上した」というものです。この条件にセットプレーやスローインからのボールは含まず、あくまで「流れの中でマイボールにしたもの」を数え上げました。

 丸の数字がボールを奪った選手の背番号、下にある数値が奪った時間です。緑がインターセプト、青が相手からのボール奪取になります。

 数としてはインターセプトが4回、ボール奪取が10回となります。インターセプトは全て敵陣だったことから、相手陣内での即時奪回が数回成功していることがわかります。これは切り替えの早さと、相手陣内に多くの選手がいた効果ですね。また、ボール奪取は自陣が9回、そのうちペナルティエリア付近のものが6回と、自陣深くで奪ったことがわかります。また、右サイドでの奪取も5回と、右サイドを中心に深く相手に攻められていたことがわかります。エリキと広瀬のサイドが狙われていたことがここからも伺えます。中盤での奪取が極端に少ないので、守備陣形をどう整えるかは今後も課題になっていくでしょう。

6.センターフォワード仲川~テルメンス~

 テルメンスの語源については、ロッドさんのレビューをご参照ください。

 この試合、鹿島戦の後半にちょこっとだけ試した仲川のセンターフォワード起用を仕掛けたアンジェ。2本のPKを奪うなど、相手を大いに苦しめたと思います。では、そのプレーぶりはどうだったのでしょうか。前半仲川へパスを送り、敵陣にてタッチしたものを集計してみました。(最初のPK獲得時のみ、触れてはいませんが、影響度の高いプレーとして例外的に記載しています。)

 オレンジの線がクロス、黄色い線がショートパス、水色の線が相手ディフェンスライン裏へのスルーパスになります。パスの出し手を青で示し、数字は背番号、下にパスを出した時間帯を記載しています。

 クロスに合わせたものが3回、ショートパスを受けたものが5回、裏へのスルーパスを触ったものが2回と、攻撃に様々な形で参加していたことがわかります。出し手を見ると、両翼からクロスを受け、高い位置でマルコスとのコンビで崩し、サイドバックやボランチから縦パスを引き出してビルドアップを助けるなど、こちらも多岐に渡ります。その中でもポストプレーを3回行っていることが注目ポイントではないでしょうか。

 こちらは仲川がポストプレーをした前半7分ごろのシーンになります。

 ティーラトンはマルコスとワンツーし、左サイドを抜けます。仲川は瞬発力の高さを活かし、丸山から離れてます。「なにっ!?速すぎる…!?」その速さにすぐついてはいけず、一瞬フリーな状態に。ティーラトンはそこへパスし、仲川は広瀬へボールを落とします。このポストプレーを受けた広瀬は外にいるエリキへパス。中央にいる仲川を経由することによって左から右へと逆サイドへ展開することができました。

 エジガルは体幹の強さから、相手を背負ってのポストプレーを得意としますが、仲川はスピードを活かして瞬間的に相手から離れてのポストプレーができます。戦車のようにドシっと構えるエジガルと、F1カーのように超速度で動く仲川。やっていることは違えど、ポストプレーをするという点ではエジガルと同じお仕事ができることを示したと思います。もしかしたらエジガルショックを脱出できるかもしれないですね。

7.スタッツ

■トラッキングデータ

 広瀬が10km越えの走行距離と20回越えのスプリント回数を記録。この試合でカバーによく走り、攻撃にも参加していたことから数値が伸びたことが伺えます。また、相手は丸山と中谷が10km越え、丸山はスプリント回数も19回と、こちらのカウンターに粉骨砕身したこともわかります。丸山は幾度も壁として立ちはだかっていましたね。

■チームスタッツ

8.おわりに

 この試合は後半15分ごろに宮原が退場となり、相手が10人になったことから、通常とは異なるスペースや時間が生まれ、こちらの狙いは図れても、継続性は計ることができないため、前半のみを取り上げさせていただきました。

 1-5で快勝した試合でしたが、互いにノーガード戦法を取り、多くの決定機を決め切ったこちらが勝利したのだと思います。前半の決定機を決められて先制点を与えていた場合、これほどまでうまくいったかどうかはわかりません。攻撃も遅攻時の選手の動きが少ないことや、前線が居残りしたり、守備のやり方が定まっていないことなど、それぞれ課題が見えましたが、勝利して反省できるのはいいことだと思います。個人的には負けて凹むよりも前を向いて進めます(笑)

 前にも書きましたが、新加入選手たちは時間がないので実践で覚えていくしかありません。毎試合トライ&エラーです。浮き出てきた課題、できたいいところ、それぞれ吸収してリーグ戦を突き進んでいきましょう。それでも守備に関しては開幕からあまり変わっていないように思いますので、そろそろ定まった何かが形になって表れると嬉しいなとも思います。次のガンバ戦、何を見られるのか、楽しみにしています。

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