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EXTREAMERS the beginning_#08

EXTREAMERS 3.2 台風の種 


夏休みに入ったとたんに湘南島は、厚く重い黒い雲に覆われた。
この時期、赤道に近い日本周辺海域は熱帯性低気圧を発生する。

雨音で目を覚ます、一日がどんよりしてくる。
レオナは、ナノを探していた。コントロールルームをめぐるようにならんでいる6人の部屋を静かに通り過ぎる、からだがなまって気持ち悪いといつもいってるダイは部屋のなかでサッカーボールを相手にリフティングをしている。

レオナ、どこいくの?
うん、ナノさんに機材を借りようと思って、、、。
セイヤは部屋にはいなかった。

ゆいの部屋、まどかの部屋をすぎてあおいの部屋、女の子たちは集まって小さな声で話していた。
なんだか覗き込むのいけないような気がして通り過ぎようとしたらあおいと目が合った、

あの、ナノさん知らない?

ラウンジじゃない?さっき入ってゆくの見た。

ありがとう、
レオナは足を速めてラウンジへ向かう。

やだな、低気圧。

ナノはラウンジのソファの端で、雨がふきつける窓から海を眺めていた、テーブルの上はノートとさまざまなメモが散らばっていた。

あの、いまいいですか?

わっ、びっくり!

元気ないつものナノさんになった。

レオナのマトリックスボールのメモリーはそろそろいっぱいだった。

いつもこまめにバックアップしている、

彼のノートPCもそのためにSSDがいっぱいになりそうなのだ。

そのためにSSDがいっぱいになりそうなのだ。

いいわよ、新しいの持ってくるからマトリックスボールのバックアップ用にすればいいわ。

ナノは研究室にSSDを、レオナは部屋に赤いノートPCを持って戻ってきた。

まずは、クレードルにのせたマトリックスボールからPC経由で新しいSSDへ一週間分の転送。

すごいわね、これ全部自分でつくったの?

えへへ、

60分の1秒ごとに6つの乱数がでるのね、でその偏差値?を判定しているのね。

同時にこれは、、、GPS?位置情報かな?

はい、
これはなに?

偏差の傾向から少し先の予測ができるかなーって思って、微分させて。アバウトですけど、

あははっ!
よくこんなもの考えついたわね!

それは、アキレス博士の言葉からインスパイアされて。

そっか、柔らかな未来?よね。 
はい!

さあ、つぎはPCの分ね2ヶ月分ぐらいかなー?
そうですね、

PCの画面を数値の列と色でわかれた判定の傾向がすごい勢いで表示される。

いつの間にかとなりに、ダイがいた。

セイヤしらない?

さっき部屋の前通ったときもいませんでしたよ。
おっかしーな、どこいったのかな?

PCの画面に見入ってるナノとレオナを置いて、

サッカーボールで遊びながらラウンジからでてゆくダイ。

あれ?なに。あ、ここも。

特異点です、このあたりは、レオナくん、バックアップあとでかしてくれる?
バーチャルマシンで評価してみたいの、

ぼくも、見ていいですか?
もちろん!

風が動いた、大きく動いた、テーブルのなののノートが勢いよくはためき、メモが飛ばされる!

わあ!
だれー!窓あけたひとー?セイヤくん?

セイヤじゃないです、予感がしてレオナは廊下へ飛び出す。

そのとき、風は止まっていた。


セイヤは台風の種を見ていた、

岬になってしまったアキレス研究所のはずれから、前の世界ならその先にはフジサワ=シティ、そしてその先にセイヤの住む町が見えるはずだった、しかしこっちの世界はその辺りはまるですっぽり海原になっている。

セイヤは雨をよけて大きな木の陰で嵐の生まれる海を何時間も眺めていた。

〈 パパ、ママ、シュウヘイにいさん、ヨウスケにいさん、元気ですか? オレさ早く会いたいよ、みんなに、〉ーーー子供たちはみんな自分たちなりにがんばっていた。しかし元の世界に戻る手だてがまだ見つからない今、学校が夏休みになってからというものぎりぎりのところでふみとどまっていた。

雨と風がひどくなってきた、海へ向かってすごい勢いで流れ込む風に立ち上がったセイヤはちょっと足下をとられてひやっとした。

そのとき、声が聞こえたような気がした。

アキレス研究所からの下り道を赤、黄色、青の小さな雨具を着た子供が歩いている。

あれ?何やってるんだあいつら。突風がいちばん背の低い黄色をつかまえて突き倒した。
だめだ、危ない、あんなの着てたら。
セイヤはフェンスへ向かって駆け出した。

ナノさんこれ!
レオナが見つけたメモは、ゆいの書いたものだった。

そこには、こっちの世界のゆいの家の住所が書かれてあった。

あの子たち、まさか。
レオナはラウンジに戻りマトリックスボールをとる、そのとき窓の向こうに駆けてゆくダイが見えた。

ドアが開くとそこはまるで、むっとする生暖かい雨風が暴れる世界だった。

ドアが閉まるまでにナノは全身びしょぬれになっている。

ゲートは開かないはずよ、
ナノさんこっち!

子供たちは彼らだけがくぐり抜けられるフェンスの隙間を見つけていた。

レオナくんはそのまま行って!
私はゲートを開けるから。

アキレス研究所の敷地は広い、ナノはガレージに戻り甲虫型のジープに飛び乗った。

これでなくてはゲートの手続きが手間取る、200m前からゲートが無線で認識し動き出す。

あの子たち、
最高速のワイパーでも雨は遮れない、視界が悪い。
どうした、ナノ。
アキレス博士が、回線で問いかける。

パパ、女の子たちが、こっそりおでかけしたらしいの。
大丈夫、きっと。
そうか、私もすぐに行く。

セイヤは、フェンスから叫んでいた.。
おーい!雨具を脱ぐんだー!
だめだ、聞こえやしない。

フェンスの隙間はここからはかなり遠い。女の子たちはかたまりになって伏せているが、岸壁から離れようと立ち上がるたびに飛ばされて転がる。

セイヤはあせった、フェンスを超えるには、隙間はないか、力技でよじ登るしかなさそうだ。

フェンスの隙間に足を入れよじってみた。たのむぜ LMX!

少し上ると頂点のポールに手が届いた。よし!懸垂の要領でからだをひきあげる。越えた!

着地すると、背をかがめて駆けてゆく。風下、断崖側から押し上げなくてはダメかも、

向かい風をうけて、近づく。ぬかるむ泥と草で滑るが、負けない。

赤、黄色、青のかたまりに取り付いた。

セイヤくん!ダメだよこんな日に外に出ちゃ!

ゆいは泣いていた、あおいとまどかはゆいをなだめながらがんばっていた。

まず、雨具を脱ぐよ、えー!だって濡れちゃう。でも風で飛ばされるよりいいよね。

わかった!

風上のゆいから、みんなでちゃんと身体支えるから。

あーん、びしょびしょで上手く脱げないー!

ゆいが頭をひとつ出した、フードが風をうけた、いままでで最大級の突風がタイミングをはかって吹いた、ゆいの身体がふわっと浮いた。

それを止めようとあおい、まどかが反射的に背筋を伸ばした。

もう、セイヤでもそれを戻せなかった。

ダイはあと100mまで来ていた、

岬のカーブする岸壁で、赤、黄色、青の雨具を来た女の子たちとセイヤが風で舞い上がるのが見えた。

とても自然に風につかまえられ岸壁からゆっくりと荒れ狂う海へ飛ばされている。

どうしよう、ナノさん、どうしよう。ダイの脇を全速力のレオナが追い抜いていった。
真っ赤にアラートを発しているマトリックスボールをダイは見た。

僕らは選ばれて特別な時空にいるんだ、あり得ないことが起きている、誰かの意思で。

レオナの声が直接心に届いた。あの凧をつかまえるよ!

まだ、間に合う!

ダイのLMXが瞬足に変わった、

ダブルウエッジが身体を押し出すように加速する。

レオナのすぐ後についた、

なんのためらいもなくレオナは岸壁から仲間に向かってダイブする。

ダイはレオナを信じている、仲間を信じている、この世界で無くてはならない仲間だ。

一瞬最後の理性がよぎった、怖い、そう思った時はもう飛んでいた。

ナノはその光景を信じられなかった、ゆっくり舞い上がり風に翻弄される赤、黄色、青の雨具を掴んだセイヤ、それに飛びつこうと岸壁から飛び出したレオナとダイ。

だめー!そう叫びながら、

ナノは神様にお願い子供たちを助けて!と祈っていた。

一瞬、ブレーキが遅れた、全輪がロック、アンロックを繰り返しながら滑ってゆく。甲虫型のジープは、岸壁からぎりぎりのところで止まった、さらに勢い余って山側に走って止まる。

その間、子供たちが視野から消えた。

ハッチを開けて外へ出る。

大きな空気が子供たちをつつんでそっと地面の上に降ろしているように見えた。

風と風が拮抗してそこだけ時間が止まったように穏やかだった。

着地した子供たち、女の子たちはあわてて雨具を脱ぐ、風が戻る、3人の雨具がに飛ばされ遥か彼方の波に呑まれた。 

ほっとしたその瞬間、ナノは子供たちを怒鳴ってしまった。

あんたたち、何やってんの、死ぬ気?

死んでしまったら、二度とお母さん、お父さんに会えないのよ

ばかー!ばかー!ばかよ!

怒鳴りながら、雨と涙でぐしゃぐしゃだった。

ゆいが怒鳴りかえしてきた、だってだってだって、お母さんに会いたいんだものー、お父さんに会いたいんだものー!お家に帰りたいんだものー!

あーん!泣きながらナノに飛びついてきた、私だってと、まどかが、そして堰を切ったようにあおいが、セイヤが、レオナが、ダイが、ナノにしがみついては泣いた、みんなで泣いた。

ごめんなさい、ごめんなさい、、といって泣いた。

アキレス博士は、離れたところから見ていた、

そして静かに車をバックさせ研究所に戻っていった。

その晩、全員が熱を出した。6人の子供たちとナノが風邪をひいた。

ひとり風邪をひかなかったアキレス博士は、食事係になった。

博士のつくった野菜スープはとってもおいしかった。 

(つづく)20220401

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