見出し画像

そして川は流れる 4 (連続短編小説)

ジンと伊都は、
都会の真ん中にある
老人向けマンションにいた。

俊宏はしゃんとして、
昔のままだった。

「亜矢、ジンと伊都さんが
来てくれたで」

俊宏に寄り添われて
奥から姿を現した亜矢は
子供のような目をしていた。

「ジン? イトさん?」

亜矢は嬉しそうに笑った。

「初めまして。
神木亜矢と申します」

なんとなく予想はしていたが
ジンも伊都も戸惑ってしまった。

「・・・アルツハイマーでね、
この数年、こんな感じなんだ。
僕が元気だから、問題ないけど」

亜矢はニコニコと笑って
ジンと伊都を見ていた。

「俊さん・・・、大変でしたね」

ジンの言葉に、俊宏は大らかに笑う。

「いや、こんなもんだよ、
老夫婦。僕らには子供もいないし
余計な気遣いされないだけ
気が楽や」

「私たちも、大変ご無沙汰して・・・」

伊都は、俊宏に謝る。

「いやいや、生きているうちに
会えてよかったよ。
ところでジンはいくつになるんや?」

伊都に気を使い、俊宏はジンに
尋ねる。

「それが、45で・・・
アキラの死んだ年になってしまった」

「おお、そうか。
アキラはもっと
オヤジっぽかった気がするけど
ジンは若いな。
そうか、あのジンが、アキラの年に・・・」

俊宏は感慨深く、ジンを見つめる。

「いろいろ思い出すなぁ。
アキラは僕より10才近く若かったけど、
いろんなエピソードがあるよ。
僕が元気なうちに、語っておきたいなぁ」

「じぁあ、本当に、これから
しばらくお邪魔しますよ」

「ええよ、うれしいわ」

俊宏は久しぶりに昔を
語れる人と会えてうれしそうだった。

ジンたちの息子、良が16才
圭が13才という話を聞いて、

「アキラとゴウを思い出すなぁ」

とつぶやいていた。

「ジン、これ」

突然、亜矢が、居間の片隅に
飾られている絵を指さした。
そして、明るい声で尋ねる。

「トモくんは元気?」


               続

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?