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関取花 連載第18回 枕寿司

2020.03.18

枕寿司

一人暮らしを始めてから、私はずっと同じ種類のバスタオルを使っている。オシャレでもなんでもない、ごく普通の茶色のバスタオルだ。
何が優れているわけでもないが、誰に見られるものでもないしこれといって不自由もないので、なんとなく古くなったと思ったらまた同じものを買い足してを繰り返している。
しかし、ここのところそんな私が、色とりどりのバスタオルを集めているのだ。

少し前、洗濯した枕カバーが夜までに乾いていないということがあった。直に寝るのもなんだか嫌だったので、私は仕方なくバスタオルで代用することにした。
そしてなんとなく適当にバスタオルをポンと枕に乗せた時、私はあることに気付いてしまった。真っ白な膨らみの上に、はみ出しながらふんわりと乗った茶色。この絵面、どこかで見たことがある。

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寿司だ。穴子の寿司だ。

今この原稿を書きながら、自分でもなに言ってんだこいつ、と思う。でもたしかに私には穴子の寿司に見えたのだ。(相当疲れていたのだろう)
それと同時に、「寿司を枕にして寝られるなんてめちゃくちゃ贅沢じゃないか」となぜか妙にテンションが上がってしまったのである。

どうせならいろんな種類の“ネタ”を試したいと思った私は、すぐにネットでいろんな色のバスタオルを注文した。すべては枕寿司を作るために。
というわけで、現在私の家では穴子以外にも4種類のネタを楽しむことができる。今のところマグロ(赤)、たまご(黄色)、イカ(白)、サーモン(オレンジ)である。

ちなみに寝心地はたまごが一番良い気がしている。心なしか他のものよりも柔らかな気がするのだ。あ、いや、それはさすがにイメージに引っ張られているだけかもしれない。だって全部色違いの同じバスタオルだし。

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個人的には寿司だとハマチが好きなので、ハマチの枕寿司にも挑戦したいのだが、あの鮮やかすぎない生々しい色味のバスタオルはなかなか売っていないので、まだ実現はできていない。あと、最近はどうにか軍艦も作れないかとも思っている。俵型の枕を買って、周りに黒いフェイスタオルを巻いて、真ん中に黄土色もしくは山吹色あたりのバスタオルを乗せたらどうだろう。ウニになりそうじゃないか。イクラの場合は真ん中に丸めた赤いハンドタオルでも敷き詰めれば良い。だとしたらネギトロはどう作ろうか…想像は広がるばかりである。

そんなわけで毎日枕寿司で寝ていたら、ついにこの間、友人たちと枕サイズの本物の寿司を作るという夢まで見てしまった。シャリを固めるのがだいぶ大変だったけど、楽しかったなあ。

いい歳なのにこんなことに一人でキャッキャして、本当にバカだなあと思う。でも、こんなことで幸せな夢まで見られる単純な自分も悪くない。
なんだかいろいろとザワザワしている毎日だからこそ、こういう小さなことをいちいち楽しんで過ごしていきたい。

関取花アー写1912小

関取花(せきとり・はな)
愛嬌たっぷりの人柄と伸びやかな声、そして心に響く楽曲を武器に歌い続けているミュージシャン。NHK「みんなのうた」への楽曲書き下ろしやフジロック等多くの夏フェス出演、初のホールワンマンライブの成功を経て、2019年5月にユニバーサルシグマよりメジャーデビュー。
ちなみに歌っている時以外は、寝るか食べるか飲んでるか、らしい。
関取花オフィシャルサイト

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