【第18話】 走る未亡人🇮🇳
昼食を終えて食堂から出てくると、蒸し暑い店内と辛い料理でかいた汗に風が当たって心地がよかった。昼時は客が少ないのか店前にタクシーが屯してみなくつろいでいる。三輪とはいえ自動車の運転手は撮ったことがなかったし、しかも目の前にいるのは珍しい女性ドライバーだ。女性に声をかけるのはいつも苦手。一瞬躊躇したが、ダメで元々。軽い気持ちで取材撮影の提案をすることにした。
地域によって随分と異なるということがわかった。クラクションの頻度の話だ。カルカッタやバラナシを訪れた際は、運転手が何かにつけてクラクションを鳴らすその習慣に驚いた。いや、何もないのに何度も鳴らすから驚いたのだ。一方、ここチェンナイでは運転の荒っぽさはあるものの、うるさくはない。
彼女とは十分な意思疎通ができていないはずだった。どんなことを話しているのかわからないまま、相手に喋らせようとしてこちらはうんうんと頷くしかない。インタビューと撮影はおよそ2時間程度で終わり、「ありがとう、それじゃあね」と伝えると「どこか行かない?」というようなこと言っている。食事は済ませたし、チャイだろうか。
彼女が未亡人であることは、帰国して翻訳を頼んでからようやく知ることになった。
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