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人が、何かに絶望するとき。

それは、先日映画「マックイーン:モードの反逆児」を観たときにふと感じたことだった。

アレキサンダー・マックイーンは稀代の天才デザイナーである。サヴィル・ロウ(オーダーメイドの高級紳士服店が軒を連ねるロンドン中心部の通り)でフリーで基礎を学び、後に多くのデザイナーを排出しているセント・マーチンズに入学。卒業コレクションがVOGUEのスタイリストの目に留まり、5,000ポンドで売れデビューが決定という経歴だ。

 
作風はとにかくエキセントリックでアバンギャルド。誰にも真似できない発想に業界は熱狂し、エグいけど美しい、という絶妙なバランスが多くのコアなファンを生んだ。スカルをモチーフにした定番のデザインは特に有名なコレクションとなっていった。

 
その後、自身のブランドのみならず「ジバンシイ」のデザイナーにも就任。それは4年ほどで幕を閉じたが「アレキサンダーマックイーン」は英国を代表するコレクションブランドとなり、現在もチームの一員だったサラ・バートンによって引き継がれ、キャサリン妃が結婚式で着用したことでも知られている。

 
そんなマックイーンは2010年に40歳で唐突にこの世を去っている。自死だった。当時は業界を超えて大きなショックが広がったことを鮮明に覚えている。それは大きな喪失感に包まれたものだった。

 
一般的には直前での母の死が引き金となったと言われていたが、この映画ではプライベート映像と関係者のインタビューを交えて、その深層に迫っていく。

 
そこから見えてきたのは、「マックイーンは疲れていた」ということだ。

 
最盛期には年間に14本のコレクション発表を抱えていたマックイーン。1年は12ヶ月だから毎月1本仕上げても追い付かない計算になる。本人も生前のインタビューの中で皮肉交じりにその苦悩を語っていたし、彼を支えた人々も「本当に服を愛していたが彼が望む環境ではなくなっていた」と証言する。そこにHIV感染や尊敬する業界の師や母の死など心労が重なったことが、彼に悲しい選択をさせてしまったのかも知れない。

 
同時に、マックイーンは絶望していたのだと思う。
終わりの見えないコレクション製作、エキセントリックな作風から来る謂れのない風当たり、人間関係…一見冗談好きで饒舌だが、真の意味での人付き合いは苦手に感じるシーンは多く垣間見えた。

 
マックイーンは真の意味で服を愛し、仕事と仲間を愛した人間だった。本当につくりたい物が作れなくなり、忙しさの中で仲間とも行き違いが起こり、ブランドを始めた時とは環境もまるっきり変わってしまっていただろう。

 
これは自分が望むような生き方ではない。
もう認めてもらえないのではないか。

 
程度の差こそあれ「絶望したことなどない」という人の方が少ないのではないだろうか。人間関係や金銭関係で絶望を味わったりすることもあるだろう。

 
僕自身、しょっちゅう絶望を味わっている。上に書いたことは一通り体験したのではないか。今だって、世の中はプチプラでお手軽なコーディネートとか診断系のメニューばかりで、僕が提案している「ファッションは内面の発露である」「画一的でなくオーダーメイドなスタイリングが必要」なんて主張は世間に広く届かないのかも知れない、なんて絶望するときもある。

 
だから、もう投げ出してしまえ、という気持ちになることは理解できる。理想と現実の落差に落ち込み、苦悩しながら生きることは誰にとっても苦しい。
 

でも「生きてさえいれば何とかなる」と感じることが出来たから今僕はここに居る。

 
埋まらないと思っていた穴もいつか塞がり、あの人が居ないとお店が回らないと思ったお店はいつものように回り、見てくれている人は今日もどこかで見ている。絶望と希望を繰り返しているが、目の前の小さな喜びを拾いながら日々生きている。「こないだ選んでもらった服の評判が良かった」「アドバイス通りすぐにチーフを買いに行った」そんな何気無い言葉が僕を支えている。もちろん美味しいスイーツも人生には必要だ。
 
 
マックイーンは、最後まで自由な人だった。多くのファンとブランドの仲間を置いて逝ってしまった。きっと我々では計り知れないプレッシャーや絶望に苛まれて居たのだろう。でもこうして死後もフォーカスされ、回顧展には空前の行列が出来るほどに愛されているのは、彼の人柄と遺した作品が素晴らしかったことを表している。とても同じレベルでは語れないのは承知の上で、何か他に小さくても幸せを見いだせていたなら、、と残念でならない。今もコレクション製作に腕を振るっていたなら、ファッションはもっと発展していたかも知れないとすら思う。

 
人は、幸せを感じられなければ生きていけない。
ではどうやって幸せを見つければいいのか?何が自分にとっての幸せなのか?ということを深く考えさせられる作品だった。

 
特に、今はライフスタイルに注目が集まっている時代だ。働き方改革や副業、ワークライフバランスなどテーマは数多い。何を優先すべきか、どこに自分の幸せがあるのかという考え方は今の時代にこそ求められている。死後約10年を経て、問いかけられているように思う。
 

作品としても、映像や音楽もとてもマッチしていて、制作者もファッションやマックイーンに対して深い造詣があることが伺える良作だった。

 
なぜ彼が今もなお愛されるのか、ぜひ映画を観ていただきたい。きっと誰もが人間マックイーンを好きになるはずだ。

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