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春はあけぼの最上段から六甲おろし

#67

春はあけぼのやうやう白くなりゆく
清少納言の『枕草子』は319段あるが、
甲子園球場の外野席は52段である。
その最上段からの眺めは
遥か六甲の山の端を視界に捉える。
広告の看板を背に腰を下ろすと、
隙間から風が吹き抜けて夏は涼しい。
LEDの灯りに照らされてジェット風船が
飛ばなくなっても変わらない趣があって
そんな甲子園に今年も足を運ぶことになる。
僕の甲子園の観戦スタイルは、
レフト外野席の当日券を球場窓口で手に入れ、
陽が明るいうちに入場し、最上段の席に移動。
秋は西日が心地よく本のページを繰りながら
静かにプレーボールを待つのだが、
最上段からの眺めは虎党の熱量の違いで
レフトとライトでは景色が微妙に異なる。
選手の表情やプレーをじっくり見るには
バックネット裏がベストポジションだが、
フィールドまでの距離が近いため、
襟を正して見ないといけない思いに駆られる。
せっかく高いお金を払っているのだから
集中してちゃんと見ないともったいない。
自分のスタイルで楽しめないよそいきの観戦。
球場改修前は49段が最上段だったが、
看板との間に座席一つ分のスペースがあり、
奥行きがあるので足を伸ばし、あぐらをかき、
自宅のテレビを見ているように寝そべって
おしりを掻き掻き見ることができた。
そんなお気楽なレフト最上段付近は、
虎党と相手チームのファンとの緩衝地帯で
騒がしい応援もなくどこか適当なところもいい。
歓声もため息も嘆きもヤジもユルく交錯し、
おじさんがポツンと一人で座っていても、
グッズを身につけてもつけていなくても、
誰もが違和感なく溶け込めるよさげな感じ。
当日券が当たり前で長椅子の自由席のような
古き良き懐かしい風情をわずかに残し、
甲子園のオアシスになっていたのだけれど、
日本一になってオープン戦でも4万人が入る。
暗黒期の冬はもう遠い昔、
虎の昭和の常識は令和の非常識。
僕の居場所がなくなってわろし。

今週の虎党の呟き😓

手軽にチケットが取れなくなってわろし。

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