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育種の醍醐味は、元の品種が隠し持っていた魅力的な特徴を備えた新しい品種を作り出すこと!!

   三宅勇さんは、アマリリス、アルストロメリア等の生産と育種を行い、1985年に三宅花卉園を設立し、世界的に珍しい原種や育種によるオリジ
ナル品種を普及してこられました。
三宅さんの作り出した品種は、オランダフロリアード2022年に世界初の八重咲きアマリリスで金賞を取るなど数々の賞を受賞し、オランダを中心に世界で流通しています。
2004年からは息子の泰行さんも後を継承して生産と育種に取り組まれています。

  今回は、三宅勇さんと息子の泰行さんに、これまでの育種の取組みについて語っていただきました。
特に、勇さんからは長年に及んだ八重アマリリス、種子系アルストロメリアの育種の模様、育種の醍醐味とその役割、そして若い育種家に向けての熱いメッセージが話されました。    


三宅勇さん: 千葉県茂原市にある三宅花卉園の三宅勇です。私は、1972年
        28歳でサラリーマンを辞めて花の栽培を始めました。当初、アマリリ
        ス、アルストロメリア、ニューココリーネ等は栽培面積が 少ないの
        で、実生▾で増やしましたが、実生で作ると変異が起こるため、自分好
        みの色や花形のも のを選んで交配実生を行ったことが育種の世界に入
        ったきっかけです。
  

三宅勇さん

   私が初めに行ったのが、種子系アルストロメリアの育種でした。千葉
       市の小森谷農園が勧めてくれた宿根草▾のエレムルスの種子を播種した
       ら、そこに交じっていのかアルストロメリアの花が咲き、新しい切り花
       になると思い、交配実生を始めたのです。

  得られた白、黄色、橙、桃、赤等の色を均一にそろえようと色別に交
       配、実生を繰り返したのですが、うまくいきませんでした。同じ色でも
       花被片の先端や花容▾の基部等に別の色が潜んでいることに気づき、極
       力純粋な色のものを選んで交配、実生を繰り返し、7~8年かけて赤、
    

三宅さん育成のアルストロメリア

  白、黄、桃等、7種の種子系品種を固定を行うことができた時の歓びは
      格別でした。                                                                                                   
  アルストロリアは、この他に斑点や筋模様を無にしスポットレスタイ
  プ、シングルタイプ、ショコラタイプの4種のシリーズ化に20年をかけ
  て成功することができました。

   育種は長い歳月を要する作業です。ダブルアマリリスは、雌雄ずい▾
  が花弁化して八重になるのですが、その花弁数を安定させるまでに10年
  
を要しました。 

八重アマリリス  カメリアローズ 
アマリリス  サウザンレッド
アマリリス  福娘
アマリリス  艶消し赤

  資金の乏しかった私が長い年月の育種を続けられたのは、選抜外▾の花
  のほとんどを市場に販売できたから
です。

   育種の元である原種▾は、ほとんどが魅力的なものです。しかし、原
  種は1種です。1種である原種の魅力、本来秘めていて発揮できない原種
  の特性を交配によって目に見えるように発現させ、いかに園芸種として
  引き出すことこそ育種の醍醐味
です。私の育成した品種は、国内では
  47品種、海外では9品種が登録されました。

   私が育成した種子系アルストロメリアは、今も大手種苗会社のカタロ
  グに掲載され、ホームセンター等でも扱われています。時代の要望に応
  じる花創り、その最前線にあるのが育種です。要望には、その最前線に
  身を置いて完成を研ぎ澄まし、応えていかねばなりません。
そこに身を
  置くことができれば、おのずとして分かるものだと思います。

   ダブルアマリリスは1990年代からアマリリスのブームがあり、特に私
  の作った八重アマリリスはオランダ、アメリカ等で非常に引き合いが強
  く、国際市場で新たなマーケットを起こすことができました。広く海外
  への販売をめざすには、販売しようとする品種のグローバルなバックグ
  ランドを熟知し、自らの育成品種の立ち位置を見ことが必要
です。

   これまでの育種の経験から、私は生産者育種家の立場として品種登録
  の有無に関係なく、育種により新規性▾、オリジナル性を出して市場で
  競合できることは、経営を有利にし財産につながる
ということを学ぶこ
  とができました。

   育種はなかなか思うような成果が上がらないものです。若い育種家
  の皆さんには、10年20年30年かけてチャレンジする情熱をもって頑
  張ってほしいです。

     
三宅泰行さん:  勇の息子の泰行です。2004年から父の後を継いで三宅花卉
  園花の生産と育種に加 わりました。育種の初めは実生開花まで6年と時
  間のかかるベラドンリリーでした。                

   ニューココリーネとアルストロメリアは父が育種をかなり育種を進め
 

三宅さん育成のニューココリーネ

    たので、新規性を出すのが困難ですが、ガーデン向きの四季咲き▾系ア
  ルストロメリアで1品種を商標登録しました。
  
  ベランドリリーは最終選抜 に動いていて、理想とした品種の作成がで
  きつつあります。また、現在成功例がないクリナム・ゼイカラムとの族
  間交配▾に成功して、数年後の開花に期待しています。

   現在、切り花は全国のデザイナーや華道家から、ガーデン向け用はホ
  ームセンター、ガーデンセンターからの評価は受けていますが、皆から
  手に取ってもらうことが必要です。
  特に若年層への普及拡大に向け、オーガニック系化粧品、バス用品等を
  販売する外資系のショップやBRUTUS 等の一般紙で切り花や球根の魅力
  を伝えるよう努めています。
  また、カフェと花屋とコラボし、コーヒーから作ったオリジナル培養土
  と球根の販売を行っています。

   今後、アルストロメリアでは、ガーデン系は耐病性と生産性を持つ品
  種の育成、四季咲き系の品種の拡大、ニューココリーネでは、できたグ
  リーン系を使った育種、ラケナリアではグリーン系品種の拡充等を目標
  にしています。

   私は、花菖蒲育種の第1人者で、父に育種を教えてくれた故平尾秀一
  先生が語った「育種家は、どうだ、すごいだろ!と自分が育種したもの
  が一番だという気持ちで育種をしなさい」、「育種家は、自分の命が永
  遠に続くものだという気持ちで育種を行いなさい」という言葉
を心の拠
  り所として、これからの育種に取り組んでいこうと思っています。

   #アルストロメリア   #八重アマリリス   #三宅花卉園        
   #ニューココリーネ    #エレムルス    #魅力ある原種
   #園芸種    #育種の醍醐味    #時代の要望
   #ベランドリリー    #命が永遠に続く気持ちで

       
            用語(▾印)解説
 ▾実生: 種から芽を出して成長すること。その種から発芽した植物。
 ▾宿根草: 毎年花を咲かせる草花。生育に適さない時期が地上部は枯れ
    てしまうが、それをすぎると再び生育を始める。 
 ▾花容: 花のかたち。花様。
 ▾雌雄ずい: 雌ずいと雄ずい。雌ずいはめしべのこと。雄ずいはおしべ
    のこと。雄ずいは、花粉を入れる袋状の葯とそれを支える花糸から
    なる。
 ▾選抜外: 育種では、育種作業により得られた多くの植物体の中から有
    用な形質を持つものを選び出して(選抜)新品種を得ている。その
    選考から漏れたものは選抜外と呼ばれ、通常は廃棄されている。
 ▾原種: 品種改良を行う以前のもとの動植物  
 ▾新規性: 既存のものと区別される特性。新品種は既存品種にない特性
    を持つことが必要。
 ▾属間交配: 異なる属の間で行う交配
 ▾四季咲き(性): ある程度株が充実してくると、生育に必要な最低気
    温があれば、1年中花芽をつけて花を咲かせる性質。日本だと、春
    から秋にかけて断続的に咲き続ける性質。
 ▾平尾秀一: 神奈川県逗子市の山の中腹に住み、サボテン、花菖蒲等の
    育種を行い、特に花菖蒲では花形、花色等多種多様な160に及ぶ
    品種を作出した。国内外の育種を志す園芸課に種々の情報や種苗を
    提供し、若い育種家の育成にも力を注いだ。昭和60年6月8日に
    70歳で死去。


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