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P07_乱数を取り込む -チャンプさんのこと- │ 『東京彗星』オンラインパンフレット

銀座のバーのマスターが
初めて出演した映画で
アメリカの映画祭で助演男優賞にノミネートされる。

映画みたいな話ですが、ほんとに起こりました。

『東京彗星』に出演していただいた榎本"CHAMP"光永さんが
アメリカのAction On Film映画祭で助演男優賞(短編)にノミネート
されました。

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彼の職業は俳優ではありません。
銀座にある素敵なショットバー「HOLD ON」のマスターです。

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なぜ銀座のバーのマスターに、大事な役をお願いしたのか。

『東京彗星』オンラインパンフレット、
7ページ目はそのへんのお話です。

彗星衝突があと1週間にせまる中、
兄を救いに疎開先の岩手から東京へ向かいたい主人公の少年ショウ。
ヒッチハイクをしていると、
略奪や馬鹿騒ぎをするために東京へ向かう若者を拾ってしまい、
からまれる。
そこを助けてくれたのは、
謎にケンカが強い、トラックドライバーのオッサンだった─。

このオッサン役が、
銀座のバー「HOLD ON」のマスター、
榎本"CHAMP"光永さん
です。

いつもチャンプさんと呼んでるので、
以下チャンプさんとします。

僕は6年前に上司に連れられて初めて行った
この「HOLD ON」というお店とマスターのチャンプさんが
すごいしっくり来て楽しくて、
そしてお酒がめちゃめちゃうまくて、
以後ちょくちょく通っていました。

僕が映像をやっていることを話すと
チャンプさんに「映画に出してくれよー」なんて
冗談で言われていたのですが、

数年ごしにそれを真に受けて
ほんとに勝負を賭けた映画の大事な役で
出演してもらうことにした
のです。

僕はトラックドライバーのオッサンの役を
チャンプさんにアテガキ(役者を想定して役を書くこと)したので、
制作する際も当然「この人でいく」と言いました。

しかし当初まわりのスタッフさんたちには反対、
というか心配されました。

「演技したことないんでしょ?大丈夫なの?」
「いちおう同じ年齢の俳優さん探しておこうか…?」

みんなよかれと思って言ってくれているのはわかっていましたが、
僕は他のプロ俳優さんに演じてもらうつもりはありませんでした
彼にしかやれない、やらせたくないと思っていました。

なぜか。理由は大きく3つあります。

①普通の俳優にはない凄みがあるから
②彼がやれるとわかっていたから
③映画に乱数を混ぜたかったから

ひとつずつ説明すると。


①普通の俳優にはない凄みがあるから


チャンプさんは総合格闘技をやっているので、
まじでケンカが強い
のです。
劇中ちらっとみえる肩のタトゥーもガチです。

短編映画でじっくり人物やエピソードを描く時間がないなか、
治安が崩壊した東京へ向かう10歳の少年と観客に
「この人といれば大丈夫かも」と思わせ信頼させるには、
わざとらしい殺陣ではだめだ
ということはわかっていました。

圧倒的にケンカが強くて、一瞬で本物の暴力に見えること。

これを実現するための方法は2つあります。

・プロの俳優に、ケンカを仕込む (『ディープインパクト』アプローチ)
・ガチでケンカが強い人に、演技を仕込む (『アルマゲドン』アプローチ)

アプローチの名前は勝手につけましたが、
これは実は同じ天体衝突系映画である
『ディープ・インパクト』と『アルマゲドン』の違いです。

地球に迫る天体を破壊するために、この2つの映画では
"その天体に着陸、掘削し核爆弾を埋め込んで爆発させる"
という方法こそ同じですが、
アプローチは全くの逆でした。

『ディープ・インパクト』…宇宙飛行士が掘削を訓練する
『アルマゲドン』…掘削屋が宇宙飛行を訓練する

必要条件の保有者に特別条件を足すか、
特別条件の保有者に必要条件を足すか、
という話ですね。

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僕は『アルマゲドン』が大好きなので、
"アルマゲドン・アプローチ"
にしました。

つまり、ケンカが強いという特別条件の保有者であるチャンプさんに、
必要条件である演技をがんばってもらうということ。

演技とケンカ、どっちに説得力の比重をおくのか
どっちが習得の難易度が高いか、
もろもろ判断してのことです。

今回は、演技のうまさよりも
ケンカの強さも含めた人間存在としての説得力に比重を置きました。

劇中の年齢設定は60歳、
チャンプさんの実年齢は58歳ですが、
このへんの年齢の俳優さんで、
ガチでケンカが強い感じを出せる人
(かつ自主映画に出てくれる人)は、
当時の僕にはちょっと思い浮かばなかったです。

ヤクザ役まわりの方々はたくさんいるとは思いますが、
彼らはそういう演技がさすが上手で、しかし、
上手すぎるだろうなと思いました。

それは"ケンカが強い”んじゃなくて、
"ケンカが強く見える演技がうまい"ということです。

ほんとうの凄みではない。かもなー。

この映画では、
一瞬で"この人ほんとにケンカが強いんだ"と
思わせなければ
なりませんでした。

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僕は、演技は試合みたいなもんだと思っています。

相手がいて成立するもの。

素人さんが棒演技になるのは、
文脈がない独立したセリフや演技のとき
です。

もしくは、演技の開始がその人になるとき。

人間は相手に引っ張られますから、
そのシーンのスタートが他のプロの俳優なら、
受けの演技は初挑戦の人でもなんとかなる。

演技をする相手が真にせまっていれば、
おのずと演技初挑戦のチャンプさんも
真にせまることができるだろうと思っていました。

なので、ほんとうにケンカが強い男、チャンプさんに
演技に挑戦してもらう"アルマゲドン・アプローチ"

選んだというわけです。


②彼がやれるとわかっていたから


チャンプさんはなぜチャンプさんと呼ばれるのかというと、
何をやってもチャンピオンになってしまうからです。

カクテルづくりでも、サーフィンでも、格闘技でも。
手品もうまいです。

そういう人だから、彼が「やる」と言ってくれたら、
できるまでやってくれる、やりきってチャンプになる

と、僕にはわかっていました。

チャンプさんが「やらない」と言ったら
諦めて他の俳優をあたろうと思っていましたが、
幸いにも彼は「やる」と言ってくれました。

「やる」と言っておきながら微妙だったり、
本気を出さなかったり、バックレたりする人ではありません。

「やる」と言ったことは、なにがなんでも徹底的にやりきる男。

それがわかっていたから、
僕は自信を持って「この人でいく」と言うことができました。

そして実際、見事にやりきってくれました。


③映画に乱数を混ぜたかったから


もし、チャンプさん以外に
"ほんとにケンカが強くて、演技の経験もじゅうぶんな俳優"が見つかっていたとして、その人に演じてもらっていたとしたら。

映画の完成度はさらに上がっていたかもしれません。

しかしそれは、"事前に読める"ことです。

そんな俳優さんは、
他の映画にもひっぱりだこでしょう。
安定の演技を見せてくれたでしょう。

しかしそれでは、以前の記事にも書きましたが
「よくできてる」になってしまうな、と思っていました。

しかも

そのバーに通ってる確率×映像をやってる確率×映画をつくる確率

を考えると、日本の監督の中で、
このチャンプさんという人にガチで出演してもらえるのは、
つまり、チャンプさんに賭けることができるのは、
たぶん僕だけだと思いました。

だから、賭けました。

僕もどうなるかわからない賭けをする方が、燃える。

コントロールできることがわかってるものじゃないもの
取り込みたい。それが、乱数

他のスタッフ、キャストは盤石でした。

僕がCM業界で10年世話になってきたそれぞれのプロが集まってくれたし、
大西利空篠田諒というバッチリ演技ができるプロ俳優がいる。

だからこそ、そこに素人(失礼!)をぶっこむ賭けができました。
ポスターでもガッツリ並んでもらっています。

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チャンプさんを信じ、
まわりのスタッフ・キャストを信じられた
からこその、
賭けでした。

そしてその賭けには、勝てたと思います。

"上手な演技"ではなく、"その男"を見ている感じ。

プロからみたらいろいろ言いたいことあるかもしれませんが、
クライマックスで見せたチャンプさんの演技、迫真の表情には
監督のくせに僕も毎回泣かされます。

上手な俳優さんにやってもらうこともできましたが、
この役ばかりはそうしなくてよかったと思います。

もしかしたらこの役がチャンプさんじゃなかったら、
アメリカの映画祭で助演男優賞にノミネートされることも
なかったかもしれません。

Action On Film映画祭は
そこまで世界的に有名な映画祭ではないっぽいですが、
それでも僕が賭けた人が、
演技未経験だった人が
海外の映画祭で"助演男優賞"の候補になった
ことに、
監督としてとても嬉しく思います。

安全に完成に運ぶことに関しては乱数だった彼が出てくれたことで、
そしてやりきってくれたことで、
"いままでどの映画でも見たことのなかった俳優"という、
強い武器を得ることができたと思っています。

やると言ったらやる男・チャンプさんの演技を
VimeoとU-NEXTにて全編配信中の本編で目撃せよ!

先にその男・チャンプさんに会ってみたければ…

銀座HOLD ON(銀座5-5-11)まで是非お越しください。
平日毎日20:30くらいからやってます。


酒、うまいっすよ。僕も週1でいます。

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↑ソラ役篠田諒さん、チャンプさん、僕@銀座HOLD ON


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また映画つくりたいですなぁ。夢の途中です。