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鴨川の夕日、レモンサワー

「緊張して目が見られへん」
なんて言っちゃうような、可愛らしい人にあっけなく僕は負けそうだ。

出会いはいかにも現代風でマッチングアプリ。
彼女は京都で僕は鹿児島だから、実際に会う日が来るなんて思ってもいなかった。

マッチング→インスタを交換→LINE交換→電話するようにというありきたりな流れで電話をするようになった僕らは、今日初めて会った。

自分でも特殊だなと思うけれど、僕はいつからか人の容姿よりも話し方の癖や声に惹かれるようになっていた。
これは音楽が好きな事が関係してるのかな、なんて思ったりしている。

社会人になってから痛みに強くなり、涙を流す事がなくなった僕でも、音楽を聴いた時だけ五感が緩くなる。

そんな特殊な僕は彼女と初めて電話した時、可愛らしい関西弁と穏やかな口調に心奪われてしまったのだ。

関西に行く予定があったから、会うことになった僕らは、何故だか朝の10時に京都に集合して晩御飯まで食べようという、初対面にしては長すぎるタイムスケジュールを組んだ。
理由は、ちょっとでも長く遊ぼっかって言うまるで学生みたいな理由だった。

初めて合う場所は京都。
電車の中、待ち合わせ場所の祇園四条駅に着くまでに、少し長すぎたかななんて思いながら不安とドキドキと揺られていた。

駅のホームで初めまして。一言目に
「緊張して目がみられへん」
なんて言っちゃう可愛いらしい人だった。

約10時間の長すぎるデートの中身はほとんど歩くか食べてかの2択で、それでも居心地が良かった。

午後6時、夕陽が沈む時間帯の鴨川。
等間隔で座る人達の間に紛れて僕らも座る事にした。
コンビニでレモンサワーを買って、徐々に灯りが点き始めて夜に変わる街を眺めながら鴨川を歩いた。

夕日に照らされる綺麗な彼女の髪の毛。
東京にいる美容師の姉に綺麗にしてもらったと嬉しそうにしていた。

夕日の時間の鴨川とレモンサワー。なんだか小説みたいだな、とまるで他人事のように思っていた。

僕は20歳の頃くらいまで「この人以外は考えられない」と、盲目になる恋愛ばかりしていたのに、ここ最近そんな気持ちになることがなくなった。

どこに置いて来てしまったのだろうか。
夕日を見て綺麗だね、と呟く彼女を見ながら考えた。

「寄りかかる事が怖い 愛ゆえに」
カネコアヤノの歌が頭をよぎった。

彼女とならどこに行っても楽しいだろう。
でも。

きっと僕は怖いんだと思う。
誰かに寄りかかって、優しい日々を過ごしてそれが当たり前に変わる時が。
僕にとって特別な存在を作る事が。

次は餃子とビールにしようと言って、2週間後にデートの約束をした。
2週間後はちゃんと言えるだろうか。

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