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【歴史小説】『法隆寺燃ゆ』 第三章「皇女たちの憂鬱」 後編 15

 黒万呂に稲女の好意を指摘されてから、彼は変に彼女を意識するようになった。

 別段、彼女が好きだという気持ちはないのだが、それでも彼女に嫌われたくないという気持ちもあって、これが心だけの問題なら押さえようもあるのだが、体の方も変化をしだしたのだから、弟成はちょっと大変な状態になっていた。

 彼が、その体の変化に気付いたのは、八重女と稲女の夢を見た時のことであった。

 2人は、露な姿で水場にいた。

 前に見た時と同じだが、一部違ったのは、彼女たちが成長していることであった。

 夢の中の彼女たちも背中しか見えないが、その腕の下から覗き見える前の膨らみは、明らかに初めて見た時よりも大きくなっていた。

 彼は茂みの中にいるのだが、自分の息が荒くなっているのに気が付いていた。

 夢としては、ただそれだけであったのだが、目を覚ました時に、彼は自分の下半身に違和感を持った。

 手で探るのだが、明らかに濡れている。

 まずいと思った彼は、黒万呂を跨いで表に飛び出し、急いで用足しの構えをした。

 が、小はでない。

 自分の手が滑っているのに気付いた。

 尿ではないようだ。

 ―― なんだろう?

 気味悪さに襲われた。

 このような体の作用が、1回だけならば何かの間違いだろうとも思うのだが、これが、2、3回と続けば、もしかして病気ではと思ってくるものである。

 まして、自分の意思に反して、体の一部が妙に大きくなったりするのだから、少年にして見れば恐怖である。

 このような変化に対する考え方は、少年も、少女も同じ ―― また、この年頃の少年少女たちが、体の変化に対して容易に相談することができないのも同じである。

 もちろん、兄や父がいれば彼らに訊くだろうが、いまの弟成には、2人は思い出の中の人となっている。

 母や姉に相談することもできるのだが、なぜか彼はそれに対して羞恥心があった。

 別段、身内だから最も良い相談相手と思えるのだが、それは女性には訊いてはいけないことなのではと、弟成は本能的に感じたらしい。

 結局、彼の選んだ相談相手とは、雪女が大人になった時に絹女(きぬめ)に相談したように、彼も最も親しい仲間である黒万呂しかいなかった。

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