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さよなら トラ

5,6年前からだろうか
我が家に1匹の野良猫がやってきた。

三毛猫のメス
やたら人懐こい。

にゃぁお~ぉ
気位高そうに、しっぽをピンとたて
猫なで声で足に纏わりつく

数日で、すっかり
猫好きの母のハートを掴んだ!

みーこ。みーこちゃん。
さっさと名前もちょうだいし
我が物顔で家の中を闊歩していた

それから数か月後
みーこが友だちを連れてきた

グレーと白のしましま
ちょっと目つきワル
スラっとした貴婦人みーことは対照的で
首が肩に入り込んでいるような姿勢
にゃん相(人相)も悪役風
命名 トラ

決して私たちに近寄らず
遠くから上目遣いに
にゃん(ご飯)と鳴く
トラが餌を食べていると
みーこが猫パンチを浴びせ、横取りする

本当に猫ダチ(友達)なのか
猫ダチの条件が分からない…

トラは、風貌に似合わず
臆病だった
ちょっとした物音にも敏感に反応する

餌を食べたらどこかへ行ってしまう
定位置が、玄関ドアのレールぎりぎりなのに
玄関が開いていても
決して家の中に入ることはなかった

しばらくしてトラは
猫同士のけんかで
首の左側を大きく食いちぎられてしまった

大きくえぐれた首は
肉が見えて痛々しかった

乾いてくると今度はかゆいらしく
後ろ脚でかいたり
塀の角にこすりつけたりするから
いつまでもぐじゅぐじゅしていた

夜は外で寝るのか
ぐじゅぐじゅに枯れ葉を付けて来ることが
よくあった

薬をつけてあげたくても
つかまらなかった
目でも合わせたものなら
ウーぅと
嫌そうな低い声を発した

みーこは
家の中と外を自由気ままに
行き来していた
冬はストーブやこたつでぬくぬくと

亡くなった母は寒かろうに
みーこが夜中でも出入りしやすいようにと
自分の部屋の窓をみーこ分
開けていた

本当に対照的な2匹だった


そのトラが
今日、亡くなった。
動物だから「死んだ」なのか…

先週の金曜日に
いつものように玄関先に来たとき
いつもと様子が違っていた

動きが緩慢
鼻が詰まっているような呼吸と
黄色い膿のような鼻汁
餌も食べずに
しばらくうずくまっていたが
その後、いつものようにどこかへ行ってしまった

日曜日の夕方
玄関先に来たトラを見てショックをうけた

がっちりしていたカラダはやせこけ
寒さのせいか、力がはいらないのか
ゆらゆら揺れていた
片目は完全に閉じられ
頭は垂れたままだった

急いで玄関先に
毛布入りの段ボールを置いたが
人を避けているトラが
そんなところに入るわけがない

しばらく家に入って様子をみる
就寝前に、静かに玄関を開けると
入ってくれていた

トラはいつも
ウチと、道路を挟んではす向かいのお寺を行き来しているようだった
昼間の数時間、ウチに来て
夜はお寺の庭あたりで過ごしていたらしい

月曜日にはお寺に行きつけず
道路わきに寝ていたという
たまたまウチに来た姉が発見し
ウチの車庫にトラを誘導してくれた

トラはウチの車庫が好きだった

やっぱり最期は、車庫かな
コンクリート製だから寒いけど
外で北風に吹かれて眠るよりいい

朝、そうっと重い扉を開けて見に行くと
昨夜毛布に入っていてくれていたのが
毛布の段ボールから出て
コンクリートの上にうずくまっていた

使い捨てカイロを2つ
毛布の間に入れ
トラをそうっと毛布に入れた

初めてトラを手ですくった

声も上げられないほど弱っていた

午前中の用事を済ませ
動物病院に向かった

段ボールに入れ、車に乗せても
もう抵抗する力もない
少し嫌がったが
運転しながら、片手でトラの背中を
軽くトントンしてあげていたら
安心したのか静かになった

今まで人に触らせることもなかったカラダ

でも
本当は
撫でたり、抱きしめたり
してほしかったのかもしれない

人に近づかなかったのは
幼いころに、人間に嫌なことをされたことがあったのか

動物病院まで約10㎞
トラに触れられて、安心したのは私の方だった
見かけと違って
トラの毛は柔らかかった
やせこけて骨と皮になってしまった
小さなカラダ


病院につき、しばらくしてトラは息を引き取った


改めて

トラは
どんな毎日を過ごしていたのか
夜はどこで寒さをしのいでいたのか
気持ちが休まるときがあったのか
しあわせを感じたことがあったのか

人にうまく甘えられなかったトラ
私は自分を見ているような気がしていた


今夜もガラス越しに
風が吹き抜ける音がする


もうトラの寒さを心配しなくていい

今夜だけ
トラは私の部屋にいる










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