下書き

冬の都会は凍えるほど肌寒く、私は何ども静けさで冷えた両手を擦り合わせて温めいた。
上手く体温の熱が戻らなかった私は、夜の街灯に群がる光を浴びない昆虫たちの下にぽつりと立つ自動販売機で、缶コーヒーを一缶購入し、近くのベンチに腰掛けて、それのプルタブを開けた。
私の視界の前には、冬の切なさの美しさだけを反射させた池が雪の淡さを包み込みながら水面を揺らしていた。
暗くて池の奥の方で体を丸めて眠っている鯉たちの姿は良く見えないが、一匹の蝶がヒラヒラと鮮やかな羽を広げて飛んでいる様子はうかがえた。
その羽は青く輝き、まるでサファイヤの明かりを継承したかのように香っていた。
その蝶の姿は小さくも大きくもないが、繊細な作り込まれたその青はぽっかり空いた涙を食むように覆い包み、崇高的で、神秘的な輝きを永遠に放っていた。
私は一匹の蝶が直接に心に語りかける神秘さに、非力な手を伸ばして、触れようとした。
しかし、指先ひとつ触れることなく、その蝶は私に夢だけを託して、夜の源へと天高くのぼっていった。

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