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P05_映画の中の数字 │ 『東京彗星』オンラインパンフレット

映画やドラマで過去の事件はなんでもかんでも「3年前」に起こりすぎ問題
映画やドラマでその後の話はなんでもかんでも「3年後」に設定しすぎ問題

なんでですかね。

一番多感な思春期が中学・高校と3年単位だから
日本人の体内カレンダーは"3年たつと次のフェーズ"
という感じになってるんですかね。

映画の中の数字は
そんなふうにざっくり決められることが
ほとんどだと思いますが、
数字には明確に意味を宿す、こめることもできます。

『東京彗星』オンラインパンフレット
5ページ目は劇中の数字について
おもに、時間です。

マイケル・ベイの映画なんかではよく
シーン頭に場所と詳細な時間が
デジタル表示されたりしますね。
(『アルマゲドン』では衝突までの時間を"巨大なデジタルクロックを撮る"という超アナログで派手な手法で表現してて上手かった)

これも映画やってる人からしたら
超当たり前なことなんですが、
マイケル・ベイ映画のように毎度表示せずとも、
基本的に劇中の時間設定は準備段階で決められるものです。

これをもとに、
たとえば時計やカレンダーがうつりこむシーンでは
時計の時間を設定したり、
未来や過去のカレンダーを用意したりします。

そのシーンを撮影する時間帯にもかかわってきます。

『東京彗星』では、そのような実務的な時間設定に加えて、
明確に意味をこめた時間(数字)の設定をしているので、
いくつか紹介します。

"オリンピック後への不安"
"災害の予感"
"うそか、まことか"
"3.11の記憶"

という4つの軸でやっています。


"オリンピック後への不安"
─「TOKYO 2021」

舞台設定を2021年にした理由のひとつに、
東京オリンピック後の日本への不安というのがあります。

2020年に東京でオリンピックが開催されると決まってから、
僕を含めいろんな人が
「オリンピックまでに○○しよう」と、
無意識に、自分の人生に
ポジティブなタイムリミットを設定した
ように思います。

ですが2021年以降はそれとは逆に、
祭りのあとのように
先行きへの不安が波のように返ってくる
んじゃないか。

災害への不安、経済への不安、
そういったことが日本に襲いかかる年代設定として、
2020年のオリンピックが終わった翌年というのは、
適切と考えました。

それを想起させるように、TOKYO 2020という文字面と同じ見え方で、
冒頭の時間テロップは"TOKYO 2021"としています。

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明確に、"オリンピック後の東京"ということを提示するためです。


"災害の予感"
─「5時46分」「5弱」 「1月17日」「11時58分」

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『東京彗星』は、関東にやや強い地震が来て、
弟が職場にいる兄を心配して電話するシーンから始まります。

テレビに映る地震速報の画面、時刻設定が必要です。
この時間は、"午後5時46分"にしました。

阪神淡路大震災が起こった午前5時46分の、ちょうど12時間後です。

阪神淡路大震災の、次の都市直下地震を予感させる意味で、
ちょうど12時間後の同じ数字にしました。

この画面で目立つ最大震度の"5弱"は、
東日本大震災のとき東京で観測した最大震度の速報値です。

1995年に起こったこと、
2011年に起こったことが
混ざった数字構成
になっています。

映画の中盤、衝突7日前に混乱する東京を伝えるニュース、
終盤、衝突まであと数時間のときに流れるニュースの時間設定も
同じ午後5時46分にしています。

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その後、弟が岩手へ疎開する日。
衝突まで75日という、
最後の合同疎開バスに乗って弟は岩手へ疎開していきます。

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日付は"1月17日"です。

理由としては劇中設定で、
東京の小学生は2学期までで終了、
3学期はなく、それまでに疎開できなかった子供は
冬休み明けのこの時期に疎開、という整合性もありますが、
いちばんはこの日が
阪神淡路大震災の発生日だからです。

そして時刻設定は11時58分
関東大震災の発生時間です。

このように映画の序盤では、
表示される数字に"災害の記憶/予感"を仕込んでいます。


"うそか、まことか"
─「4月1日」と「365日」

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やや強い地震の直後、
ニュース速報で「1年後、東京に彗星が落ちる」と発表されます。

日付は、"4月1日"です。

なぜかというと、
この映画が"情報災害"の映画だからです。
実際に彗星が落ちてきて東京が破壊される描写ではなく、
「1年後」と発表された、
目に見えない情報だけで、
経済など同じく目に見えないものが
ゆるやかに崩壊していく
話です。

現実でも「30年以内に首都を巨大地震が襲う可能性は70%」
という情報はオープンにされていますが、
みんなそこまで体感的に信じてはいないのではないでしょうか。

みんな自分が生きているうちに、
東京が大地震に襲われるとは思っていない。

ですがこれが、
「1年後の○月○日に発生することがわかりました」
と発表されたら
、どうなるでしょうか。

1年あったら、逃げる人もいる。
死にたくて、東京に残る人もいる。
単に家を離れたくなくて、逃げない人もいる。

いろんな選択が生まれるでしょう。

そもそも、信じない人もいるんじゃないか。
30年以内に…という話を実感として信じていないように、
「うそかまことか」という不安定な情報にしたい。

それを意味することができるのは、
4月1日以外にありません。
エイプリルフールです。

「1年後」という設定なので、
衝突日も、発表日も、エイプリルフールです。

しかも、4月2日になる直前が衝突予想時刻です。
うそかまことか、どっちだ?
この映画も、うそかまことか、どっちだ?

うまく言えませんがそんな感じになるように、
4月1日から始まる365日、という日付設定にしました。

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"3.11の記憶"
─「10歳と20歳」「Comet C/2011 M11」
「March 11, 2011 14:46UT」

この物語は、2021年を舞台とした、
10歳の弟20歳の兄の話です。
クライマックスに、
2011年の東日本大震災での津波に
明確に言及する場面があります。

震災を知る兄と、震災後に生まれた弟

2021年に20歳の兄は、2011年には10歳です。

つまり、兄にとっては
"自分が東日本大震災を経験した年齢"の弟が、
彗星災害に巻き込まれるという設定です。

この数字比率が成立するのは、
2021年の10歳と20歳しかありません。

それに、10年というのはある程度風化するのに十分な年月。

東日本大震災が過去のものになりそうなとき、
目を覚まさせるかのように、大きな被災をしなかった東京へ
彗星という災害が襲いかかる
という設定です。

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そして1年後に衝突することが発表された
彗星の名前は、「Comet C/2011 M11」です。
彗星の名前表記は、
・発見日時(世界時(Universal Time))と
・その月に何番目に見つかったか
という数字が適用されます(たしか)。

C/2011が基本の名前、
M11は、March=3月に見つかった11番目の彗星という意味。
3月11日=March 11に見えるようにしたかったので、
11番目という設定にしました。

そして発見日時も、世界時(Universal Time)での
「2011年3月11日14:46」に発見された彗星
ということにしました。

3.11での恐怖が、呪いのように
10年ごしに東京に襲いかかる
のです。

あの2011.3.11から、すべてはつながっている。
終わった話ではない。次は、東京かもしれない。

そういう不安のフィクション内の象徴がこの彗星なので、
数字はこれしかありえませんでした。

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この彗星の衝突軌道計算の画面の数字にも意味があります。

右下の計算日時は
同じく3.11を想起させる14:46にしています。
日付の6月22日というのも、
劇中のある出来事のちょうど1年前ということにしています。

その出来事のことはネタバレになるので有料エリアにおきますが、
いったんまとめます。

この映画では時間が大事なポイントとなりましたが、
ようは数字ひとつとっても意味を込めることができるし、
そういうところをテキトーにしないほうがいいっすよねー。
ということです。

劇中、大事なことが起きたのが
なんでもかんでも3年前ってのは、ちょっと冷めますから。

もちろん、劇中時間にこだわったという内容の記事なので
この記事の投稿時間も、意図を持ってそうしてます。


『東京彗星』9月23日(日)シネマート新宿にて1日限定公開

※僕の大好きなB’zの稲葉さんの誕生日ですが、狙ったわけじゃないっす。


※ここからは映画の結末に触れています。

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オープニングの彗星の軌道計算日時、2021年6月22日。
その1年後、2022年6月22日。2時46分

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映画のラストシーンです。
彗星という災害を乗り越えた東京に、
現実に大地震が襲います。

2時46分。
東日本大震災の14時46分の12時間後
夜中の2時46分。

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2011年3月11日の各ケタの倍数が、
2022年6月22日です。

2011年3月11日14時46分に発見され、
あの震災から10年たった2021年に発表され、
その1年後の2022年にやってきた彗星。
その数カ月後。

2022年6月22日2時46分に、
東京に大地震がやってきます。

新宿にいる兄のスマホに表示された、
絶望的な震度予測数値

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これは僕がこの映画をつくるきっかけとなった、
2016年の緊急地震速報の誤報のときに表示された数字です。

1973年の『日本沈没』では
宇宙から観た崩壊する日本全景の特撮が、
絶望を表現するカットとして
恐ろしく機能していましたが、

2017年の『東京彗星』では
日本中に"7"が並ぶ震度表示という情報で、
私達がいずれ体験する絶望を表現しました。

その日は、いつかやってきます。
その日が来たら、この映画は存在意義をいちど失います。
その日は明日かもしれない。
その日が来る前に、たいせつな人をちゃんと大切に。

そんな想いをこめてつくった映画『東京彗星』
是非多くの方にご覧いただきたいと思っています。

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短編映画『東京彗星』はVimeoとU-NEXTにて全編配信中です。



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また映画つくりたいですなぁ。夢の途中です。