十分に発達した実写は、CGと見分けがつかない

この映像は実際に撮られたものだと思うけど、
見て思った感想が「うお、CGみたいだ…」であった。

で、自分のこの感想に違和感。

本来CGの方が「実写みたいだ…」を目指してなかったか?
いつから僕らは逆に実写を見て「CGみたいだ…」と言うようになったのか?

ということで、「ある実写映像がCGみたいに見えるのはなぜか」を考えてみました。

仮説①匿名性/抽象度が高い被写体だから

冒頭の映像の被写体≒モチーフは、

・遠くの山々
・夕暮れの空
・空を反射する凍った湖
・湖をスケートする人

である。
言葉にしてもわかる通り、実在する特定の場所よりも抽象度が高い。つまり匿名性も高い。

実写は、実在だ。

山にも湖にも名前があるはずだし、人間にも顔と名前がある特定の人物のはず。それらが曖昧だと、どうしてCGっぽく見えるのか。

CGは特定の場所を再現することもあるけど、たいていは実在するどこかではなく

・遠くの山々
・夕暮れの空
・空を反射する凍った湖
・湖をスケートする人

といった具合に、特定の場所ではない感じでつくられるような。つまり匿名のイメージだ。

ゆえに、匿名性が高いモチーフで構成された映像がCGに見えやすいということは、あるような。

うーん、一因ではありそうだけど、いまいち説得力がない。

仮説②先にCGで有名になったモチーフ/動きだから

映画ファン的に言うと、"液体金属や磁性流体の実写映像を見ると「T-1000だ」と思っちゃう"感じ。

この仕組みはおそらく、最初にちゃんと目撃し、定番のイメージとなっている“液体金属の映像”はCGだったから、そのときに液体金属というモチーフ=実写みたいなすごいCG、という印象が刷り込まれる→実写を見てもCGだと感じてしまう、ということだと思う。

冒頭の映像でいうと、リフレクト(反射)はCGの得意分野だし。そもそも"凍った湖に空が反射している"というモチーフが、CGデモで見たような感じ、ということだ。


モチーフとは別に、動きで考えてみる。
動きとは、カメラワークのこと。

"凍った湖の上をスケートで滑る人を、常に背中から追いかける"というカメラワークに注目してみる。

これが、"ゲームっぽい"のではないか。

撮影者もスケートしているから、ワークがなめらかだ。このなめらかなことがたぶん大事で、"進む人物の背後をカメラがなめらかに追いかける"というカメラワークは、ゲームでよく見るものだ。走って追いかけて手ブレしていたらこうはいかない。

ゲームを思い起こさせるなめらかなカメラワークが、ゲーム→CGという印象になり、CGっぽく見えるのかもしれない。

仮説③いままで撮られてなかった映像だから

そもそも"スケートする人を背後からスケートで追う"という映像自体が実はけっこう新鮮だ。スケートと言えばスピードスケートでもフィギュアスケートでも、どっしりかまえた遠くのカメラからズームやパンで追いかけるのが、スケートする人の映像の定番だった。

”スケートする人を背後からスケートで追う”というのはカメラが小型化したからできることだし、これに"夕空が反射する凍った湖"というこれまた新鮮なシチュエーションが組み合わさって、新鮮に見える。新鮮に見えるということは、いままであんまり見なかったものということだし、いままであんまり見なかったということは、いままであんまり実現されなかったということ。

ここにも鍵がありそうだ。

CGはそもそも、"現実には存在しないもの(意思を持った水柱、液体金属サイボーグ、恐竜etc)を、実際に存在しているように見せる技術"だと考えると。

"実際にはない場所で、実際にはできなそうなことが、実際に起こっているように見せる" これがCGに託された役割だ。

実際には無理なこと、とはどのようなことだろう。

それは"身体的/物理的に不可能っぽい"ということだと思われる。

実写映像は"身体感覚的、常識的に考えて、現実的に行けそうな場所で、カメラを持ったふつうの人間ができそうな動き"になるはずだ。

これを「通常フィジカル」と呼ぶことにする。


CGはもともと"現実には無理めなことを実現する"方向で進化してきたので、この「通常フィジカル」を超えることをよくやってきた。恐竜がいるとかモチーフそのものもそうだけど、カメラが鍵穴を抜ける、とか、戦闘する群衆の中を飛び抜ける、とか、CGにしかできない非現実的なカメラワークもよくやってきた。

CGならではの、"人間の通常の身体感覚を超越したモチーフ、場所、動き"
これを「超越フィジカル」と呼ぶことにする。

通常フィジカル=実写
超越フィジカル=CG


こういう刷り込みが我々の中にある、と考えると、ちょっと謎が解けてくる。

冒頭の映像は、

・嘘みたいに美しい夕空(モチーフ)が
・きれいに反射した凍った湖の上(場所)で、
・スケートする人を背後からスムーズに追いかける(動き)

という3つの意味で、「超越フィジカル」な映像なのだ。

そもそも通常の身体感覚や常識では無理めだと思っちゃうようななことがおこなわれている映像=「超越フィジカル」だから、むしろCGに見える。

これに仮説①と②も合わさって、実写なのに「CGみたいだ…」という印象が生まれたと考える。(仮説③は「超越フィジカルな映像だから」に言い換える)

まとめ〜ある実写映像がCGみたいに見えるのはなぜか〜



①匿名性/抽象度が高い被写体だから
・遠くの山々
・夕暮れの空
・空を反射する凍った湖
・湖をスケートする(顔が見えない)人

②先にCGで有名になったモチーフ/動きだから
・モチーフ…空をリフレクトする凍った湖
・動き…すいすい進む人物を背後からなめらかに追いかける動き

③「超越フィジカル」な映像だから
・ふつう見れない、美しい夕空
・ふつう見れない、それが反射した凍った湖
・ふつうやれない、そこでスケートすること


こういういろんな要素が組み合わさって、冒頭の映像は実写なのに「CGみたいだ…」という印象になったのだと思われる。

ちなみにたぶん、CGを実写っぽく見せるには、これを逆に使えばいい。

①具体性がある被写体
・看板とか自販機とか質感とか、実際によく見るものをちゃんとつくる
→いろんな映画ががんばってること

②先に実写で有名になったモチーフ/動き
・実写で既に有名な映像とか景色をサンプリングする
→有名な実写映像そのものに合成した「フォレスト・ガンプ」、NASAの記録映像に近づけた「インターステラー」など

③通常フィジカルな映像
・実際に人間ができる範囲のことにおさめる
→CGやゲームなのに手持ちカメラ風にする。最近の超キレイなゲームとかみんなそうだし、映画だと「リメンバー・ミー」の一部のカメラワークはマジで人間が撮ってるみたいな生々しさだった。


図にするとこういうことだろう。


(ちなみにツッコミとして、"いままで見たことない実写映像の中でも、GoProをマウントしたエクストリームスポーツプレイヤーとかパルクールの主観映像なんかは別にCGには見えないじゃん"、というのがあるんだけど、それはとにかく①で全部クリアしてるように思う。ああいうのは映ってるものが全部マジもんの現実なのに動きが超絶だから「なんだこの実写は!」という驚きになる)

おわりに

CGが発達しているあいだは「このCG、まるで実写みたい」がふつうの感覚で逆はなかったはずなんだけど、実写の撮影技術が発達したことで「この実写、まるでCGみたい」という逆転が起きたということだ。

こういう逆転は他にもあって、僕がめちゃくちゃ印象に残ってるのは嘘かホントかTwitterで昔見かけた「コンビニでダフト・パンクが流れたら子供が「なにこれPerfumeのパクリじゃん」と言ってた」というやつ。

佐藤雅彦さんが言ってる「ゴミ袋を買って開封して取り出して、そのゴミ袋に最初に捨てるのは、さっきまでゴミ袋を包んでたビニールということにモヤモヤする」みたいなのも近い感覚。

「人間らしさ」の定義と対義は文明の発達とともに変化してる、っていうのと似ている。産業革命以前は人間の反対は動物なので、人間らしさとは「理性的であること」、対義は「動物的」だった。産業革命以後は人間の反対が機械になったので、人間らしさの定義は「感情を持ち、考えること」、対義は「機械のように正確で無感情」になった。

人間の認知って相対的だし変化してるし、おもしろいですね。

って頭良さそうにシメそうになったけど、冒頭の映像が「実はCGでしたー」って言われたら、どうしよう…。


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洞内 広樹 (映像ディレクター/映画監督)

ホラナイ ヒロキ / 映像を中心に、なにか作品をつくることについて書きます。/ B'zとジェームズキャメロンで育った熱血直球フィルムメイカー / CINEMA FIGHTERS project『Ghosting』今秋公開 / 映画『東京彗星』(U-NEXTで配信中)企画脚本監督

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