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P11_現実の中に、虚構を狩る-撮影準備- 丨 『東京彗星』オンラインパンフレット_映画制作とは②

映画をどうやってつくったかを細かく書いていくシリーズ、映画制作とは①で紹介したプリ・プロダクションを終え、脚本と絵コンテが固まったところでいよいよ具体的な撮影準備がはじまります。

いまいちど目次をおさらい。

【プリ・プロダクション】
①企画書
②プロット
③脚本
④リライト
⑤ショットリスト
⑥絵コンテ
【撮影準備】
⑧ロケハン
⑨オーディション
【撮影】
⑩メイン撮影
⑪実景撮影
⑫サブ撮影
【ポスト・プロダクション】
⑬仮編集
⑭カラーグレーディング
⑮音楽/楽曲制作
⑯CG、画面制作
⑰本編集
⑱MA
【完成後】
⑲試写会
⑳映画祭
㉑公開

今回はフェーズ2の【撮影準備】
⑧ロケハン、⑨オーディション、そしてリハーサルです。

脚本と絵コンテで理想を描いたあと、それを現実の撮影に落とし込む
かなり大事なフェーズです。

こだわりすぎても撮影に進めないし、
妥協すると作品の質にかかわります。

豊かなビジョンは若く才能あるディレクターならいくらでもベテランを凌駕できると思いますが、潤沢な制作費と時間がなければそれも実現せず、実現しなければそのビジョンは作品になりません。

ベテランはこのへんの現実に落とし込むのがうまい。たぶん。妥協慣れしてハナっからこぢんまりしたビジョンしか提案しない人になるのは危険ですが、経験豊富な人は限られた予算の中でどこに注力し、どこを妥協するか、どうすれば少しでも作品の良さにつながるか、ここらへんの差し引きを計算するのがうまいような気がします。

⑧ロケハン

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ロケーション・ハンティングの略。
その名の通りロケ撮影できそうな場所を、ハントするようにまわります。
撮影がShootingでロケ地探しがHuntingなんて、やっぱり映画づくりは現実と虚構が溶け合い実存する瞬間を撃って持ち帰り、料理して出す狩猟のようなもんなんですかね。

ロケハンはまず書類でたくさん候補の場所を用意してもらって、「ここはねぇな」ってとこを落としたのち、可能性が高そうな場所をメインスタッフと共にまわります。

今回僕らのメンバーは

・監督
・プロデューサー
・助監督
・撮影
・照明

でまわりました。

監督はもちろんその場所がビジョンにマッチするかを見ます。

プロデューサーと助監督は現実的に使用料金、使用可能時間が予算やスケジュールにハマるかなんかを気にしながら。

撮影と照明は、どこにカメラを置こうか、機材搬入口はちゃんと確保できるかなどを見ます。

そして大事なのは、日のまわりです。

たとえば夕方のシーンなら本当は夕方に撮りたいけど、その場所の窓が東をむいてたら西日は入りません。そしたら窓外に夕日っぽい照明を置く必要があります。照明で夕日をつくるなら、ほんとの夕方じゃなくても撮れるということです。そうすると撮影スケジュールも変わってきます。他シーン用のいい場所が「夕方ならOK」と言われていたとして、スケジュール上そっちを夕方にまわすことで、時間的効率や費用も変化してきます。

そんなふうにして、監督、プロデューサー、助監督、撮影、照明その他スタッフがその場で話し合いながら、「ここで撮るのがいいのか」「ここで撮るなら何が問題か」などを検証していきます。

本当は録音部も一緒に行ってもらって、周辺の音環境を確認してもらえるとよいです。ロケハンの日は静かでも、たとえば近くに小学校があって、撮影当日が運動会だったら…セリフ録音に支障をきたします。街宣車、飛行機、周辺の交通量も録音環境にかかわってきます。撮影当日は思いもよらないトラブルが起こるものです。限界まで想定して、最適解とバックアップを用意して撮影にのぞまなければなりません。

本作『東京彗星』で使わせてもらった主なロケ地それぞれで見ていくと…

1.アパート

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↑ロケハンってこんな感じです。

20歳と10歳の兄弟がひっそり住んでいる場所なので、当然広くて築年数が浅い場所よりは少し年季の入った狭めのアパートがよい。加えて冒頭、兄弟が喧嘩するシーンでは心理的距離感を物理的にも表現したかったので、縦長で奥に部屋がつづくタイプがいい。

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引っ越しのときに見るような間取り図でいくつかに絞ってから見に行き、最終的にあるアパートの空き部屋を使わせてもらうことになりました。

文京区の東京不動産さんに協力いただき、素敵なロケ場所で撮影することができました。ありがとうございます。

2.老人ホーム

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「1年後、東京に彗星が落ちる」と発表され、避難活動があるにもかかわらず人生を諦めて東京に残った人たちが集まって暮らすのは、入居者がすべて避難してカラになった高級老人ホームです。

人間は子供から大人になって、高齢者になるとだんだん子供に戻っていくといいますが、高齢者向け施設と子供向け施設はその雰囲気、施設のバリアフリー感、アートディレクションが近いです。

なので今回は小学校を使わせてもらうことになりました。
これまた文京区の湯島小学校の集会部屋を使わせてもらいました。
文京区最高

3.銭湯

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この物語で重要なターニングポイントになるシーンに、銭湯があります。大浴場があって、待合いロビーがあって、コーヒー牛乳が売ってて、マッサージチェアがある、昔ながらの銭湯は墨田区緑、松の湯さんが撮影に使わせてくれました。

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ロビーに貼ってあるポスターなんかはつくりものじゃなくてこの松の湯さんに貼ってあるのをまんま使わせてもらったので、リアルです。

4.疎開施設(部屋、廊下、食堂)、運送会社

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「東日本大震災で使われた仮設住宅を再利用している」という設定ではあったのですが、現状の仮設住宅にズカズカのりこむわけにも行かず。その設定は活かしつつ、現地の研修施設も使っているということにして、この場所にしました。岩手設定ですが岩手に泊まりでロケに行く余裕はなかったので、様々な再現ドラマや映画、ドラマなどにロケ地を提供している静岡県小山町のフィルムコミッションにご協力いただきました。ありがとうございます。

宿泊施設と廊下はショウたちの疎開部屋と廊下、食堂はそのまま食堂として、そして事務所は前にトラックをおいて運送会社事務所として使わせてもらいました。

5.トンネル

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静岡県小山町の近くに、いいトンネルを見つけてもらいました。使われているトンネルだと車が通ったら撮影が中断してしまいます。いい感じに使われなくなったトンネルだったおかげで、みっちり撮影できました。ロケハン中に他の作品の監督たちもロケハンに来ていたので、どうも撮影地として人気のトンネルっぽいです。

6.神社

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「高台の神社」というなかなかレアな限定的条件でしたが、これも静岡県で見つかりました。境内の中でも撮影を許可してくださり、感謝です。

7.高層マンション

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僕の自宅です。この映画をつくることが決まったとき、正確にはつくるかどうかまだわからないときですが、「おれはこの映画で上のステップに行って、超稼ぐ。絶対だ」と決めたので、当時の給料ではキツいローンを思い切って組んで、買っちゃいました。この映画の制作決定の連絡が来たのはまさに、引っ越したその日でした。セーフ。というわけでそのまま自宅を撮影で使いました。結果、別に収入上がってないんで返済はキツイままですが、撮影に使えたので、買ってよかった。

8.津波防波堤

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ショウが疎開するのは岩手の設定です。岩手のシーンは主に静岡で撮影しましたが、この津波防波堤だけは、本当の現地で撮らなければいけないと思っていました。ロケハンはナシ。PCで調べて、撮影を申し込んで、行って撮って帰ってくる。2カットのために、出演者とカメラマンと一緒に岩手に弾丸日帰りでした。このショットは、都内や関東では撮れません。行った価値はありました。


⑨オーディション

その役を演じてもらう俳優を決めるために、その俳優と会い、ちょっとシーンを演じてもらうのがオーディションです。

CMの場合はシーン的には短いので、オーディションで「この人にしよう」と思ったらわりとそのオーディションでガッツリ芝居をつくっといて、本番では「オーディションのときの感じで」で時間節約なんてこともあります。

大御所監督だとオーディションに参加せず、スタッフがビデオ撮影した芝居の映像を見て決めることもあるようですが、そういう監督は現場でも直接俳優とあんましゃべんない人が多いような印象です。自分の要求を助監督さんに伝えて、助監督さんがそれを噛み砕いて指示する。監督はモニター前に張り付いてる。

確かにこのやり方なら、オーディションに行く必要はないかもしれません。人それぞれです。僕の場合は「その人ちゃんと話せるか」を気にするので、オーディションには参加するようにしてます。最初はダメでも、きちんと狙いを伝えると芝居が変わったりするので、そのへんを自分との相性も含めてみたいからです。大御所な人はそのへん映像見ただけで見極められるんだと思います。僕にはまだたぶん無理です。

映画の場合は(僕の場合)そのキャラクターを規定する大事なシーンをひとつ選んで、演じてもらいます。僕はまだ未熟なので、自分が書いた脚本を俳優さんが心をこめて演じてくれるのを見るとすぐ「この人いい!」と思っちゃうのですが、「この人にしよう!」と思っても次に来た人がさらに超えた芝居を見せてくれて「やっぱこの人だー!」と思っちゃったり。だめですね。

オーディションはCMではまず待合のときにポラロイドを撮り、プロフィールなどを書いてもらったオーディションシートに貼っておきます。オーディションシートは名前や特技、作品の他に、衣装をつくったり選ぶのに必要なのでスリーサイズなどを記入してもらいます。

順番が来たら部屋に入ってもらって、自己紹介とその場で1回転する映像を撮らせてもらいます。なんで1回転するんだっけ。横顔とかを見るためか。
そして、お題のシーンを演じてもらいます。ここで「もうちょっとこんな風にできますか?」とかやりとりして、何回か演じてもらい、それを映像に撮ります。このとき求める芝居ができるかはもちろんですが、こちらのオーダーを的確に聞いてもらえるか、反映してもらえるかというコミュニケーションの相性もみます。僕は。1発で決めてくる人もいれば、何回かやりとりしてグッとよくなる人もいます。やはり会ってみないとわかりません。

すべての人を見終わると、オーディションシートを並べて「この人はよかった」「この人はこの役とは違うかな…」とかあれこれ話し合います。そして、選ばれた人に正式にオファーをかけます。

ここで誤解されがちなことがあるんですが、オーディションは縦軸のコンペティションではありません。横軸のマッチングです。演技がうまい人がいつも選ばれるわけではないです。どんなに演技がうまくても、求めるその役のイメージと違えば落とします。よく「オーディションに○○回落ちた」とか、「オーディションに落ち続け…」とかいう話を聞きますが、自分に合わない役のオーディションをひたすら受けまくればそんな回数はいくらでも増えます。俳優さんたちに伝えたいのですが、それはつまり、落ちても「自分がダメだった」といちいち落ち込む必要はないということです。もちろん演技力が全然ない人は即落とさざるを得ないのですが、ある程度実力がある人は「落ちた」といっても、「その役にマッチする俳優が別にいた」程度のものです。オーディションに落ちた回数とかあんま意味ないと僕は思います。

日本では実は主演級はオーディション全然やんないそうです。主役級の人は指名決定でスケジュールをおさえるからです。役や内容ありきじゃないんですね…。だから原作ものとかで「この役にこいつはないだろう」みたいな残念なことが起こるのかな。ハリウッドでは、けっこうちゃんとオーディションするみたいです。正しいわー。

役を決めたら、リハーサルです。長編映画だと会議室にみんなで集まって、台本を読み合う「本読み」があるようですが、今回僕はやりませんでした。やってる余裕がなかったんで。

ただしリハーサルは少ししました。
でかい鏡があるダンススタジオを借りて、喧嘩のシーンの動きなど。現場で撮影にとれる時間があまりないシーンなんかは、こうして事前のリハーサルで芝居をある程度かためておくと、本番がスムーズです。


ロケ地が決まり、俳優が決まり、リハーサルである程度芝居プランを固めたら、いよいよ撮影です。
撮りきれなかったら、作品が破綻します。
入念に計画をたてて、限られた時間のなかで最大の撮れ高を獲得するため、チーム全員で挑みます。

次回はその、撮影のお話。

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また映画つくりたいですなぁ。夢の途中です。