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果肉まで赤く、甘みの強いイチゴ「真紅の美鈴」が人気品種に

 皆さん、こんにちは~
 徐々に寒くなってきましたが、東京でも最高気温が20度近くまで上がる日もあり、寒暖の差が激しくなっています。新年を迎える前に、お互いに風邪などをひかないように注意したいものです。
 
 前回は、私が名前を変更して1回目の投稿記事で育種体験記事を休み、リング名改名五に世界王者となったボクシングのガッツ石松の話を紹介しました。今回からは、フタタ母育種家の体験記事に戻ります。他の植物より比較的多い花の育種家の記事を多く取り上げてきたので、花以外の育種家を紹介しようと思いました。
 
 そして、クリスマスの近いのでイチゴの乗ったショートケーキを食べる人も多いと思ったので、今回はイチゴの育種家である千葉県大網白里市の成川昇さんの体験を紹介することにしました。成川さんが育成した果肉まで赤い「真紅の美鈴」は、甘さが強いことで、これまでに多くのマスコミに取り上げられました。
 では、成川さんの育種体験を紹介します。

  


話し手  成川 昇さん                   

 ❒千葉県農業試験場に勤務
                   (カバー写真は「真紅の美鈴」)
 東は太平洋で九十九里浜の南西部に位置し、西は千葉市と隣接している千葉県大網市。東京への通勤客も多いこの大網市で、イチゴを育種している成川昇です。
 
 父は1960年頃までは稲、麦、落花生を生産し、その後は野菜を生産する専業農家でした。現在は3男の弟が後を継いだのですが、当時長男で実家を継ぐつもりだった私は、勉強も兼ねて1966年に千葉県農業試験場に就職しました。  

 ❒イチゴの育種に加わる 


 蔬菜研究室の一員となってキャベツの抽苔▾を防止する研究をしていた私は、1973年から元上司だった石橋室長が始めていたイチゴ「麗紅」の育種に加わることになったんです。経験もなかった私は、室長の指導を受けて育種を教わりました。それが、私のイチゴ育種のスタートなんですよ。


「麗紅」

 
 「麗紅」は、果実が大きく良食味で多収の品種を作ることが育種目標でしたが、完成した「麗紅」は果実がダマゴ大の大きさになるなど予想を上回る品種となり、その後は、「麗紅」を超える味を育種目標にして育種が続けられました。できあがった「ふさの香」は味が良く、千葉県の山武地域での観光イチゴ園では必ず導入されているんですよ。
 
 ❒退職後もイチゴの良食味品種、種子繁殖品種の育成に取り組む

 農業試験場でイチゴの育種に携わった私は、退職した後も一人でイチゴの育種を続けました。2003年から地域に適した良食味品種とこれまでにない種子から栽培できる品種の開発に挑戦しました。
 
 良い品種を作り出すには、交配した親品種の血をひいて発生した個体の中から、これは目的とする特性を備えているものを選抜することが必要です。「育種は捨てること」といわれるように、選抜したら他のものは捨てていきます。でも、良いものを選ぶのは育種家の感性であり、選抜したものが本当に良いものだったのか、捨てた中に良いものがあったのではないかはわかりません。ですから、私も他の育種家の皆さんと同じで、連日のように育種している圃場を眺めて、選ぶことにこれが良い思うものを選ぶよう努力してきました。
 
 ❒果肉も赤く、甘みの強い「真紅の美鈴」を開発、メディアで取り上げら
  れる

 その努力の結果、8年かけて育成した良食味品種の「満春」と「真紅の美鈴」の2品種を登録することができました。中でも「真紅の美鈴」は、果皮は濃赤で果肉も赤い特徴のある品種です。
 
 果肉まで赤いイチゴは、酸っぱい味のものが多かったりして、これまでは評価が低くて敬遠されてきたんですよ。自分としては、食味の良いイチゴを作ろうと思っていましたが、私が交配して中から誕生した1粒が果肉まで赤くなり、しかもそれが強い甘味を持っていたのは、全く予想していませんでした。
 
 「真紅の美鈴」は、果肉が赤かったので味は酸っぱいのではないかと思って食べたところ、甘みが強かったので、これは珍しいと思って選んだんです。調べてみると、糖度と酸度のバランスを示す糖酸比▾が21とこれまでのイチゴにない高値だったんですよ。
 
 そんなことから、インパクトのある赤い果肉と甘さが評判になって、多くのメディアに報道してもらい、人気品種になることができました。


「真紅の美鈴」(果肉も赤いのが特徴)

 
 テレビでも、2021年に、テレビ朝日のごはんジャパンではCMを除いても23分間取り上げられました。他にも、日本テレビの「嵐にしやがれ」、TBSテレビの「マツコの知らない世界」など、10を超える番組に取り上げられました。これには自分でも驚きましたが、うれしかったですね。
 
 ❒農業技術協会などから多くの賞を受賞

 それだけじゃありません。私は、光栄にも農業技術協会(現農林水産・食品産業技術振興協会)から1999年に農業技術功績者表彰、園芸振興松下財団から2003年に園芸功績賞、2012年に全国新品種育成者の会から育種功労賞をいただくことができたんです。


「真紅の美鈴」

  
 ❒栽培者が全国で増加中

 「真紅の美鈴」は、12月中旬~5月中旬までハウス内で販売するとともに、電話注文を受けて販売しています。栽培希望者には、権利者である私が希望農家と許諾契約を結んでいます。マスコミで報道されたおかげもあって、2023年10月1日現在の契約者は、全国で98名となり、今後も増加するだろうと期待しています。苗は、親株は私が販売し、定植苗は県内の業者に頼んで、私が契約した者に配布してもらっています。
 
 ❒多くの人に食べていただき、高評価をもらえたことが最大の喜び

 長年取り組んできた育成者として、自分が作り出した品種が世の中に出ていくことは、育種の醍醐味です。最大の喜びは、自分が交配した中から選抜した1粒が品種となって無無限大に拡がり、それを多くの人に食べてもらえることですね。


試験場時代の先輩・同僚とともに

 
 そこから学んだのは、育種において交配は自分一人でもできますが、新品種になるまでは多くの人に栽培してもらって評価をいただき、最終的には消費者に認めてもらうことが大切だということです。果皮と果肉が濃い赤色で、それまでだとマイナスとなる特性の「真紅の美鈴」がその甘さで先入観を覆す高評価を受け、栽培者も増加してきているのは予期していなかったことであり、何よりもうれしく思っています。
 
 種子から栽培できる品種を目標とした育種では、「美生の宝」を育成し、2016年に登録申請を行い、現在国による審査が行われています。
 
 これまで3品種を誕生させることができましたが、交配、採種、育苗等を、農家から借りたハウスで行ってきたので、その農家には大変感謝しています。
 
 ❒若い育種家には、「交配すれば新品種はできる」と確信して育種に取り
  組んで欲しい

 育種は長い年月を要する作業で、思うような品種を作り出すのは大変だと言われます。
なかなか順調にいかない中で、弱気になったりしないかと聞かれることもありますが、私は「交配さえすれば、新しい品種はできると信じているから大丈夫だ」と答えてきました。若い育種家の皆さんには、「育種は楽しい」と思って取り組んで欲しいです。
 
 現在、良食味品種のイチゴでも、3月中旬~下旬に味の低下が見られるので、私はその時期でも味の落ちにくい系統▾の選抜を進めています。それを何とか新品種開発につなげたいと思っています。
 
 
            用語(▾印)解説
 
▾抽苔:  「抽台」、「とう立ち」ともいう。農作物に花芽が付き(花が咲
  き)、花茎が伸びる現象。キャベツやダイコンなどの葉根類の多くは、
  栽培中に茎が伸びない短縮茎だが、花芽がつくと茎が伸び始めて葉や根
  の発育が抑えられて収量が低下する。
 
▾糖酸比: 果物の糖度と酸度の比のこと。糖度を酸度で割って求める。
  糖酸比が高いほど甘く、低いほど酸っぱく感じる。
 
▾系統: 品種になる前で、まだ名称のついていないもの。

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