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「November Rain」(シナリオ)

あらすじ
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作曲家の森悠子は、
自分のTwin soul 
ともいうべき存在が、
今、NYの11月の雨に
降られている、と
夫の敏男に語り始める。

愛猫のミラは
鏡の向うの世界をのぞきにいく。


人  物
森悠子(37)作曲家
森敏男(41)悠子の夫
ジョディ・フォレスト(47)NY在住の司書員
エミリ(7)ジョディの姪
アンリ(78)雑貨屋の店主

○森家・庭

  大きな庭に面した
  サンルームの窓が開いていて、
  中にはグランドピアノの前に
  座る森悠子(37)の姿。

  ワンフレーズほど曲を弾くと、
  すぐに鉛筆を手にして、
  楽譜に音符を書き込んでいる。

  メロディが少しさみしげな
  間奏部分にさしかかると、
  悠子はふと眉を曇らせ、立ち上がる。

○同・ピアノ室サンルーム

  ソファにころがっていた
  森敏男(41)が、片目を開ける。

  敏男の腹の上に寝ていた
  猫のミラも、ぴん、と耳を立て、
  様子を伺っている。

  悠子、バタン、と窓枠を引き下げて、
  窓を閉めると、手をすり合わせ、
  再びピアノに向かう。

敏男「寒くなってきた?」

   悠子、驚いてソファを見る。

悠子「そこにいたの?」

   敏男、腹の上のミラを
   なでながら笑う。

敏男「猫並みの扱いだな」

   悠子、笑いながら、
   ソファに近づき、
   ミラの頭をなでる。
   のどを鳴らして甘えるミラ。

悠子「お茶でも入れましょうか? 
  ちょうど3時だし」

敏男「悠子のキリのいいところでいいよ。
  今の曲、どことなくさみしげだったね」

悠子「そう、さみしい曲ね。
  なんだか急に、‘November Rain’を
  思い出しちゃった」

敏男「ガンズ&ローゼス の?」

   悠子、うなずく。

悠子「11月のNYは、冷たい雨の季節。
  何だか思い出しちゃった」

敏男「・・・でも悠子、NYには
  住んだことないんじゃ・・・?」

   悠子、神妙な顔をしてうなずく。

悠子「いろんなところで
  暮らしてきたけど、NYはないわね。
  でも、ガンズのこの曲は、
  心にしみるくらい懐かしい・・・
  っていうか、私の一部が、知っている。
  きっといるんだ、NYに」

敏男「・・・え?」

   敏男、驚きと、また始まった
   という表情で、悠子を見つめる。

○同・サンルームの扉の前

   ミラが伸びをして
   部屋の外に出て行く。

○同・サンルームの中

   夢見るような表情の悠子が、
   敏男の横に座っている。

   長い髪が頬にかかっている。
   敏男、その髪を耳にかけてやると、悠子、
   ゆっくりと語り出す。

悠子「・・・中年の女性・・・
  濃い目の金髪で小柄で、
  ちょっと太めなの。
  仕事は・・・たぶん図書館の司書。
  彼女がNYにいるの。
  大きくて青い瞳、少し派手すぎる
  赤いルージュ、独身で                                         
 ・・・中指に金の指輪をしている」

  敏男、悠子の髪をもて遊びながら、
  面白そうに聞いている。

悠子「外は冷たい雨の降る街。
  図書館の中は温かい。
  ゆっくり流れる時間。
  クリスマス前のNY・・・」

  悠子、ハッとして顔を上げる。

悠子「いけない、彼女、
  姪っ子にクリスマスプレゼントを
  買うのを忘れていたわ。
  急いで職場を出るの。
  街はクリスマス一色、
  道路は泥の混じった水で濡れている。
  ほら、冷たい雨が雪に
  変わり始めた・・・」

  悠子、敏男の肩にもたれると、
  つぶやくように言う。

○森家・バスルーム

  ミラがひょいと鏡台の上に登り、
  鏡を覗き込む。
  猫の姿が映る。
  白い毛並み、黄味がかった瞳。

○(イメージ)NYの街角(夕暮れ)

  ジョディ・フォレスト(47)は、
  泥水に足をつけないよう、
  ヒールでつまさき立ちで歩いている。

  街のショーウィンドウを
  ひとつひとつのぞきながら、
  エミリ(7)のプレゼントを探す。

  どの店もクリスマスの装飾で
  輝いている。

  ジョディは、女の子の
  好きそうな雑貨店に入る。

  ドアを開けると、チャリン、
  と鈴の音がする。

○同・店内(夕方)

  入口のショーウィンドウには、
  大きなクリスマスツリーが飾られ、
  金や銀のオーナメントが
  つるされている。

  ジョディはうっとりと
  ツリーをながめ、
  そのまわりをぐるりと一周する。
  
  レジ台には、店主らしき老婆、
  アンリ(78)が、
  編み物をしている。

  ジョディは、アンリの邪魔を
  しないよう、静かに
  店の中を見て回っていく。

  一番手前の棚には、
  かわいらしいお菓子の入った
  ギフトが並んでいる。

  次の棚には、いろんな種類の
  オルゴール。
  小さなものは、子供の
  おもちゃのようで、
  大きなものになると、
  かなり重そうなメリーゴーランド型の
  ものもある。

  ジョディはその値札をちらりと見て、
  溜息をつくと、先に進む。

  今度は、カードの棚。
  様々な種類のカードがあるが、
  今はさすがにクリスマス用が
  メインになっている。

  ジョディは上下左右を見渡して、
  比較的宗教色の濃い、
  天使がキャンドルを
  持ったカードを選ぶ。

  カードを持ってレジに近づくと、
  一番奥の棚に
  マリア像と天使の絵が飾ってあり、
  ジョディは立ち止まる。

  アンリがやっと編み物の
  手を止め、顔を上げる。

  年は取っているが、美しい老婆だ。
  白い髪を束ね、青色の瞳をしている。

アンリ「プレゼントをお探しですか?」

  ジョディはうなずく。

ジョディ「姪っ子が喜びそうなものを、と思って」

アンリ「かわいいお嬢さんでしょうね。
  クリスマスを楽しみにしてることでしょう」

ジョディ「・・・そのマリア様、すてきですね」

  ジョディ、アンリの横にある
  マリア像を見て言う。
  アンリ、うなずいて微笑む。

アンリ「あなたに神の祝福が
  ありますように。姪っ子さんにもね」

○NYの街角の教会(夕方)

  クリスマスの装飾とキャンドルに
  照らし出される古い教会。
  ステンドグラスには、
  キリストとマリアの姿が描かれている。

  教会の重い扉を開き、
  中に入っていくジョディ。
  寒そうにコートの前をかたく閉じ、
  手袋をした手に息を吹きかける。

  誰もいない教会の祭壇に
  近づくジョディ。
  どこからか讃美歌が
  聞こえてきて振り返るが、誰もいない。

  祭壇でひざまずいて
  祈りを捧げるジョディ。

  ジョディが教会から出ると、
  外の雨は雪に変わっている。

  目を細めるジョディ。
  ほほえんでいるようにも、
  泣き顔になっているようにも見える。

  その時、ミラが、ジョディの
  足元をかすめて、
  教会の扉から出てくる。

  その純白の毛並みが美しく、
  ジョディは、 猫を呼ぶときの
  ような音を舌で鳴らす。

  こちらを振り向いた猫の黄色い瞳。

  ジョディは、一瞬何かを
  感じたかのように、再び目を細める。

  そして今度は懐かしそうに微笑む。

○森家のキッチン

  温かい湯気の上がる
  ティーカップがふたつ、
  テーブルに並んでいる。

  それをはさんで、
  向かい合う悠子と敏男。

敏男「それで? 
  彼女は姪っ子へのプレゼントを
  買えたのかい?」

悠子「さぁ・・・でも毎年のことだから、
  きっと何か見つけたんじゃないかしら。
  教会を出て、彼女は雪降る夕暮れの中、
  家路につくの。
  11月の雨、どれほど冷たくて
  さみしいことかしら」

  悠子、ヒーターに手をかざしながら、
  November Rainのメロディを
  口ずさむ。

  すると、ミラがどこからかやってきて、
  ヒーターの前を陣取る。

悠子「おかえり、ミラ。
  NYは寒かったことでしょう。
  彼女に会いに行ってくれたのね、ありがとう」

  敏男は、やれやれといった顔で、
  笑っている。

○NY(夕方)

  再びNYの雪降る夕暮れ、
  街の喧騒を離れ、
  天高く街を見おろす視点、
  そして雪の白が濃くなり、
  November Rainのメロディと
  共にフェイドアウトする。

                 了

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