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【2019 J1 第22節】鹿島アントラーズvs横浜F・マリノス ゆるれびゅ~

1.はじめに

 前節、「#シティズンおいでよ清水戦」効果もあり、30,000人を越える大観衆の中で迎えた清水戦。相手の堅い守備に苦戦し、自身のミスから失点した1点を返せずあえなく敗戦。しかし下を向いてなんていられません。続く相手は順位の近い鹿島アントラーズ。またもや立ちはだかる堅い守備の壁。前節の負けを教訓に、この試合ではまた違った姿を見せてくれることを期待して試合に臨みました。どうなったのか、振り返ってみましょう。

 通常レビューはこちらになります。

2.スタメン

■鹿島アントラーズ

・チョン・スンヒョンの代わりにブエノが先発
・右サイドバックには永木ではなく新加入の小泉が先発
・右サイドハーフにセルジーニョを下げ、トップに伊藤を起用

■横浜F・マリノス

・出場停止明けのチアゴが先発に復帰
・その他は前節と同様のスタメン

3.鹿島アントラーズの守備

・2トップは喜田や扇原へのパスコースを消す位置で待つ
・後方の中盤4人は中央を封鎖するため中を固める
間で顔を出すマルコスは主に三竿やブエノが対応
畠中やチアゴにバックパスしたときが前へ追いかけるスイッチ
・寄せてるサイドと逆にきた場合はサイドバックだけが相手に寄せる

 鹿島の守り方は中カッチカチ、外はやわらかめと、甘いメロンパンの構造と真逆でした。清水戦でも見たこの光景。ただ全く同じではなく、ちょっとだけ違う手法を取っていました。

 2トップは畠中やチアゴに寄せてくるのではなく、喜田や扇原の前に立つようにしてパスコースを消す位置をキープするようにしていました。後ろの方では持たせていいので、中央は絶対に通さない!という強い意志が見て取れました。じゃあセンターバックは安全なの?と言われるとそういうわけではありません。マリノスの選手たちが畠中やチアゴへバックパスしたのがヨーイドンのピストル。それを合図に相手はどんどん前に押し寄せてきます。

 また、マルコスはこの試合でも相手守備陣の間に入り込んで「こんにちは!」とご挨拶をしていましたが、返事をくれたのは大体三竿とブエノでした。隙間からチラッと顔を見せたときでも、後ろでいかつい顔して睨みをきかせてくるブエノ。まるでスタンドのようなその出で立ちにパスを出すこともためらわれ、中々マルコスにボールを集めることができませんでした。

 中央を固めつつ、サイドに追い込まれてしまうのなら逆サイドを使えばいいじゃない!ということで、扇原からいくつか長いパスで仲川まで繋げたシーンがありました。このとき鹿島はどうしてきたかというと、とりあえずサイドバックを向かわせていました。ただ、サイドバックだけ向かわせるので、センターバックとの間には大きな溝ができあがっていました。この溝を埋めるのは中盤の選手たちのお仕事。ただ前から戻ってくるので、時間がかかるのが悩みの種です。

 鹿島の守備がうまくいくと、このような形で取り囲まれてしまいます。こちらは前半の17分ごろのシーンになります。

 畠中からティーラトンを介して渓太までパスを繋ぎますが、名古がサイドに寄せ、ブエノが前に出てマルコスに対応してきたため、渓太は鹿島の選手4人の壁に阻まれてしまいました。中央が固められてるからといって、安易にサイドへ逃げても突破できない状態。逆サイドには仲川がいるんだけどもあのイケメンぶりを持ってしても小池は振り向いてくれませんでした…そのため横に広がらず、狭い陣形をキープされてしまいました。

4.改善が見られたマリノスのパス回し

 この相手の中央封鎖の守り方にまたもや苦戦しますが、そこはやられっぱなしではありません。前節の反省も活かし、相手の守備の特徴を利用してボールを進められた場面がいくつかありました。

■振り向いてくれないあの子へ積極アプローチ

 こちらは前半18分ごろのシーンになります。

 センターバックである畠中がボールを持ったとしても鹿島の選手たちは見向きもしません。「くそっ…!こっちを全然見てくれないじゃないか…向こうから来ないなら、こっちから仕掛けてやる!」畠中意中のセル子を振り向かせるため、ドリブルで彼女目がけて猛進。(いや、畠中奥さんいますけどね!)この積極的なアプローチはさすがに無視できず「いや…これ以上こられると困ります!」とセルジーニョは畠中へ向かっていきます。しかし彼(彼女?)の本来つくべきマークはティーラトン。ということは、外でフリーの状態なはず。すかさずそこへパスを出し、誰も寄ってこないティーラトンは余裕綽々で渓太へ鋭い縦パスを出します。ボールを出した先の渓太は1対1の状態。小泉との駆け引きに勝利し、クロスを上げることができました。

■やわらかい外側をツンツン作戦

 こちらは前半20分ごろのシーンになります。

 扇原と畠中でパス交換。これについていった土居は左に寄ります。また、喜田は相手を押し留めるために前に出ていきます。なんということでしょう…不思議と扇原の周りは誰もいないではありませんか。こうなったらあんなこともこんなことも余裕を持ってできてしまいます。このとき選択したのは、彼最大の強みである長くて鋭いパスを仲川へ出すことでした。中は堅いけど外はやわらかめの鹿島。外に出されたらとりあえずサイドバックである小池が出向いていきます。しかしそれに続く選手はおらず、頑なに中央を固めます。「モーセの海割れのように間がスパっと割れてるのが俺には見えるぞ…ここしかない!」その隙間を見逃さなかった広瀬は猛然と駆け上がっていきます。「まずいっ!?誰もいないから追いかけなきゃ」後ろから追いかけてくるセルジーニョを振り切り、仲川からパスを受けます。そのまま中へクロスを送りますが、合わせた渓太のシュートは惜しくもミートせず。

 清水戦では見れなかった大きな展開。これ以外にも扇原は何本か仲川や渓太にサイドを変える長いパスを通していました。これは清水戦での教訓を活かせた場面だったと思います。

■前に出たら後ろがお留守ですよ

 こちらは前半30分ごろのシーンになります。

 相手の間に入った喜田。「俺が下がらなきゃ」後方に注意がいく名古。「ここにきたのは俺の獲物だ!仕留めるぞ」前に出ていくブエノ。1人で2人の注意を引きます。「相手は前に注意がいっている。後ろがお留守だぜ!死角から抜け出す!」前に意識が向いていたブエノの背後から大津がこんにちは。こういった細かい動きも見逃さないマメな畠中はすかさず後ろに長いパスを送り込みます。相手の背後に抜け出せ、クロスを上げることができました。

 この喜田と大津の絶妙なコンビネーションから実現したこの動き。大津の位置が喜田に近すぎる場合はブエノの注意を引いてしまいますし、遠すぎる場合はブエノが前に出た隙を突くまで時間がかかりすぎて間に合わない。2列目の選手と適切な距離で相手と駆け引きする必要がある難しいプレーだったりします。これナチュラルにやってのけるのが何を隠そうエジガルなんですよ。彼は距離感がいつもいい!大津も距離感を掴み、これをできる頻度が増えると、よりたくましさを増すと思います。

 また、後半は仲川を中央に、大津を右にポジションチェンジしていました。より足の速い仲川ならこの方法を取ったとき効果的だと監督が思ったからかもしれません。結果的に中央から抜け出すことはあまりできず、右サイドもうまくいかなくなったため、裏目に出てしまいましたが、これに可能性を感じたことは多分にあったのでしょう。

■ウォールカシマを越える畠中の立体機動パス

 こちらは後半73分ごろのシーンになります。

 ボールを持った畠中。しかしそれを取り囲むように鹿島守備陣はウォールカシマを形成し、高い壁を作りました。しかし彼が見つめる先はもっと奥。「おっ、康児とマルコスいるじゃん。しかもその先は相手1人だし。相手の壁を越えられれば大きなチャンスになる!」畠中は「え!?そんなパス出せるの!?しかも普通のパス出すのと動き変わらないし!?」と驚くような立体機動パスを通し、そのまま背後に出た三好へ渡ります。進撃の三好はマルコスへパス。マルコスは思い切ってシュートを撃ちますが、惜しくもクォン・スンテに止められてしまいました。

 この前に大きなサイドチェンジによって仲川へボールが渡ったことがきっかけで失点していました。「左サイドにボール…外に仲川…ロングボール…うっ頭が…」このトラウマに憑りつかれ、小池は思い切って中に絞ることができなかったのかもしれません。結果的に犬飼との間を三好に抜かれてしまいました。

5.各得点の振り返り

■鹿島の先制点~前に行くときの合言葉は背中で相手を消す~

 こちらは失点をしてしまった試合開始すぐのシーンになります。

 畠中へ寄せてきた伊藤。これただ猛追するのではなく、しっかりとティーラトンへのパスコースを消していました。そういえば彼こうやって寄せるのうまかったですよね。去年何度それに助けられたか…こうされると出すところがないため、パギにボールを戻すしかありません。しかし今度は右から土居がすっとんできます。うまくいなしてティーラトンへパスを繋げます。このとき、名古は喜田へのマークを捨ててチアゴへのパスコースを消しにかかります。これに面食らってしまったのか、ティーラトンは外にいる扇原目がけて蹴ろうとしましたが、これをセルジーニョに取られてしまいました。ボールを奪ったセルジーニョは切り返しでティーラトンをかわしてゴール左隅へ見事なシュート。先制点を挙げられてしまいました。

 実はこのとき、喜田は空いていしました。ただ、それを確認するほどの時間も、余裕を持ってターンするスペースもなかったため、それを選択できるのは非常に難しいプレーだったと思います。大きく蹴ってしまえばよかったかもしれませんが、そうすると「いける!相手は困って蹴ってきたぞ!これをやり続けるんだ!」と図に乗せることにもなるので、このあたりの精神的な駆け引きも地味に繰り広げられていたのでしょう。

■マリノスの同点弾~サイドを大きく振って~

 こちらは後半67分ごろのシーンになります。

 ティーラトンは扇原へパスをすると同時に前に走り出します。この動きでセルジーニョを抑えたことにより、扇原の周りには誰もいなくなります。余裕のある扇原は逆サイドを確認。「お、テルぼっちでいるな。発車準備OKだね。じゃあいくよー。ズドーン!」外でフリーになっている仲川めがけてレーザービームを射出。待ち受けていたハマの新幹線も発進。さすがにそのままではまずいので小池がこの発車を少しでも遅らせようと仲川の前に立ちはだかります。

 しかしこの日のハマの新幹線は1車両でなく2車両でした。広瀬も続いて前にダッシュ。後方車両である彼とワンツーをすることにより、小池をかわして中央へ侵入。このときマルコスと三好が中にすごい勢いで入っていったことと、仲川に目線を奪われ、ゴールに近い位置へ相手を終結させることができました。そのため外では渓太が空いている状態。仲川はそこへフワッとしたクロスを送ります。それに合わせましたが、シュートは当たり損ねてしう。しかし仲川がそれに頭で合わせて同点ゴール。左右を大きく使えたいい攻撃だったと思います。

■鹿島勝ち越し弾~ラインを上げるのは今?~

 こちらは後半88分ごろのシーンになります。

 後方でボールを受けた三竿に対して1人少ないマリノスは寄せることができず、フリーな状態でした。先ほどから何回か言っていますが、フリーな状態だと余裕を持って周りを確認でき、パスの精度も上がります。「相手の寄せが甘いな。どれどれっと…おお、あそこで聖真が抜け出せそうだな。そこへクロスだ!」チアゴが上がったことにより、広瀬のまわりには小池と土居がいて1対2の状態。そこを見事に突かれてしまいました。ボールに合わせた土居は中央へ折り返す。中にいた上田がボレーで合わせ勝ち越し弾を挙げられてしまいました。

 相手がフリーなときは何でもできます。何でもできるときにディフェンスラインを上げるということは、「どうぞ私たちの後ろにボールを送ってください」と言っているようなものです。今まではチアゴのでたらめな速さでごまかしていましたが、そろそろこの問題と向き合って直す時期に差し掛かっているのかもしれないですね。

6.退場後の布陣変更とその意図を汲み取ってみる

 後半に扇原がこの日2枚目となるイエローカードを受けて退場したあと、監督が取った交代策はマルコスを下げて槙人を入れるといったものでした。後方を畠中、槙人、チアゴの3バックとし、守備時は渓太と仲川を戻して守備を整えました。守備時は見てわかりますが、攻撃時はちょっとわかりにくかったです。あくまで自分の推測ですが、攻撃時の狙いをまとめてみます。

・三好、ティーラトン、畠中が上がって左サイドに厚みを持たせる
・渓太や三好で左サイドを突破してクロスを上げることを主軸とする
・仲川は大きく内側へ絞り、クロスにニアで合わせる
・広瀬は大外を上がり、クロスにファーで合わせる
・守備時は相馬をチアゴが見て喜田が下りることにより数的不利にはならないようにする

 攻撃に移ったとき、それぞれがいつもの動きをすると、自然と左側に人が集まります。ティーラトンの走力とパス能力、畠中の縦パス精度、三好の間に入る動き、渓太の一瞬のスピード。監督はこの要素を考え、左サイドの突破に可能性を見たのかもしれません。最終目標としては、左サイドからクロスを上げ、それを仕留めるというもの。では誰がクロスに合わせるのかというと、ニアは絞った仲川、ファーは大きく上がった広瀬がターゲットだったのかなと感じました。もう一度言いますが、それぞれが普段と同じ動きをするだけで左サイドからクロスを上げ、中で仕留めるといった構図が出来上がります。システムは変えましたが、やることは同じでいいんです

 守備も設計されており、広瀬が抜けた後方にいるスピードスター相馬に対しては、リーグ屈指の走力を誇るチアゴを当てることができます。空いた中央には喜田を下げる。とりあえず後方を固め、その間に味方が帰陣するための時間を稼ぎます。

 このシステムは勝点1、あわよくば3を獲得する上で非常によいものであったのではないでしょうか。あの状況でとっさにこの布陣を考えついた監督に脱帽です。惜しむらくは守備が不慣れだったことかと思います。3バックにしたときのラインの高さ設定。中央をどれだけ槙人に任せてよかったのか。5人の距離感とマークはどうするか。攻撃は無意識的に行えましたが、守備はぶっつけだったこともありバラバラの対応だったように思います。失点した場面も上がるか上がらないか、誰が誰を見るかがハッキリしていなかったように見えました。今後もこの5バックで試合を閉めるのならば練習が必要でしょう。

7.前節から改善はされたのか~清水戦との比較~

 さて、前節の清水戦と比べ、マルコスシステムで堅い守備に対応できたのでしょうか?改善した兆候はあったのだろうか?データを用いて比較してみます。

■スタッツの比較

 今節は10人になってしまったので、あくまで参考程度にですが、下記数値を前節清水戦と比較してみました。

・ボール保持率
・シュート数
・パス数
・ロングパス成功率
・クロス成功率
・デュエル勝利数
・走行距離
・スプリント回数

 ボール保持率とパス数は低下しましたが、シュート数は同数を記録することができました。これは少ないパスで前節より効率よく相手ゴールに迫れたことを表しています。それを裏付けるように、ロングパスとクロスの成功率は上がっています。前述した通りロングパスの出し手にスペースと時間を作れたことと、サイドを深くエグってクロスを上げられるようになったのでこの数値も伸びたのだと思います。デュエル勝利数が下がっていますが、これはそもそも苦手な1対1を避けてボールを前進できたというように言い換えることもできるでしょう。1人減ったと言えども、走ることに関しては数値がそれなりに下がっていました。暑さもこの試合に影響したのかもれません。

■パスマップの比較

 今回もパスマップを作成してみました。清水戦と合わせるため、今節の前半20~40分の成功パスに対して集計を行いました。図は前半の平均ポジションを位置するように作成しています。

◇清水戦

◇鹿島戦

 大きく変わったこととしては、扇原が右側に多く位置していたことと、後方でのパスが減ったことが挙げられるかと思います。(集計値の比較で、鹿島戦は左側の色が薄くなっています。)左はティーラトン、畠中、喜田の三角形でのパス回しが多く、右は広瀬と扇原のパス交換が多いことがわかります。パギまで下げることなく、中盤の位置で相手を動かしながらボールを回せたことによって、清水戦のときよりは攻撃的に振舞えたと思います

 仲川のパスを受ける回数も4から8と倍になっており、右サイドからも攻撃できていたことがわかります。扇原から仲川への長いパスも何回かありましたよね。ただ、大津の絡む機会が非常に少ないのが気がかりです。裏への抜け出しを狙うことが多く、後方に下りてパスを引き出さなかったことがわかります。本職でない彼に多くを求めるのは酷ですが、エジガルとの差は数字にも表れているみたいですね…

8.スタッツ

■トラッキングデータ

 マリノスはいつもより走れなかったことがわかります。反対に鹿島は中盤の選手に加え、土居の走行距離とスプリント回数の多さが見て取れます。サイドを圧縮してスペースを狭め、マリノスの選手たちが走れず、その布陣を整えるため鹿島の中盤の選手が走ったことがこの数値に繋がっていると思います。この暑さの中あれだけ走れた鹿島の選手たちに脱帽です。

■チームスタッツ

9.おわりに

 またしても越えられなかった堅い守備。サイドに追い込まれ、動くスペースがなく下げることもありましたが、前節の反省からロングボールを蹴るようになったり、持ち上がるようになったりと、改善された点もありました。同点に追いついてからは勝ち越せるかもしれないと期待できるほど攻め立てることもできていたため、チームは確実に前進していると思います。

 仲川を最前線に据えたこと、3バックにしたこと。結果として裏目に出てしまいましたが、新しいアプローチも見られました。指をくわえて見守るのではなく、何とか改善しようという姿勢が見られるのはいいことだと思います。これを勝ちに結びつけることができれば、また1歩強いチームに近づくのではないでしょうか。

 上位を目指す上で非常に厳しい敗戦をしてしまいました。しかししょげている暇はありません。次の相手はまたしても堅い守備であるセレッソ大阪が相手です。上位との差をこれ以上開かせるわけにはいきませんし、何より3連敗なんで見たくありません。今度こそ勝利を挙げるべく、精一杯の声援を送りましょう!

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