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鳥栖の2連敗を考察する…凹むけど。

はじめに

  2021年明治安田生命 J1 リーグも残すところ、わずか 7 節となった。サガン鳥栖は、第30節対アビスパ福岡戦、第31節対徳島ヴォルティス戦ともに0-3で大量失点で敗北した。今期(正確に言うと昨季の後半)から取り組んできた鳥栖流ポゼッションサッカーは、終盤戦にきて「弱点」が浮き彫りとなった。今後、サガン鳥栖はどのように修正をしていくのだろうか。正直、現実を直視したくはないところだが、振り返っていこう。

  ここから先はホームの対川崎まで、すべて下位クラブとの対戦となる。ほとんどのクラブが残留をかけて鳥栖を相手に「引き分け」あるいは一発狙いで「勝ち」を取りにくることがほぼ確実である。それ以降の川崎、鹿島、神戸を【ACL権】のイスをかけた争いにするためにも、直近の戦いは非常に重要となるだけに、代表ウィーク期間での修正が問われるだろう。


鳥栖の弱点(攻略法)とは?

  結論から言う。「カウンター攻撃」だ。もう少し丁寧に言えば「攻めに手数をかけず、前半のうちに先制点する。守りは左右に揺さぶられずゴール前の守備を崩さない」だ。


前兆は昨年から(2020年第 10 節ガンバ大阪戦)

  実は、今シーズンに始まった話ではなく、その布石は昨シーズン第 10 節のホームでのガンバ大阪(G大阪)戦。G大阪は試合開始から徹底してロングボールを前線のアデミウソンと『天敵』渡邉千真、2枚のフォワード(FW)にあてて少ない人数でも「個の能力」だけで、ほとんど手数をかけず鳥栖ゴールを目指す作戦にでた。これが功を奏し、G大阪は前半に 2 点を奪うことに成功した。後半、鳥栖の猛攻をアディショナルタイムの 1 点にだけに抑えて、G大阪は勝ち切った。ちなみに、鳥栖の1点は原川の正確なクロスとレンゾ・ロペスの空中戦の優位性をいかした「個の能力」で取った得点と言える。

  スタッツを見ると、ボール支配率は鳥栖が 63 %、G大阪が 37 %と圧倒的に鳥栖が支配している。パス成功数も2倍以上、シュート数も上回っている。一方でG大阪の走行距離、スプリント数は鳥栖を上回っていた。枠内シュートはG大阪が倍近く多かったことも特出すべきだろう。

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そして起こった。(第30節アビスパ福岡戦)

  アビスパ福岡戦のハイライト動画を改めて見てみる。1 失点目、2 失点目ともに、何度となく最終ラインの裏を突くことを繰り返し行い確実に狙いをもって仕掛けていた。3 失点目はサイドに鳥栖選手が人数をかけてボールを取りに行き、一度は奪ったもののショートパスを自陣でカットされ、失点した。金監督は試合後のインタビューで「ディフェンスラインを高く保てなかった」と話しているが、DFが自陣ゴールに向かって守備をする時点で、既に攻撃側のFWにアドバンテージがあるのは事実だ。

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  スタッツは、ボール支配率は鳥栖が66%、福岡は34%とこちらも鳥栖が完全にボールを支配している。パス成功数は鳥栖が3倍以上であるが、シュート数、枠内シュート数はいずれも福岡が上回った。走行距離は鳥栖が勝ったものの、スプリントは福岡が上回っている。

  ゴール期待値をみると、後半の中盤までは鳥栖のゴール期待値の方が高かった。つまり、得点チャンスの構築は、後半戦の中盤まではできていたと考えられる。したがって鳥栖が前半までに 1 点を返すことが出来ていたならば、結果は変わっていたかもしれない。


悪夢、再び。(2021年第31節徳島ヴォルティス戦)

  最後は徳島ヴォルティス戦のハイライト動画。1 失点目は、完全に鳥栖の選手が GK の朴一圭以外、全員敵陣内に入り込んでいたため、DFはハーフコートを追わなければならなかった。2 失点目は自陣ではあったが、ほぼハーフラインに近いところからであったが、いずれも垣田に対するマークが非常に甘かったと言える。2 失点目については朴があそこまで飛び出していく必要があったか、という点にも疑問府が付く。またDF だけでなく、ボールをカットされた後の周辺の選手の寄せも、非常に初動が遅い。3 失点目は、自陣でのパスミス。自陣でリスクを冒してまで繋ぐ場面ではなかったのでは。

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  スタッツ的には、ボール支配率は鳥栖が 65 %、徳島は 35 %とこちらも前節同様、鳥栖が完全にボールを支配している。パス成功数は鳥栖が 3.5 倍以上であるが、シュート数、枠内シュート数はいずれも 1 本差で徳島が上回った。走行距離は鳥栖が僅かに勝ったが、スプリントは徳島が上回っていた。

  ゴール期待値は福岡戦とは一変していて、終始徳島が期待値で鳥栖を上回っていた。鳥栖は殆どの時間で得点チャンスを構築できていなかったということになる。しかし、先発した岩崎は試合序盤から非常に良い動きを見せていた。ポジションチェンジを何度もしたが、それでもパフォーマンスが落ちることは試合終了までなかった。また、終盤に投入されたドゥンガもダイビングヘッドでシュートを放ち意地を見せていた。この試合では、この2人が鳥栖の攻撃を牽引していたと言えよう。


カウンターサッカーに対抗するために

  カウンターサッカーに対抗する方法はいくつかある。ネットにあった動画を載せる。ここにある通り、FWにボールが渡る前に止めるという方法。ファールがベストな選択とは言えないが、戦略的なファールは個人的に「あり」と考えている。しかし、その場所は自陣ゴールからなるべく離れている地点であることが大前提。望むべきは、ボールをとられたその場で止めることだ。ファールで与えたフリーキックが、失点となってしまったら身もふたもない。次にFWへのパスコースを遮断する位置にいること。これは松岡(現清水エスパスル)が非常に優れていた能力なので、彼の移籍後にボランチの位置に入る選手は、そこまで高いレベルでの対応ができていない。鹿島アントラーズから移籍してきた小泉は、現チームの中で最もその適性があると思われるが、監督はこの位置ではあまり使っていない。

  また、DFを自陣に残すことは有効ではある。朴が1人で自陣すべてを任せることが選択肢としてなければ(まあ、カバーできるのもバイエルンのノイヤーぐらいかも)、CBの1人が上がれば片側のSW(ウイングハーフ:鳥栖で言う、ウイングバック+サイドバック+サイドハーフ)が下がって守備をするのが現実的である。

ball_lost_position_269 (福岡)

  これは福岡戦のボールロストの位置を示したものだが、明らかにボランチの位置が狙われていたことを物語っている。右側が左側のパス数に比べて明らか少ないことも、樋口にプレスをかけ、右サイドの白崎・小泉に出すパスをコースを狙っていた可能性が推測できる。

ball_lost_position_269 (徳島)

  徳島戦ではゴール前を除けば、鳥栖の左サイドでのボールロストが多い。この日の先発は中野(嘉)に変えて小屋松、2トップの左に岩﨑、インサイドハーフに仙頭と「京都橘」トリオがそろい踏みだったが、そのスペースでボールを失うことが多かった。ここもネガティブトランジション時であれば、ボランチが中央へのパススコースを切るか、ボールを奪い取るべきエリアとなる。

  ルール的にも鳥栖にとって不利な点がある。それが現行の「5人交代制」である。「カウンタ―サッカー」においては特化して優位性を持つルールだ。前後半でFWを入れ替えさせれば、45分間だけに集中してプレーができるため、体力を温存する必要はない。常にトップギアでプレーをすることができる。これにより先制点を奪うことができれば、優位に試合を進めることが可能となる。これに対してディフェンダー(DF) はどのクラブでも、ほとんど交代をすることがない。疲労は蓄積するばかりだ。特に福岡は、このルールをうまく利用しているチームの1つと言える。


最後に

  昨年から取り組んできた、鳥栖のポゼッションサッカー。そして、今年から始まった、可変型ポジション。今シーズンの開幕前には多くの主力が他クラブに移籍してしまい、不安がなかったかと言えば正直ウソになる。しかし、順位はもとより、元プロサッカー選手の複数が鳥栖を高評価することからも、まやかしの強さでないことは確かだ。しかしながら、どんな戦術にも弱点は存在する。ここでその弱点が顕著化したことをポジティブにとらえ、鳥栖が『真の実力』を付けるために必要な変化を求められている、その過渡期であると考えたい。

  では、これから鳥栖は何をしていけばいいのか。この続きは湘南戦のプレビューで検討していきたい。

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