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人生は蒙古斑

またか、と脱力する事件が起きた
妻のことだ
長野県のとある高原をドライブしていた時のこと、妻とAJICOの歌詞について話していた
ところで、と妻は話題を変え、シャーベッツの新曲の話になった
妻は「baby car」の優しいメロディが好きだと言う
特に「蒙古斑」のところがいいと言う

蒙古斑?
妻が何と何を聞き間違えたのかはすぐにわかった
サビの部分でベンジーは「人生はもう後半」と歌っている

ちなみに妻はかつて、「なんでベンジーは送金するの?」と聞いてきた
「知らない道」の「OK、そっちにするわ」が「OK、送金するわ」に聞こえていたのだ
そのため妻は「知らない道」をオレオレ詐欺の歌だと思っていた
確かにオレオレ詐欺の歌だと思って聴くと、「OK、送金するわ」のあと、「ごちゃごちゃ考えるな。そっちを信じるわ」と続くので、オレオレ詐欺に騙される側の心境を描いているようにも取れる
だが、そうだとしても、シャーベッツがそんな曲を出すだろうか?
普通ならそこで変だと思うだろうが妻には常識とも言えるその感覚はなかった
ベンジーがなぜ送金を決意したのか?
単にその理由がわからないので私に聞いてきた

そして今回の「baby car」
赤ちゃんの気持ちの歌なので,そこに「蒙古斑」という言葉が出てきても違和感はないのかもしれない
だが「人生は蒙古斑」
それは一体どう言う意味なのか?
「蒙古斑のような人生」とはどのような人生なのか?
「もう後半」を「蒙古斑」と思って聴いてきた妻の頭の中では、「蒙古斑のような人生」が描かれているのだろう

私はすぐに間違いを正すのがもったいなくて、「蒙古斑のような人生ってどんな人生?」と妻に問うた

すると、妻の答えは極めてガッカリするものだった
「だいたいでしか聴いてないから、そこまでわかんない」
そして、期待外れの答えに内心落ち込んだ私に悪びれることなくこう続けた
「ベンジーなら蒙古斑で人生を語れる」

いや、ベンジーは蒙古斑で人生を語ってないし、ベンジーであっても蒙古斑で人生を語るのは難しいだろう
だから、妻がどんな風に聴いていたのか知りたかったのに、「だいたいでしか聴いてないから、そこまでわかんない」とは期待外れも甚だしい

そもそも、よく聴きもしないで、あとの解釈はベンジーに丸投げという聴き方が雑すぎる
だが、そんな私を尻目に、妻は「baby car」を口ずさんでいる
歌詞をよく知らないので、もちろん鼻歌のハミングだ

こんなこともあった
家にいる時、テレビを観ることは原則、ないのだが、面白いと評判になると2人して真剣に観る
真剣に観るというのは文字通り真剣で、プロジェクターで200インチくらい拡大し、妻には1人掛けのソファに座らせての視聴だ
鑑賞と言っても差し支え無い
そうやって「不適切にもほどがある」の全10話を観たのだが、観終わると妻は「それでシンジはどうなったの?」と聞いてきた

シンジ?
そんな役はなかったはずだ!
自分には見えていないものが妻には見えるのだろうか?
妻の友達には、普通の人には見えないものが見える人が多い
表には出さないが、実は妻にもそんな能力があるのだろうか?

だが、内心、こうも思った

こいつ、キヨシのことを言ってるな

何ということだろう!
壁一面にプロジェクターで投影し、アリが入り込む隙間もないほど真剣に2人で観ていたと思っていたのに、役名さえも覚えていない!

「シンジとはキヨシのことか?」

私は自分自身の平静を保つために静かに尋ねた
シンジということで話を進めても良かったが、それでは宮藤官九郎にもキヨシを演じた役者にも悪いと思い、一応、間違いを正してから話を始めることにしたのだ
妻は
「ああ、それキヨシ。でもシンジぽいよね」と創作者の意図などお構いなしだ

だがそう言われると、あれはシンジでもキヨシでも良かったのかも知らないとも思った
実際、シンジでも通じている
宮藤官九郎の意図とは、そんな感じの名前、ということかもしれない

そう考えるとベンジーには「もう後半」を「蒙古斑」と聞かせる意図があったのだろうか?
いや、流石にそれはないだろう
それをやったらダブルミーニングではなく、最初から空耳アワーを狙ったことになる
そんな卑怯なマネをベンジーがするはずない

だが、「蒙古斑のような人生」という概念がなぜか気になる
蒙古斑は、子供の頃にはアザとして存在するが、大人になると消えてなくなる
決して消えてなくなることがない思っていた傷が、気づくと消えているのが人生だ、と捉えると人生は前向きになれる
もしかしたらベンジーは、本当は「蒙古斑」と歌いたかったが、それだと付いて来れる人が少なくなるので「もう後半」に変えたのかもしれない

そう考えると、妻の聞き間違いには意味がある
残念なのは、その解釈を妻から聞くことが出来ず、妻が「だいたいでしか聴いてない」ことが判明したことだ

だが、妻が「だいたいでしか聴いていない」結果、私が一生懸命聴いて、「人生は蒙古斑」という素晴らしい境地に達することができた
2人で一つと考えるなら、いい組み合わせだ
私1人では、こんなことは思いつかなかった

だが、妻の鼻歌は癪に触る
いい歌詞なんだから、せめて歌詞を覚えてから歌ってくれ

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