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【歴史・時代小説】『法隆寺燃ゆ』第二章「槻の木の下で」

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国の成り立ちを変えようとする蘇我入鹿、それを阻止しようとする豪族たち、入鹿の盟友でありながらも中臣という名に引きづられていく鎌足、そして権力者たちの争いに否応なしに巻き込まれてい… もっと読む
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記事一覧

【歴史小説】『法隆寺燃ゆ』 第二章「槻の木の下で」 後編 16(了)

 件の弟成と黒万呂は、罰として大杉の下に括り付けられていた。  あの後、雑物の従者たちか…

hiro75
6年前
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【歴史小説】『法隆寺燃ゆ』 第二章「槻の木の下で」 後編 15

 奴婢長屋の前は、人だかりができていた。  人の輪の中心には、兵士たちに取り囲まれた八重…

hiro75
6年前
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【歴史小説】『法隆寺燃ゆ』 第二章「槻の木の下で」 後編 14

 飛鳥の空に黒雲が棚引いたその翌日に、蘇我本家が滅びたという知らせが奴婢たちの間にも駆け…

hiro75
6年前
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【歴史小説】『法隆寺燃ゆ』 第二章「槻の木の下で」 後編 13

「それで? いつでも寺に来てええって?」  黒万呂は弟成に訊き、彼は頷いた。 「そうか、…

hiro75
6年前
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【歴史小説】『法隆寺燃ゆ』 第二章「槻の木の下で」 後編 12

 金堂内の掃除が終わり、弟成を帰そうと思った矢先、彼らは2人の僧侶に見つかってしまった。…

hiro75
6年前
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【歴史小説】『法隆寺燃ゆ』 第二章「槻の木の下で」 後編 11

「おい、そこの子!」  不意に呼ばれたので下を見た。  皆忙しく働いている。  どうも空…

hiro75
6年前
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【歴史小説】『法隆寺燃ゆ』 第二章「槻の木の下で」 後編 10

 年を越すということで、斑鳩寺では、僧侶・沙彌・家人・奴婢たち総出で一年の埃を払い落とすこととなった。  弟成も、黒万呂とともに寺の大掃除に駆り出された。  とは言っても、弟成たち奴婢が、寺の中に入ることはできない。  彼らの仕事は、寺を取り囲む築地の埃を落とすことである。  特に、年長で、体重の軽い弟成や黒万呂たちの仕事は、築地の瓦の上に登らされて、埃を払い落とすことであった。  弟成は、黒万呂とともに築地の上に登って埃を落とした。  しかし、黒万呂はどうも心こ

【歴史小説】『法隆寺燃ゆ』 第二章「槻の木の下で」 後編 9

 あの日以来、弟成は、八重女の顔をまともに見ることはできなかった。  彼女の顔を見ると、…

hiro75
6年前
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【歴史小説】『法隆寺燃ゆ』 第二章「槻の木の下で」 後編 8

 どうやら、水場は先約ありのようだ。  よく聞くと、二人の女の子がいるようだ。  弟成は…

hiro75
6年前
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【歴史小説】『法隆寺燃ゆ』 第二章「槻の木の下で」 後編 7

 7月も末頃になると、油蝉が最後とばかりに鳴き立てて、それでなくとも暑いのに、耳からも余…

hiro75
6年前
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【歴史小説】『法隆寺燃ゆ』 第二章「槻の木の下で」 後編 6

「大丈夫、あんた? ほんま、そんなところは全然変わらへんのやから。待っとき」  雪女はそ…

hiro75
6年前
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【歴史小説】『法隆寺燃ゆ』 第二章「槻の木の下で」 後編 5

 春、それは花々が咲き乱れ、虫や動物たちが跳ね踊る季節である。  日差しが柔らかく大地を…

hiro75
6年前
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【歴史小説】『法隆寺燃ゆ』 第二章「槻の木の下で」 後編 4

 八重女と出会ってから、黒万呂と弟成は彼女と親しく話すようになった。  特に、黒万呂は彼…

hiro75
6年前
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【歴史小説】『法隆寺燃ゆ』 第二章「槻の木の下で」 後編 3

 翌日、弟成と黒万呂は仕事を抜け出し、三輪(みわの)文屋(ふみやの)君(きみ)の屋敷があった東門を覗き込んだ。  あの子がいる場所はここしかないと弟成は思っていた。  そこには、あの子と出会った文屋の屋敷は残っておらず、黒焦げの棒切れが至る所に散乱しているだけであった。  未だ焦臭い。  弟成は改めて実感していた。  あの夜のことは本当だったのだと。 「あっ、昨日の子や! ほら、あそこ!」  黒万呂が指差す先に、あの子がしゃがんでいた。  やはり、あの子だった