佇まいを守るために
時間だけがつくれるものがある。
樹木の成長はそのうちの分かりやすい例。
上野公園の大きな樹木が駅前の工事に伴って伐採されるというニュースを聞いて、あらためてそのことを思った。
下の写真は芦原建築設計研究所に在籍していたときに、自分が監理責任者として常駐していた国立科学博物館の新館(現在の地球館)。1998年の1月末に一期工事が終わり2年ほどの現場常駐が終わるタイミングで撮影したスナップだ。
このとき、道路側にあった銀杏の大木は「上野公園の木をできるだけ切るな」という芦原義信先生の強い意志から、工事上難しい位置にあった樹木をいったん移植。現場作業に必要な時期を経て、また戻された。
そのためには様々な手続きが必要となるし、それなりの費用もかかる。
されど、樹木がここまで育つために必要な「時間」は購入することができない。それは長い時間だけがつくり出す佇まいを守るためだった。
写真を見て頂くと、移植のためにいったん剪定された右の樹木は枝が少ない。でも、生命力の強い銀杏の樹木は数年で廻りと馴染んでいく。
芦原先生はふらりと現場に来られると学士院から続いていた高いフェンスを杖で叩きながら「こういうのを塀害っていうんだ」と必ず言われて車に乗り込まれた。街並みの佇まいについて提言し続けた建築家の意志が、植栽を植え、内側に低いフェンスを設けた設計にも現れている。
その横を歩くとき、見上げると昔からそこにある大銀杏。それが守られている背後にはそんな建築家の意志が込められているのです。
廣部剛司 /建築家
Takeshi Hirobe Architects
http://www.hirobe.net/
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