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僕たちの景色 8 (連続短編小説)

結局、朋明の母親、
樫井奈緒さんとは会わずにいたが、
ジンやトモから
現状は聞かされていた。

「奈緒さんは、父親が画商で、
その手伝いをずっとしているらしい」

ジンにそう言われて、驚いた。

「画商? 芸術家?」

横で聞いていたトモが笑った。

「みんなそう聞きますね。
じいちゃんは、絵の売り買いを
しているだけで、自分は描きません。」

トモの声は、まだ
ボーイソプラノだった。

「母は、その事務的な手伝いをしながら
僕を育ててきたんです。
ま、実家がそこそこ金持ちだったから、
その上、ばあちゃんが早くに死んじゃったから
一人娘の母のわがままをじいちゃんが
認めてくれたって感じです」

自分の身の上を淡々と語る
トモの目は、どこか悟った
ところがあった。

「じゃあ、今はおじいさんと、お母さんと
トモの三人暮らし?」

亜矢の問いに、ジンが答えた。

「そだよ。
めちゃ広い家に三人。
オレも時々泊めてもらうけど」

僕はため息をついた。

「なんか不思議な関係だなぁ。
奈緒さんはともかく、おじいさんは
ジンの存在をどう思っているのかな」

16才のジン相手に、要らぬことを
言ってしまった。
が、ジンはケロッとしている。

「じっちゃんは、奈緒さんが
楽しそうにしていれば、
それでいいんだよ。
それに、なんだかんだ言って
オレを気に入ってるし」

さすがの人ったらしのジンである。
ややこしい人間関係の中でも
うまいことやっているらしい。

トモは、静かに笑っていた。
「ジンは、半分くらいしか
自分ち帰ってないんですよ。
あとは、うちか、伊都さんのとこ」

「え?伊都さんは一人暮らしなの?」

思わず亜矢が尋ねる。

「それじゃ、オレがヒモみたいじゃないか。
伊都んところも、家族いるよ。
両親と、ばあちゃんと、弟が二人。
弟がガキでうるさくて、いつもばあちゃんの
部屋でくつろいでる」

いかにもジンらしいアプローチに
僕たちは笑ってしまった。

「どこにいってもジンは人気者だ」

トモがポツンと言った。

「ああ、実家以外では、な」

ジンが鋭く返す。

笑っていいのかわからないが
僕たちはまた、笑ってしまった。

「あ、そんで・・・」

ジンが思い出したように言う。

「トモは絵描きなんや。
じいさんの影響で子供の頃から
絵に囲まれて育ったからか、
すごい芸術的な感じやろ?」

トモは、恥ずかしそうに笑う。

「やめてよ、ジン、まだ夢なんだから」

「ええなぁ、夢があるって」
と、僕。
亜矢は、是非、今度絵を見せてくれるよう
約束していた。

なんとなく温かな関係に、
僕はうれしくなった。

              続


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