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読む『対談Q』 水野良樹×Mr.シャチホコ&みはる 第3回:人選がいちばん大事。

HIROBAの公式YouTubeチャンネルで公開されている『対談Q』。こちらを未公開トークも含めて、テキスト化した”読む”対談Qです。

今回のゲストはモノマネ芸人のMr.シャチホコさんとみはるさんです。

ファはファイトのファ。


シャチホコ:僕がいちばんモノマネ界で、構成をしっかり考えて出しているという意味ですごいひとが、栗田貫一さんだと思うんですよ。声優さんでルパンもずっとやっている方なんですけど。常に新ネタを考えているし、当時からいちばんクリエイティブだったと思うんです。たとえば「スシ食いねェ!」は、回転ずしにモノマネのネタが乗って流れてきて、1個ずつモノマネする。

みはる:最初に小林旭が流れてきてね。

シャチホコ:順番にやるんですよ。あと「ドレミのうた」は、「ドはドーナツのドレはレモンのレ~♪」ってやるんですけど、いつの時代も新しいものを入れるんですよ。たとえば麻生太郎さんとか、河野さんとか。でも揺るがない自分の芯みたいなものは絶対あって。ファの部分だけ絶対に森進一なんです。

水野:揺るがないのはファなんだ。

シャチホコ:こないだモノマネ番組で、クリカンさんが「ドレミのうた」2018バージョンをやると。みんな、「見たい見たい!新しいやつだ!」って。で、最初からやっぱり新しいやつ入れていて、「すげーなー」と思っていたら、「ファはファイトのファ~♪」だけ森進一さん。

みはる:これは初回から変わらないの。

シャチホコ:自我も持っていて、この時代にも適応して変化させている。もう理想的なモノマネ芸人。しかも顔の角度まで一切劣化してない。ファはファイトのファ。

水野:でも新しいものが入っているから、今のものとして見られるという。

シャチホコ:クリカンさんって本当にすごいんですよね。田原総一朗さんの『朝まで生テレビ!』とかも。いわゆる今年売れたひとじゃないじゃないですか。でもみんな知っている。そこって答えな気がして。必ずしも流行っているひとをやる必要はないんじゃないかって。自分の呪縛から解放された瞬間でしたね。

水野「どこを見ているか」もあるけど、その前に人選もあるわけですね。

シャチホコそうです、人選がいちばん大事です。

水野:この時代のなかで狙うとしたら、ブームになっているひとだけど、だからこそ避けるとかっていう場合も。

シャチホコ:そうなんです。だからブルゾンちえみさんがめちゃくちゃ流行ったときに、女性のモノマネ芸人さんがみんなブルゾンさんやっていたんですけど

みはる:そのキャラに合うかっていうのもあるし。あとは、「似てるから何なの?」ってなっちゃうのも怖い。似てる+おもしろかったらいいんですけど、芸人のマネってちょっと難しいところがある。

水野:「似てるから何なの?」って怖いですねー。

シャチホコ:ハードルが上がるんですよ。みんながもうブルゾンちえみさんのモノマネ、イメージできちゃっている。だから、「ブルゾンさんやるってことは当然、違うのをやってくれるんだよね」って目で見られちゃう。難しいですよね。

                                                                                                                                                                                                                                                   

堤真一さんとサンジの2択。


シャチホコ:あとはやっぱりアッコさんのイメージがついちゃったので、みんなが僕の声を聞きなれちゃって。どこかにアッコさんの属性とか、ちょっと高い声出したときの桜井さんの属性とかを探しちゃって。

水野:はいはい。

シャチホコ:「アッコさんじゃん」「桜井さんじゃん」って言われちゃう。露出が増えれば増えるほど、モノマネに対するハードルも上がる。

水野:難しい!

シャチホコ:そのイメージを消す作業ってすごく難しいんですよね。もともと人間の声って2種類か3種類までしか出せないので。その壁を超えていかないといけない。

みはる:でもねぇ、頑張ってるね。

シャチホコ:堤真一さんとか。

水野:堤真一さん?

シャチホコ:「お金より心が大事なんですよ」。

みはる:似てるんですよ、これ。

シャチホコ:やるんですけど、なかなか難しくて。

水野:しかも今アッコさんの状態でいるから。でも堤真一さんやられている方、いないですよね。

シャチホコ:なかなかいないですね。で、この格好で出ることが多いので、このままやるんですけど…。

みはる:地味になっちゃうのよね。

シャチホコ:堤真一さんは『ONE PIECE』のサンジの要素が入っているんですよ。だからサンジもやるんですけど、2択に迫られたときにやっぱりサンジのほうが伝わるんですよね。あと、大塚芳忠さんって声優さんがいて、普通に『バンキシャ!』のナレーションをやったらウケるんです。でも、『SLAM DUNK』の陵南高校の仙道のマネやりますって、「桜木、死ぬ気で練習してこい」って言っても見ているひとはわからないんですよね。

みはる:『SLAM DUNK』観てないとね。

シャチホコ:『バンキシャ!』だったら、「取材班はここで衝撃の事実に直面する」って。

水野:わかるわかる。

シャチホコ:「あー見たことある、聞いたことある」って。同じ声でもアニメのキャラクター人選とか役職人選が重要になってくるんですよ。

水野:あえて同じだってことをネタにしてほしい。絵だけ変わって、実は同じ声優さんをマネしているとか。多分、声優さんの名前まで一般のひとって見てないから。「バンキシャ!のひとだったんだ」みたいな。

シャチホコ:西田敏行さんと財津一郎さんって声そっくりだなって昔から思っていて。「スーさんねぇー、釣れねぇよー」と「ピアノ売ってちょうだい♪」って。

水野:同じだ(笑)。

シャチホコ:そういう“同じシリーズ”って結構ありますね。加山雄三さんと布袋寅泰さんも属性一緒。なんなら加山雄三さんと所ジョージさんも一緒なんですよ。

水野:えー!

シャチホコ:あとほら、濱田マリさんと誰だっけ?

みはる:濱田マリさんと光浦靖子さんは同じ声なんです。光浦さんだったら、「いやー、なんていうかさー、今カナダで頑張ってまーす」ってこの声なんです。で、濱田マリさんは、「あのね、あたし、そうなのね、ありがとうございますー」って語尾を関西弁にするだけなんですよ。

シャチホコ:あーホントだ。似てる。濱田マリさんだ。

水野:クイズ番組とかで絵があって、「ゆーっくり変わってます」みたいなのあるじゃないですか。

みはる:アハ体験。

水野:そう、今アハ体験をさせてもらった。バロメーターがあって、光浦さんと濱田さんがいて、だんだん濱田さんになった。すげーなー。

シャチホコ:みんなのイメージを逆手に取ることもできますよね。たとえば、「あ〜あ〜〜~♪」で止めて、「さて、今は誰のモノマネでしょう」って。みんな、クリスタルキングの「大都会」だと思うんですけど。

水野:はいはい。

シャチホコ:「じゃあVTRはこちら!」って出てきて、グッチ裕三さんのモノマネで、「あ〜あ〜〜~♪川の流れのように〜♪」って。

みはる:“あ〜♪クイズ”は出せそうだね。

シャチホコ:そういうひっかけ問題とか、バラエティー的に作ってもおもしろそうだなって。


パズルのピースをずっと探している。


水野:僕の最初のQも、「どこを見るのか」ってそれこそ素人で。もっと「誰を選ぶか」とか「やったものをどう構成するか」とか、そこでプロのひとたちは差がついていく。いわゆるオリジナル部分で。

シャチホコ:それを探すのがまず楽しくて。

みはる:そうですね。

シャチホコパズルのピースをずっと探しているもんね。完成したら一回、自分でガシャガシャガシャってやって、もう一回埋め込んでみるみたいな。違うハメ方でもハマるのがモノマネというか。パズルって、決まったピースで埋めないとハマらないんですけど、モノマネの場合は自分で無理やりちぎってつけてもいいし。

みはる:そう、たしかにね。

シャチホコ:明らかに左の角のピースなのに、右に置いてハマっちゃうんですよね。

みはる:うまいこと言うね。

シャチホコ:そういうおもしろさがモノマネってあるのかな。

水野:モノマネの奥深さを教えていただきました今日は。でも結局は、アイデアがあってもそれを実現する技術がないといけないから。基礎のところが大事で。

シャチホコ:僕らもいくらでもあります。これやったら絶対おもしろいってわかっているのに、声が似ないからできない。大前提、どこかに似ている要素を作らないといけない。「似てないけどおもしろい」っていうのは、本当は似ているんですよ。そのゾーンにまずは上がってこないといけない。

水野:基礎技術があって、自分のなかで武器が増えても、それを全部使えばいいかというとそういう話じゃなくて。どのタイミングで、どれを取って、どう見せるか。何段階もあって、最終的に出るものはわかりやすくないといけない。すげー複雑。


次回は2月24日に更新予定です。


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