P12_瞬間に賭ける、試合 〜撮影〜 丨 『東京彗星』オンラインパンフレット_映画制作とは③

映画制作がどうやって進むのかを独断と偏見で書いていくシリーズです。

①プリ・プロダクション
②ロケハン、オーディション、リハーサル

につづき、今日はいよいよ③メイン撮影です。

『東京彗星』は本編25分の短編映画で、全体では合計7日間撮影がおこなわれました。そのうちわけは、

・メイン撮影(出演者が物語を演じるメインの芝居)…4日
・実景撮影(
風景など人物がからまない撮影)…1日
・サブ撮影(
劇中のTVニュース映像などの撮影)…2日

となっています。

今日は、4日間に渡っておこなわれたメイン撮影の話。

というつもりだったんですが、書き終えてみたらそのとき僕が思っていたことやいままで思っていたことばかりになってしまいました。


撮影は、試合である。

①プリ・プロダクションの記事でも書きましたが、映像の撮影はそれまで監督を中心に様々なスタッフが考えに考え抜いておこなってきた準備を全開放する熱い期間です。

企画や脚本、撮影準備などのプリ・プロダクションが
"試合を想定した練習の積み重ね"だとすれば、
撮影はまさに、"試合そのもの"

撮影現場ではとにかく時間がありません。瞬間瞬間で全員が噛み合って進行しチームワークを発揮しないと、"試合に勝つ"=良い映像が撮れる、ことはできません。

ちなみに映像制作って運動部より文化部系の仕事で、休み時間にサッカーやドッジボールじゃなくてお絵かきしてた子の方が進みそうなイメージですよね。脚本家や監督なんかはそうかもしれませんが、現場をバンバンまわしていくのは意外と体育会系というか、たぶんサッカーとかバスケとか、"リアルタイムで状況判断してチームとして勝利を目指す"という思考回路がある人が強いような気がします。

僕はスポーツ全然やってなくて、やったのはひとり黙々と走る陸上競技だけ。仕事でも助監督や現場まわしの才能は、団体球技と同じくまったくありませんでした。フットサルの試合のようにどんどんインカム(イヤホンとトランシーバー)で指示出し合って現場をまわす体育会系のスタッフさんたちにはほんと恐れ入ります。頼もしい。しかも、監督の僕が1年生だとして、4年生みたいな大先輩が「監督、ここなんだけどどうする?」「こうしたいです」「わかった。みなさんここはこういきますのでよろしくー!」とかやってくれるわけです。なんだこれ。びびる。まぁそのかわり監督は、出来上がったものの良し悪しに責任を持つので、そこんとこは常にヒヤヒヤですが。

〈香盤〉

CMでも映画でも、撮影のスケジュール表のことは"香盤(こうばん)"と呼ばれます。なんでこう呼ばれるのかは諸説ありすぎて省略。とにかく、香盤です。

香盤は

・シーンナンバー
・集合時間、場所
・撮影開始時間
・終了目標時間
・出演者
・衣装
・ロケ場所
・移動車両割り振り
・持道具
・美術
・特殊機材

など、その日の撮影進行に必要な要素が書かれていて、全スタッフ・キャストは香盤を見ればその日の撮影が「何を撮って」「どんな順番で進むか」「何時に終わる予定か」などを把握することができます。


CMの場合

絵コンテがベースで、カットごとに撮っていきます。CMの香盤はエクセルでつくった表に絵コンテの該当カットを貼って、絵でもわかるようになっています。出せる資料がないので、記憶の限りでこんな感じってのを再現してみました。


映画の場合


カットごとにこんな緻密にやってるとしぬ
ので(コンテを描く監督、描かない監督いますし)シーンごとに整理します。チーフ助監督さんがつくります。こんな感じです(こっちもサンプルです)。

比べてみると、限りなく近い業界で、同じ機能なのにけっこう見た目が違いますよね。おもしれー。

ところでこの香盤づくりは、芸術です。

撮り順の効率だけを重視すると、役者にとってはやりづらい順番になってしまいます。シーン順を優先すると、あっちこっち移動の無駄が出て撮影の効率事態は悪く、お金もかかってしまいます。

そのへんを考慮しながら、役者もスタッフもやりやすいけど全体で見ても効率的、という無理難題を現実に落とし込むチーフ助監督さんは、神です。
ここばっかりはやはり経験値が超重要だと思います。机上の空論じゃ絶対にうまくいかないです。チーフ助監督さん、すごい。


〈撮影当日〉

朝の集合

さて、やっと撮影です!
スタジオ撮影はスタジオ集合のこともありますが、ロケの場合は渋谷や新宿集合で、みんなでハイエースやロケバスに乗って移動します。
朝、早いです。新宿の集合スポットにはロケバスが溢れてます。びびります。どれが自分が乗るやつかわかんないです。
ロケバスに乗って、「おはようございまーすよろしくおねがいしまーす」と言うあの瞬間は、なんか文化祭当日にいつもより超早い朝集合して最後の練習とかしちゃうときの気持ちになります。
ロケバスは、朝飯(おにぎりとかサンドイッチ)に加えて、ポットでホットコーヒーとか出るし。あ、思い出がよみがえる…

初めてホットコーヒーを飲んだのは、中2の文化祭当日。
初めてつくった映画がまだ完成してなくて、
始発登校した朝の通学路で買った、
発売したばかりのFIREの銀缶でした。
スティービー・ワンダーのCMのやつ。
まだ星が見える空を見ながら飲んだ、
生まれて始めての缶コーヒーの味。
大人になった気がしましたねー。
(結局その映画は文化祭期間中に完成できなかったんですが)

準備

ロケ地につくと、速攻で準備開始です。通常は美術部が部屋なりその場所の飾り込みを。そして照明部が照明をセッティングしつつ、撮影部がカメラ位置を確認。録音部も待機場所と、ながーいガンマイクを出すポジションをさぐります。俳優はそのシーンで着る衣装に着替えます(あ、大事な工程である"衣装合わせ"を忘れてました。衣装はサイズが合ってるか、似合うかとかがあるので撮影前に別日で衣装合わせ日というのがあります。CMだとここで初めて出演者と話す機会だったりするので、オーディションのない配役の場合はこのときに芝居のこととか話すことが多いです)。


段取り(動きの確認)

技術部の準備が整う頃、まずはそのシーンでどういうセリフ言ってどういう動きをするのかを軽くやってみる "段取り"ってのをやります(これを段取りって言うってのは今回の現場で知りました。お恥ずかしい)。「じゃ動きだけやってみましょうかー」という掛け声で始まることが多いです。役者がどう動くかを確認して、カメラや照明、録音部の待機場所などを調整します。もちろん、俳優の動きも調整します。


テスト(撮らないけどやってみる)

俳優部含め各部署がそのシーンで何をやるかを掴んだら、もうちょっとちゃんとやってみます。テストです。よーい、はい!でやってみます。まだ本気出さないです。ラフに動く段取りよりも、わりとちゃんとやってみるテストで見えてくる部分もあるので、ちょこまか動きやカメラワークを調整したりします。
フィルムで撮影していた時代は、フィルムは限られているし高いので、ガチ本番以外は撮影しないのが基本です。だからカメラ(フィルム)をまわさずに、やってみる。かためる。これがテストです。デジタル撮影になっていちおう無尽蔵に撮れるようになってからも続く習慣です。とにかくいろんなアングルから何度も本番を重ねて素材を撮りまくるハリウッドとは違う、基本シングルカメラである日本の考え方かも。


本番(ガチでやり、ガチで撮る)

「よーい、はい!」から「カット!」までのあいだ。緊張の瞬間です。役者の芝居、カメラの動き、フォーカス(ピント)、ライティング、録音、すべてが噛み合う、まさに試合。体操競技の技を決めるような感じですかね。

ここがいちばん映画制作っぽいので、ここだけが映画制作だと思われがちですが、違います。その前後を知ってもらうためにこの記事シリーズはあります。

僕もヤングの頃いろんな先輩の撮影現場に行きたいと言って行かせてもらいましたが、現場だけ見てても別になんもわかりません。なんもってことはないですが、その現場(試合)をつくるためにどんな準備(練習)をしてきたのかを知らないと、そして自分でもやってみないと、"その作品がどうつくられたのか"を知ることはできません。

そのセットは、その衣装は、その役者は、そのカメラワークは、その照明は、なぜそれに決まったのか。その過程に、監督の判断があります。その理由を目撃しないと、勉強にはなりません。

撮影現場だけ見るというのは、すでに考えまくって決定された要素が遂行されていくのを見るだけ、に近いです。派手さはあるし疲れるので勉強した感、やった感はありますが、勉強してやり方を盗むなら撮影現場よりも準備や仕上げを見た方がいいと個人的には思います。

日本の助監督仕事は撮影現場が終わると解散、てのが多いと聞きます。助監督をやって監督のやり方から学ぶなら、ほんとは編集や仕上げまでついてた方がいいと思うんですけどね。じゅうぶんなギャラが確実にどの仕事も支払われるならそれもできるんでしょうけど、現状は難しいみたいです。

とにかく、試合だけ見ててその競技がうまくなるんだったら、苦労はない。ってことです。


現場で見るか、モニターで見るか


監督は現場で生身の芝居を見る人が多いようですが、僕はモニター派です。



いちど25歳でミニドラマを撮ったとき、僕は監督ぶって(監督ですけど)肉眼でお芝居を見ていました。現場で生で見て「素晴らしいぜ…」と思ったまま、その間(ま)をそのまんま活かして編集したら、ダルダルの間延びした編集になってしまいました。

4Kだ8Kだとありますが、肉眼は16Kだと言われています。そこに生の空気感も入ります。現場で眼の前で肉眼で観る芝居は、最終的に視聴者や観客が観る解像度のたぶん、100倍くらいの情報量があります。逆に言うと、現場の超絶な情報量の1/100くらいしか、映像には焼き付けることができないのです。すごい監督なら、その誤差を想定して、肉眼で芝居を見つつ、編集でもパリッとしたテンポをつくれるでしょう。僕はまだちと無理。現場にあるモニターの小さい画面、解像度で観てもグッとくるかどうか。そこをポイントにします。観客が観るのは、そこだから。何が正しいとかはわかりませんが、僕はそうしてます。

…と、ここで自分でツッコミを入れます。

「それはテレビ画面の話だろ?」

そうです。僕はCM畑で育ったので、マックス最大画面がテレビなのです。最近はもはやスマホベースです。お客さんが観るのにいちばん近いのは、モニター。テレビベースだと、僕のやりかたは正しく思えますが…。

映画は16Kじゃないにしろ、大画面です。

小さいモニターじゃわからないいろんなことが、大画面だと見えてきます。
びっくりするくらい見えてきます。ヘッドギアで擬似大画面で観るのとも、違います。物理的に大きいスクリーンで観ると、ほんとにいろんなとこが見えてきます。

…はっ!だから映画監督は肉眼で芝居を観るのか!

スクリーンで俳優は、その実際の大きさよりも何倍も大きく映し出されます。映像的には2K、4Kかもしれませんが、情報量としては…大スクリーンで観る観客にいちばん近いのは、間近で肉眼で観ることかもしれません。

まぁ、昔はモニターとかなかったり、質がよくなかったりしたから、画を確認できるのはカメラのファインダーのみ、ファインダーをのぞけるのはカメラマン。監督は、肉眼で見るしかなかった、のかもしれません。つかたぶんそうです。その名残ってのはあるかもしれない。

まぁそれでも僕はモニター派ですけど。

監督は役者の芝居をみる、カメラワークはカメラマンにまかせる、みたいなのが日本映画の基本というイメージがありますが、僕はCM畑なので芝居もそうですが "どういう映像になっているか"がすんごい気になるので。人それぞれっす。


「オッケー!」の重み

本番は監督が「オッケー」と言うまで繰り返されます。
逆に監督が「オッケー」と言わない限り終わりません。
さらに逆に言うと、監督が「オッケー」と言ってしまったら、そのシーンそのお芝居は、二度とやりなおせなくなります。

編集のときに「もうちょっとこういうのがあれば…」と思っても、手遅れです。撮影現場を移動したら、セッティングを変えたら、もう手遅れです。だから「オッケー」と言うのは、ビビります。自分の中に明確に基準があり、それを超えたとわかったら「オッケー」と言ってもいいのですが、もういちどやればさらに想像を超えたよいテイクがとれるかもしれない、という期待が「オッケー、なんだけどもう1回やってみよう」というあやふやな発言を生みます。僕、よくやっちゃいます。すいません。

逆に監督がいつまでも「オッケー」を言わないと、香盤はどんどん押して(遅れて)いきます。いまやってるシーンを優先しすぎてタイムオーバーになれば、次のシーンを撮影する時間がなくなります。

だから、"限られた時間内で「オッケー」レベルにもっていく力"、が必要だと思っています。

時間と金が無限にあって、99テイクもやれば、そりゃ納得いくのが撮れるかもしれません。「こんなもんか」と妥協して、ギリ破綻しないところで「オッケー」を出してしまうというのも簡単です。時間も予算も限られている、でもイイものにしたい。


"ゴールを示すオーダー"か、
"相手から引き出すことば"か

なかなかオッケーを出さないだけで監督ぶることはできますが、超優秀な人はきっと、自分の求めるパフォーマンスを相手がどうやったらできるのか、的確に相手に刺さるオーダーをするんでしょう。その感じはいろんな映画のメイキングとか見ててもなっかなか細かいところは撮られてないので、現場の口伝のような感じなんでしょうか。

僕は恥ずかしながら、俳優の芝居に関しては「こういうゴールがほしい」というビジョンとその提示はできますが、それをその人にどう伝えたら引き出せるか、ここの経験値や技術が未熟なんです。ほんとにお恥ずかしい。そのへんは、数々の現場で俳優たちの演技を引き出してきた監督経験のあるチーフ助監督の先輩に、おもいっきし甘えました。

ある大事なシーンでは、「もっとこういうことにしたいんだけど、相手から引き出すように翻訳するすべを持たないっす、今」と白旗を上げ、先輩助監督の人に "翻訳"してもらいました。「こういうふうにしたい」ってのを「こういうふうにしたいっす」と伝えるのは簡単です。でも芝居は超ナマモノなので、ロジックだけではスパークしません(ハリウッドは演技が技術として体系化されてるのと、別にアクティングコーチがいたりするらしいですが)。「こういうふうにしてください」って言うんではない方法で、 "こういうふう"を引き出す言葉。これを先輩に頼りました。もはや僕はモニター前で祈るばかり。何て伝えたかはマイクごしでしか聞こえません。ふむふむ。こう言えばいいのか…さて、どうなるか。

「よーい、スタート!」うわ、こういうふうになってる。これがほしかったんだよ!「カット!オッケー!」…どんなシーンが撮れたかは、スクリーンでお確かめください。

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映画『東京彗星』オンラインパンフレット

短編映画『東京彗星』の、公式サイトでも紙のパンフレットでもない、オンラインパンフレット。 通常の映画のパンフレットには入りきらない、またはハマらないような生々しい話、詳しい話などを書いています。
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