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データでみる前半戦②サガン鳥栖(2022)

試合データでみる、サガン鳥栖の前半戦まとめⅡ

  2022年シーズンは前半戦を終え、後半戦が始まりました。現在は、e-1の代表活動中ために2週間の休止期間中となっています。その隙に、サガン鳥栖の前半戦17戦をデータでみていこうという企画の第2弾です。

使用データ

  データは SPAIA 様、Football LAB 様の HP から引用させていただきました。また、統計は対応のない2標本t検定で行い、有意水準5%の両側検定で実施しました。

前半戦の結果

前回のnoteはこちらで確認してくださいね。

1)アタッキングサード、ミドルサード、ディフェンシブサードプレー率

  前回、ボール支配率について考察はしましたが、ここからはその内容に関して深堀したいと思います。

図1 勝負別アタッキングサードプレー率
図2 勝負別ミドルサードプレー率
図3 勝負別ディフェンシブサードプレー率

  アタッキングサードプレー率は、勝ち試合で 28.92 %、引き分け試合で 24.16 %、負け試合が 24.40 %でした。アタッキングサードプレー率は勝つときは高く、引き分けあるいは負けのときは低くなる傾向がみられます。

  ミドルサードプレー率は、勝ち試合で 38.94 %、引き分けの試合で 40.42 %、負け試合が 51.77 %でした。勝ち試合と引き分け試合のミドルサードプレー率に比較して負け試合のミドルサードプレー率は有意に高値になりました(勝ち $${P}$$ = 0.0436 、分け $${P}$$ = 0.0021 )。ミドルサードプレー率は、勝つときや引き分けのときは低くなり、負けのときは高くなることは統計学的に正しいことになります。

  ディフェンシブサード率は、勝ち試合で 32.14 %、引き分けの試合で 35.42 %、負け試合で 23.83 %でした。ディフェンシブサードプレー率は引き分けの試合に比較して負け試合で有意に低値になりました( $${P}$$ = 0.0452 )。ディフェンシブサードプレー率は引き分けのときは高くなり、負けのときは低くなることが統計学的に正しいことになります。

2)アタッキングサードプレー数、敵陣30m以内プレー数、アタッキングサードでのタックス数、ペナルティーエリアでのプレー数

図4 勝負別アタッキングサードプレー数
図5 勝負別敵陣30m以内プレー数
図6 勝負別アタッキングサードでのタックス数
図7 勝負別ペナルティーエリアのプレー数

  アタッキングサードプレー数は、勝ち試合で236.80回/試合、引き分けの試合で241.00回/試合、負け試合が300.67回/試合でした。アタッキングサードプレー数は勝つときは少なくなり、負けのときは多くなる傾向にあります。

  敵陣30m以内プレー数は、勝ち試合で192.00回/試合、引き分けの試合で183.56回/試合、負け試合が223.33回/試合でした。敵陣30m以内プレー数はアタッキングサードプレー数と同様に、勝つときや引き分けのときは少なくなり、負けのときは多くなる傾向にあります。

  アタッキングサードでのタックル数は、勝ち試合で4.80回/試合、引き分けの試合で3.33回/試合、負け試合が2.33回/試合でした。アタッキングサードでのタックス数は勝つときは多くなり、引き分け、負けと徐々に少なくなる傾向にあります。

  ぺナルティーエリアののプレー数は、勝ち試合で22.00回/試合、引き分けの試合で22.78回/試合、負け試合で24.33回/試合でした。ぺナルティーエリアののプレー数は、勝ちのときや引き分けのときより、負けのときにやや多くなっていることがわかります。

3)パス成功率、敵陣でのパス数、敵陣でのパス成功率

図8 勝負別
図9 勝負別敵陣でのパス数 
図10 勝負別敵陣でのパス成功率

  パス成功率は、勝ち試合で75.06%、引き分けの試合で75.40%、負け試合が84.00%でした。パス成功率は、勝ち試合に比較して負け試合で有意に高値になりました( $${P}$$ = 0.0454 )。パス成功率については、勝つときは低く、負けるときに高いという仮説は、正しいということになります。なお、パス数については【データでみる前半戦①】で紹介されていますので、そちらを確認してください。

  敵陣でのパス数は、勝ち試合で209.20回/試合、引き分けの試合で237.11回/試合、負け試合が338.33回/試合でした。有意差は出ていませんが$${P}$$ = 0.0561 となっています。敵陣でのパス数は、勝つときに少なく、負けるときに多い傾向があります。

  敵陣でのパス成功率は、勝ち試合で74.22%、引き分けの試合で73.12%、負け試合が81.70%でした。こちらも有意差は出ていませんが$${P}$$ =  0.0608 となっています。敵陣でのパス成功率は勝つときに低く、負けるときに高くなる傾向があります。

4)スルーパス数、スルーパス成功率、クロス数、クロス成功率

図11 勝負別スルーパス数
図12 勝負別スルーパス成功率
図13 勝負別クロス数
図14 勝負別クロス成功率

  スルーパス数は、勝ち試合で17.40回/試合、引き分けの試合で15.33回/試合、負け試合が14.67回/試合でした。有意差はありませんでしたが、スルーパス数は勝つときに多く、負けるときに少なく、引き分けのときはその中間でとなっています。ここで【エラーバー】について説明すると、棒グラフの頭を始点として上下に均等に伸びている細いアンテナみたいな線のことを指します。これはデータの「バラつきの範囲」を示しています。つまり、負けるときのスルーパス数は試合間での数の開きがほぼなく安定している、ということを表しています。

  スルーパス成功率は、勝ち試合で42.36%、引き分けの試合で33.77%、負け試合が47.33%でした。スルーパス成功率は負けけるときに高くなっています。引き分けのときが一番低いことがわかりました。

  クロス数は、勝ち試合で16.00回/試合、引き分けの試合で14.78回/試合、負け試合が18.00回/試合でした。勝つとき、引き分けのときは、負けの時のクロス数より2割前後少ないということになります。

  クロス成功率は、勝ち試合で22.44%、引き分けの試合で23.31%、負け試合が30.57%でした。

5)アタッキングサードパス数、アタッキングサードパス成功率

図15 勝負別アタッキングサードパス数
図16 勝負別アタッキングサードパス成功率

  アタッキングサードパス数は、勝ち試合で123.00回/試合、引き分けの試合で130.44回/試合、負け試合が161.67回/試合でした。アタッキングサードパス数は有意差はないものの、勝つときはパス数が少なく、負けるときはパス数は多くなります。

  アタッキングサードパス成功率は、勝ち試合で72.98%、引き分けの試合で69.40%、負け試合が75.10%でした。引き分けのときは成功率よりも、勝つときと負けるときのパス成功率が高くなっています。

6)ミドルサードパス数、ミドルサードパス成功率

図17 勝負別ミドルサードパス数
図18 勝負別ミドルサードパス数

  ミドルサードパス数は、勝ち試合で187.80回/試合、引き分けの試合で232.67回/試合、負け試合が361.00回/試合でした。ミドルサードパス数は勝ち試合および引き分けの試合に比べて負け試合のときで有意に高値になっています($${P}$$ = 0.0219, 0.0288 )。ミドルサードでのパス数は負けるときに多くなるという仮説は、正しいことがわかりました。

  ミドルサードパス成功率は、勝ち試合で76.52%、引き分けの試合で76.83%、負け試合が87.47%でした。パス成功率は有意差はないものの、勝つときや引き分けのときより、負けるときに最も成功率が高くなりました。

7)ディフェンシブサードパス数、ディフェンシブサードパス成功率

図19 勝負別ディエンシブサードパス数
図20 勝負別ディフェンシブサードパス成功数

  ディフェンシブサードパス数は、勝ち試合で133.80回/試合、引き分けの試合で165.89回/試合、負け試合が143.00回/試合でした。ディフェンシブサードパス数は、勝つときは少なくなり、引き分けのときに多くなりました。

  ディフェンシブサードパス成功率は、勝ち試合で74.44%、引き分け試合の試合で77.93%、負け試合が84.73%でした。ディフェンシブサードパス成功率は勝ち試合に比べて負け試合で有意に高くなっていました($${P}$$ = 0.0264 )。ディフェンシブサードパス成功率は負けるときに高くなるという仮説は、正しいことが分かりました。

考察②

  今回は速報としてはあまりあがってこないスタッツとして20項目を勝ち試合、引き分けの試合、負け試合で分けて解析をしてみました。前回の項目ともリンクする考察となりますので、詳細はこちらを見てください。  

  今回の意図としては勝ち試合、引き分けの試合、負け試合で主にどこでプレーをしているのか、また攻撃の手段としてパスが有効で効果的か考えます。

  前回、話をした通り負け試合ではボール支配率が高くなり、パス回数は増えるにもかかわらず、シュート数は少なくなる傾向があることが分かりました。サッカーは敵陣にボールを運び最終的に相手ゴールにボールを入れることで得点が生まれます。したがって、一番有効であるのは相手ゴール前でプレーをする回数と時間を増やすことであり、単純に考えても相手陣地内あるいはゴール前でプレーし、最終的にはシュートを打つことが肝要です。

  ここでサッカーコートを横に3分割した場合のよび方について説明します。詳細は、下記の記事を参照ください。まず、自陣ゴールに近いピッチの1/3を【ディフェンシブサード】、敵陣ゴールに近いピッチの1/3を【アタッキングサード】、中央の1/3を【ミドルサード】と呼ばれています。

  ピッチを3分割した部分別に、それぞれプレー率をみるとアタッキングサードでは勝ち試合でプレー率が高くなり、引き分けもしくは負け試合ではプレー率は低くなっています。一方、ミドルサードでは、負け試合でプレー率が高くなり、またディフェンシブサードでも負け試合ではプレー率が下がるという傾向がありました。つまり、負け試合においては積極的にポールを高い位置に持っていく意識がみられています。しかし、アタッキングサードまではなかなか思うようにボールを運べていないことがデータからは想像できます。引き分けの試合ではディフェンシブサードでプレー率が高く、攻撃にはあまり積極的にならず、なんとか勝ち点を死守するために守備に傾倒しているという姿勢がみられます。

  しかしながら、アタッキングサードプレー数および、敵陣30m以内プレー数をみると、負け試合では勝ち試合や引き分けの試合よりも回数が多くなっています。これは負け試合ではアタッキングサードや敵陣30m以内で手数をかけて攻撃をする傾向があることを示しています。これは前回の考察①でも考察しましたが、ボール支配率、パス数は多くなるがシュート数、枠内シュート数が少ないという傾向は、慎重にプレーをするあまり、最終目標である「シュートを打って、ゴールを決める」という行為に消極的になっていることを示します。

  積極性を示す指標として、アタッキングサードでのタックル数は良い指標と考えます。というのも、危険を顧みずチャレンジが積極的にできるのは得点的な余裕があるからです。敵陣高い位置でのタックルが多いのは勝つ試合であり、負け試合ではボールを相手に与えたくないので、危険なタックルはできなくなります。

  また、1つの傾向としてシュートを打つ距離も勝つ試合と負け試合では違ってくると予想できます。つまり、ゴールに近い程シュートは枠内に入りやすくなり、得点率は上がると一般的には考えます。ペナルティーエリアでのプレー数は、若干ですが負け試合で多くなるのです。これも負けているという心理的な部分が行動に色濃く出ていると予想します。

  パス成功率、敵陣でのパス数、敵陣でのパス成功率はいずれも負け試合で高くなっています。前述した通り、負け試合ではパス数自体も勝ち試合に比べて有意に増えますし、成功率も高まります。そしてこれは敵陣において数値は低くなるものの、その傾向は全く変わりません。つまり、負け試合では手数をかけて、且つ安全にパスを回し攻撃(言葉は悪いですが、【パスをつないでポール保持率を高めているだけ】)しているということになります。

  スルーパス数とスルーパス成功率からは、やはり勝ち試合ではスルーパス数は多くなり、負け試合では少なくなる傾向がありましたが、スルーパス成功率は負け試合で高くなっていますので、慎重にスルーパスを出していることが分かります。しかし、逆に言うとその慎重さが決定機の機会を減少させているとも言えます。

  クロス数とクロス成功率は他の項目と少し傾向が異なっていて、負け試合でクロス数は多くなり、しかもクロス成功率も高い。一見すると、良い傾向のように思えますが、結果的には負けているので、十分な攻撃の手を打っているとまでは言えないのではないかと推察されます。

  アタッキングサードパス数、パス成功率そしてミドルサードパス数、パス成功率は負け試合でパス数は多くなり、特にミドルサードでのパス数は勝ち試合に比べて有意に多くなりました。パス成功率もアタッキングサード、ミドルサードとも高率となることから、負けているときはボールを大事に繋いで敵陣まで攻め込むが、殆どの場合はミドルサードでのパス回しが多くなっていて、アタッキングサードに持ち込めないことも多く、前回の考察①でも言及した通り、負け試合ではシュート数や枠内シュート数が明らかに少ないことから、例えアタッキングサードへ進入できたとしても、シュートさえ打ててないということが多いと予想されます。

  ディフェンシブサードパス数は引き分けの試合で最も高くなりましたが、パス成功率は負け試合で高率でした。引き分けの試合では状況によって「勝ちにいくために危険を冒す」のか「最低勝点を死守する」かの課題が常につきまといます。となればおのずと低い位置では相手のプレス強度が弱いディフェンシブサードでのパス数が多くなると考えられますので、結果を指示しているのではないでしょうか。パス成功率は相手目線で考えれば、引き分けの状態であればプレス強度はリードしているときよりも高くなると推測されますので、それがこの比率に大きく影響しているとみたほうがだとうかと思いまいます。

さいごに②

  前半戦の追加20項目のデータについて勝ち試合、引き分けの試合、負け試合に分け比較しました。そこから以下のことが分かりました。

 ・ミドルサードプレー率では勝ち試合と引き分けの試合に比較して、負け試合で有意に高値になることが認められました。
 ・ディフェンシブサードプレー率では引き分けの試合に比較して、負け試合で有意に高値になることが認められました。
 ・パス成功率は勝ち試合に比較して、負け試合で有意に高値になることが認められました。
 ・ミドルサードパス数は勝ち試合と引き分けの試合に比較して、負け試合で高値になることが認められました。
 ・ディフェンシブサードパス成功率は勝ち試合に比較して、負け試合で効率になることが認められました。

  統計的に正しいとされる仮説は上記の5点に限定されますが、全体的に言えることとして負け試合では特に「パスを正確に繋ぐ」ことが目的化してしまっている傾向が強く出ていると推測されます。もちろん、相手もいるため、一概には主要因であるとは100%言えるものではありませんが、一因としては影響を受けていると考えられます。

 実は通常ではあまり注目されていないスタッツが、まだ12項目(おまけも入れれば13項目)あります。これらはまた、リクエスト等があれば公開したいと思います。

  最後まで読んでいただきまして、ありがとうございました。

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