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【2019 J1 第31節】横浜F・マリノスvs北海道コンサドーレ札幌 マッチレビュー

1.はじめに

 前節、鬼門である駅前不動産スタジアムを何とか突破。辛くも勝利をおさめ3連勝を決めました。次に挑むのはアウェイで痛い目を見たコンサドーレ札幌が相手です。今季何もできなかった試合の1つだったでしょう。しかし今度はホーム三ッ沢に迎え入れての対戦。今季最後の三ッ沢にて、この地無敗のキープと、初の4連勝なるか。見ていきましょう。

2.スタメン

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■横浜F・マリノス

・負傷していた仲川が先発に復帰

■北海道コンサドーレ札幌

・アウェイ戦と同じく対マリノスの4-4-2布陣
・ボランチには宮澤ではなく荒野が入る

3.札幌攻撃の方法と狙い

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・深井が下りてCB化
・福森が開いてSB化
・菅が高い位置へ上がってWG化
・チャナティップは下りて前線へのパス供給役になる
全体として4-2-4のような形になる
ジェイはチアゴにつきっきり
・鈴木武蔵は下りてボールを受けることもあれば裏抜けを狙うこともある

 札幌の攻撃はいつも通りの可変を行います。深井が1つ下がってCBとなり、福森を外に押し出してボールの供給役とする。菅を高い位置に押し上げてWG的に位置させ、大外のレーンは彼に使わせる。チャナティップは前線とのハブ役となるべく下りることが多い。荒野と共に前線へボールを供給します。これらが一通り済んだ場合、全体として4-2-4のような布陣となり、マリノスゴールへ迫ります。

 2トップの狙いとしては、基本的にはマリノスの浅いディフェンスラインの裏を狙います。鈴木武蔵は得意のスピード勝負で裏抜けを狙うことをしつつ、瞬間的に後方へ下がりボールを引き出すこともしていました。反対にジェイは最前線に張っていることが多い。しかもチアゴのいる位置をずっと狙っていました。この目的はチアゴにカバーをさせず、ジェイに釘付けとすること。スピードに長所を持つ鈴木やルーカスの裏を狙うことが恐らく本命。そこへのロングボールを出したときにものすごい勢いでチアゴが向かうことを抑制したかったのだと思います。

 しかしこの計画はご破算になってしまいます。マリノスのハイプレスが予想以上に素早く、後方にいる札幌の選手たちは余裕を持ってボールを回せませんでした。ロングボールを蹴るときも本来のタイミングでなく、届けたい相手も違うことが多かったのではないでしょうか。ジェイへのロングボールが多く、またそれがオフサイドになる頻度も高かったです。マリノスが早々に奪った2得点も素早いプレスや即時奪回からでした。アウェイでやられたことをそっくりやり返した見事なプレーだったと言えるでしょう。

 マリノスのハイプレスは人を見るのではなく、自分の決まったエリアにきた相手へ猛烈に寄せるゾーンとマンツーの併用だったため、相手の可変にも対応できたのだと思います。自陣でのセットプレー時に最初から可変する札幌を相手にして柔軟な対応ができたことは、チームとしての成長を感じると共に、今のスピードある前線を最大限に活かした守備なのだとも感じました。

 しかし後半になるとスタミナ切れから相手がボールを保持する時間が取れるようになります。また、後述しますが宮澤投入後からは更に後方でのボールキープが安定。札幌は右サイドのルーカスを中心に、後半は素晴らしい攻撃を披露することができました。

4.試合開始当初の札幌守備方法

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深井が下りてアンカー、荒野が上がり、チャナが絞ってIHに可変
松原へのマークがいなくなる
・ルーカスはティーラトンをマンツーマンでマーク
・2トップはCBへ寄せていく
・後方の4バックで相手3トップを見る(数的優位を作る)
・全体としてアシンメトリーの4-3-3のような形になる

 試合開始当初、札幌は守備でもオリジナルフォーメーションから可変してきました。中盤の選手たちがそれぞれ動きます。深井が下りてアンカーとなる。荒野は上がり、チャナティップは内に絞ってIH化。こうすることによってマリノス中盤の三角形にピッタリと選手を当てはめることができます。

 ルーカスへの守備負担を減らすことと、攻撃時に高い位置にいてほしいことから、彼はティーラトンへマンマークというタスクのみ課されていました。

 また、この一連の可変により、松原へのマークは誰もいないことに。そこを空けることはチームとして許容されているようでした。というのも、マリノスのビルドアップは左サイドに寄っています。右からのボールの前進はあまり頻度が高くないため、そちらを警戒しなかったからでしょう。強みである左サイドの封鎖にこだわったように思います。

 2トップはCBへ寄せることがタスク。切る方向で意識していたのは中央だと思います。後方の4バックはマリノスの3トップを監視。常に4対3を作ることによって数的優位を意識していたように感じました。

■マリノスのビルドアップ

 この松原を放置したことで札幌は少し痛い目を見たようです。

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 こちらは前半3分ごろのシーンになります。

 チャナティップは喜田をマーク。鈴木は畠中へ寄せ、ジェイは外に開いたチアゴへ意識が傾いています。前述しましたが、放置されている松原はフリーな状態。畠中はそこへパスをつけます。これで相手の中盤まで一気にかわせました。ボールを受けた松原は前を向き、バックドアで菅の背後を取った仲川へスルーパスを送りました。

 このように、空いた松原からボールを前に運べる場面が何度かありました。また、扇原が左SBの位置に下り、ティーラトンが内側を上がって相手のマークを狂わせるなどの工夫も見られました。相手の奇策に屈することなく、ボールを前進することができていましたね。

5.前半途中から変えた守備方法

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・中盤の可変をやめ、オーソドックスな4-4-2に変更
ボランチの2人でマリノス中盤の3人を見る
・ルーカスのマンツーマン対応は変えず
・後方の4バックで3トップを見る数的優位も崩さずキープ

 あまりにもマリノス右サイドからボールを運ばれたからか、札幌は前半25分ごろから可変をやめ、4-4-2で守るように対応を変えてきました。ピッチリポーターさんも30分ごろに、ペトロヴィッチ監督が荒野と深井に守備の指示を送っていると伝えていたのでこのあたりから変えたのでしょう。

 中盤を横並びに変更。これによりチャナティップは主に松原を見るようになります。しかしサイドを塞いだのはいいですが、代償として中央が手薄になりました。ボランチの2人でマリノスの中盤3人へ対応することに。人数不足を走力で補っていました。

 守備方法を少し変えましたが、ルーカスのチャナティップに対するマンマークはそのまま。また、4バックの対応の仕方も不変で、数的優位を崩しませんでした。

 前半途中から守り方を変えたからこのような対応になったと思っていましたが、後半に入っても守り方は特に変わらず。この守備方法は宮澤を投入するまで続きました。

6.偽CB宮澤投入とその効果について

 後半60分ごろからキム・ミンテに代えて宮澤を投入。そこから札幌の守り方が大きく変わりました。また、足元の技術がある宮澤を入れたことによってビルドアップが安定。一気に攻勢に出ます。

■守り方の変更

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・交代で入った宮澤はマルコスをマンマーク
・後方の数的優位を捨て完全に同数で対応
オールコートマンツーマンとなってマリノスに対抗するリスクある守備

 交代で入った宮澤の守備タスクはマルコスへのマンマークでした。CBのポジションに入りましたが、前にどんどん出てマルコスへ対応。マリノスのボールの出し所を塞いできました。

 その代わり後方は人数が減り、マリノス3トップを3人のディフェンダーで相手するという完全同数の状態に。これにより、オールコートマンツーマンとなります。リスクのある守り方ですが、3点のビハインドがあった状態だったのでやむを得なかったのでしょう。

 マリノス選手、特に前線の選手たちのスタミナが切れ始めたので案外リスクがなかった。ボランチも上げるため全体が前掛かりになることは、攻撃に移った際に高い位置をからすぐに開始できるメリットに繋がります。札幌はここから一気に攻勢に出ました。

■札幌後方でのビルドアップ

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 こちらは後半78分ごろのシーンになります。

 ボールを持った菅に渓太が迫りますが、深井へパスすることによって回避。二の矢としてマルコスが襲い掛かりますが、福森に下げ、落ちてきた宮澤に出すことによってこれもかわされます。宮澤に対して扇原が出てきましたが深井がフリーとなっているためそこへ出すことによって回避。プレッシャーのかからない深井は大外でティーラトンの背後を取るルーカスへ正確なロングボールを送ることができました。

 宮澤を入れることによって、後方でのパス回しが安定。マリノスの選手を見事にいなした場面でした。

■前に出るプレス

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 こちらは札幌が2点目を挙げる直前の後半73分ごろのシーンになります。

 ボールを持った扇原はパギへ戻します。深井はマークを捨ててパギへ猛烈に寄せます。しかし畠中へパスを送ることによってこれを回避。畠中へもすぐにプレッシャーがかかってきます。中央にいたロペスがスプリントしており、中央方向へのパスコースが切られている状態。それでも外側にいたマルコスとのワンツーでなんとか回避。しかしティーラトンへ出そうとしたパスは前に出ていた宮澤にインターセプトされてしまいます。

 後方を同数にしてまで宮澤を出したことにより、ボールを持った畠中以外は札幌のマークがいる状態に。選択肢を狭まれた上、更に激しい寄せを受けることによって思考時間が削られミスしてしまいました。リスクを取った守備が得点に繋がった場面でした。

7.ペトロヴィッチ監督について

 まずは下記ツイッターの動画をご覧ください。

 簡単に言いますと、「日本は必ず1人余らせるセーフティな守備をしていますが、私は同数での対応でもいいと思っている。というのも、前から圧力をかけることにより、奪った際に高い位置から攻撃を開始できるから」という内容になります。

 このように言及していたペトロヴィッチ監督ですが、前述しました通り、宮澤を投入するまでは4バックを崩さずに数的優位をキープし続けました。また、基本的に3バックで戦いますが、マリノス戦では4バックの布陣を選択監督コメントからもわかりますように、マリノス攻撃陣に対しての大きな警戒心と、リスペクトの高さが伺えます

 前半早々の2得点で札幌のゲームプランは崩れたのでしょう。前からの圧力が強いこともあり、意図してないタイミングでのロングボールが増えた前半。それだけアバウトに放り込むのなら、よりスピードのあるアンデルソン・ロペスを投入しようという考えは十分にわかりますが、監督の選択が失敗だったことを認めたことにもなるでしょう。

 また、宮澤を投入してオールコートマンツーマン状態にしたことについても、本来やりたくなかったことなのかもしれません。しかし背に腹は変えられない状態だったということでしょう。マリノスがそこまで彼を追い詰めることができた証左だと思います。

 攻撃的な監督に守備を考えさせ、また、後手に回らせたことはマリノスサッカーの素晴らしさを示したと言えるはず。最後は互いに打ち合いを覚悟するオープンな展開になったことも含め、攻撃に重きを置いた両指揮官から成る魅力的な試合だったと個人的には感じています。

8.スタッツ

■トラッキングデータ

■チームスタッツ

9.おわりに

 まず、今回データを丸ごとカットさせていただきました。実験的な取り組みですが、今回はデータをマッチレポートとして後日あげようかと思います。そちらを元に、このレビューの補足をできればなと思います。

 後半開始早々のパギのセーブがなければ3-2となってわからない試合になったかと思います。前節に引き続き、"持っているチーム"の勝ち方ができたのではないでしょうか。エキサイティングな試合は見ていて非常に楽しかったです。

 しかし、オールコートマンツーマンにうまく対応できなかったことも前節から引き継いでしまいました。後半スタミナが切れる前に多くの得点を挙げておくことが一番現実的な対策なのだと思います。今のスカッドはよくも悪くも前半からフルスロットルな前線なので…そのため、今後の試合で前半を0-0など、リードしていない状態で折り返したら震えることになるでしょう…

 次節はそういう意味でも対応が大変そうな松本が相手です。虎の子の1点をもぎ取って勝利をおさめたホーム戦でしたが、あのときとシステムも人も変わっている状態。順位差はありますが、決して油断できない相手となります。

 しかし鹿島が躓き、自力優勝の芽が出てきたことを喜ばずにはいられません。我々はもう他クラブ様にお祈りを捧げる必要はなく、マリノス様だけを崇拝すればよいことになりました。脱多神教、おいでませ一神教です!しかしやることは変わらず全試合での勝利が求められます。自力優勝が見えたことによってプレッシャーも今まで以上にかかるでしょう。しかし今のチームなら難しくなった状況も乗り越えてくれるはず。我々も階段を1つずつ上っていきましょう。

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