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どのレースを走るのか

映像ディレクターや脚本家にとって、

・CM…短距離走
・ショートフィルム…中距離走
・長編映画…フルマラソン

だという考え方がある。

CMは15〜30秒の短さで、瞬発力重視で駆け抜ける
これが得意なのがCM系のディレクター。

***

長編映画は確かにマラソンだ。
短距離走のペースで42.195km走り切ることはできない
ペース配分と経験が必要だ。

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中間に位置するのがショートフィルムで、
短距離走の筋肉で走り切ることもできるし、
フルマラソンの心肺能力が活きることもある。

***

しかしこれはあくまで
作り手側から見た"長さ軸"の話だ。

作品の受け取られ方の違いを考えると、
また別の例えが浮かんでくる。

浮かんできちゃったので、記したい。

世の中のお客さんたちの立場から見た
"楽しみ方軸"
の、新しい例え分類。

・CM…タクシー
・ショートフィルム…公道レース
・世界市場向けの長編映画…F1

こうとらえると、自分のなかでいろいろとしっくりきた。
ひとつひとつ説明してみます。

① CM…タクシー

まず、がいる。
勝手に走るのではない。
届けるべき目的地がある。 

お客さんが金を払って、
お客さんのために走る。

CMクリエイターがタクシードライバーだとすると、
運転中の話のうまさや人当たりのよさも人気のポイントになる。
正確に届けてくれて、快適で、話もおもしろいと
そのタクシーは人気になり、いろんな客がつく。

***

上客をつかまえて専属ハイヤーになれば、安泰だ。

基本的にローカルなものである。
そのへんの地域に詳しい人がその地域を流している。

大きい駅の前には、たくさんのタクシーが集まる。
突出した光るなにかがないと、上客を乗せることはできない
全国レベルの遠くへ行きたい客は、多くお金を払わなければならない。

***

お客さんが伝えた目的地や行き方を、
ドライバーが間違えることもある

ドライバーがベストルートを行っていても、
お客さんが細かく指定して
ルートがめちゃめちゃになることもある。

***

安全運転する必要がある。
交通ルールは無視してはいけない。
事故ったら評判に傷がつく。

***

乗せられる数には限界がある。
目的地の違う客を誰でもつめこむと、
いつまでもどこにも届かない


***

街を流している。
CMは、交差点を行き交うタクシーだ。
人々は普通に生きていたら、気に留めない。

しかも最近は交通量が多い。
免許がゆるくなったのと、車体が安価で手に入るようになったので、
派手だったりユニークな一般車両が膨大に行き交っている。

タクシーが目立つのもひと苦労だ。

タレントが乗ってると、注目をひきやすい。
お金をかけて派手な車体にしても、注目をひきやすい。

***

ユニークな車体でいい走りをしたタクシーなどが表彰される
グッドタクシー賞みたいなのがたくさんある。

意外な場所に、精密で見事な縦列駐車を決めたタクシーなどは
世界でも表彰される。

乗客が満足したか、正しく目的地に着いたかどうかは
考慮されないこともある。

② ショートフィルム…公道レース

基本的にお客は乗せない。
勝手に走る。
スポンサーはいない。
地元を走る。
自分で出発地を決め、自分で目的地を決める。
地元の観客が、沿道から無料で観る。

ドライバーは、勢いで行ききることもできる。
熟練ドライバーの技術や経験が活きることもある。

***

海外では、公道レースで頭角をあらわしたドライバーが
F1にスカウトされたりする。

(日本にはそもそもF1がほぼない。
国内GPにも、公道レーサーがスカウトされることは少ない)


③ 世界市場向けの長編映画…F1

ビジネスである。
お客さんがお金を払って、その走りを観に行く。
関わる人数や投入されるお金も桁違い。
マシンのレベルも、スピードも、桁違い。
車体にはある程度スポンサーのステッカーを貼る必要がある。
コースは決まっていることが多いし、難易度も高い。
一般道の運転では想像もつかないような複雑な制御システムがあり、
常にトラブルもある。

そして、もうひとつの分類。

④ "自主映画"…暴走族

勝手に走る。
客は乗せない。
若いドライバーが多い。
ルールを無視したり、まさに暴走した方がウケる。
バランスや機能を無視した派手な車体がウケる。
観客は沿道から煽る。
ツルんだり、いがみあったり。

CM…タクシー
ショートフィルム…公道レース
世界市場向けの長編映画…F1
自主映画…暴走族

こう考えると、
ひとくちに同じ"映像"でも、
種目間での才能の互換やスライドが
うまくいかなかったりする
ことの説明がつく。

(CM出身のデビッド・フィンチャーやマイケル・ベイは
もともとF1志向の、稀有な精密爆走型人気タクシードライバーが
順当にF1にいって活躍しているというわけだ)

F1ドライバーになりたいのか、
人気のタクシー運転手になりたいのか、
仲間と暴走していたいのか。

それとも、特注F1マシンとチームで
道なき道に新しいコースをつくっちゃって、
いろんな車がそこを走るようになる、
"エクストリームアドベンチャードライバー"になるのか。

それぞれ、いい悪いではない。

自分がどのレースを走りたいのか、ということだ。

そしてこれは、たぶん映像に限らない。
自分がどのレースを走りたいのか、
どのレースなら勝てるのか。

自分に合った車体、種目、コースは、かならずある。

そういう意味では僕はふだんは不器用なタクシードライバー
(つまりCMディレクター)をやっている。

コンペでもらった一般普通乗用車に、
小さい頃からコツコツ集めたパーツで自作したF1エンジンを積んで、
たくさんのメカニックが助けてくれて、
いちどきり、東京を数百メートルだけ爆走
してみた。

交通ルールは無視していない。
スピード違反はちょっとした。

沿道の人は見てくれただろうか。

待っていても、F1グランプリには呼ばれない。
ひとりでは走れないが、仲間はいる。
準備は出来ているつもりだ。

エンジンをあっためながら、
サーキットのまわりを流してみている。

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実生活ではというと、
教習所で「君は運転に向いてないから公道を走らないでくれ」
と言われたので、車の運転は全くしない僕の戯言でした。


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また映画つくりたいですなぁ。夢の途中です。