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【第21話】 地下道のレモン売り🇮🇳

チェンナイビーチ駅を降りると車の流れが速い通りに出る。横断歩道はなかなか青にならず、待っている人もまばらだ。そのまま大勢の降車客に揉まれながら流されるように歩いていくと、すぐそばの地下道へ吸い込まれていく。通りをバイパスするのだ。どこに安宿があるかまだ何も調べていないが、ひとまず彼らについていく。地下道は別世界だ。カビの臭い。舞うホコリに光が反射して幻想的だ。すると地べたに座って商売をしている少年が目に留まった。彼を撮りたいな、と思った。

彼の掛け声は絶えることがない
雪崩れ込んでくる降車客
埃っぽく薄暗い地下道
物乞いでないことはすぐわかった
彼は何に希望を見出すのか
レモンを地下道で売る 悪くない
それなりに客がいる なんだかホッとした
彼はいまどうしているか
隣の男はずっと無気力だった

風邪のせいでフラフラだった。宿に荷物を置くと、その日はそのまま寝てしまった。色々とやることはあったが、構わない。フラフラなのだから。翌日、宿の受付の青年に手伝ってもらって、インタビュー用の簡単な質問集を現地語に翻訳してもらう。なんと彼は映画科専攻の大学生。「俺もドキュメンタリー撮るんだよ」と言って快く引き受けてくれた。

「同じ場所で売っててくれよ」と願いながら地下道へ行く。いた。ためらわず話しかける。「君のこと、撮ってもいい?」通行人の大人たちが絡んでくる。いや、少年にいいように説明してくれる。多分伝わってないが、了承してくれた。

伝わってない。そもそも、俺は何を伝えようとしているのだろう。自分でも必死に説明しようとしながら、もどかしかった。

ここでレモンの販売をしてるんだ
こうして袋詰めにしたレモンをここで売るの

大きな声で声をかけて人を集めるでしょう
1袋10ルピーで売るんだよ

うちの家はとても貧乏だから僕も学校には行かずこうして働いているんだ
他になんの仕事も知らないからとにかくレモン売りをすることになったの

うん この仕事をするのが好きだよ
誰よりも上手にできるんだよ

この仕事をしていて大切なのは声だよ
だっていつも大声を出してかけ声しないとだからね

この仕事を始めるときにおカネをいくらか借りたんだ
だからまずそれを返すためにも一生懸命に声を上げてやっていかないといけないんだ

5,6袋をまとめて売れたときは嬉しいな
だって儲かるもの
たくさん売れたら嬉しいよ
200ルピー分を売ったら昼ごはんを食べてもいいんだ

もしもだけど1000ルピーくらい稼げたら
最高だろうなって思うよ

レモンってみんなが買うものでしょ
ジュースを作ったり ピクルスを作ったり
神様にお供えしたりね
レモンでね みんなが幸せになるんだよ

Lemmon Seller in south INDIA summer 2018
www.monologue365.jp

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