「よくできてる」と言われるのは、負けである。

「いいねぇ、よくできてる」と褒められることがある。

広告の世界だけかもしれないが、
完成度が高くツッコミどころがないときなど、
基本的にはいい意味で言われる言葉
だ。

自分の作品や仕事に直接言われることもあるし、
世の中の作品のことを指して言うこともある。

「よくできてる」と言われることは、
褒められてるってことだと思っていた。

だけど最近は、少なくとも自分の仕事や作品では、
初見の感想でこの「よくできてる」を言われたら、
「負けた」と思うようにしている。

なぜなら、そこに感情がないからだ。
心は動かなかったということだ。


「よくできてる」という言葉は総合的な完成度や秀逸な構造への評価であり、
それらを通じて心が動いたときに出る言葉ではない
(と僕は定義している)。

総合的な完成度や秀逸な構造はすべて、
作品を受け取った人の心を動かすための手段にすぎない。

そういう意味では、テクニカルなものであり、クラフトだ。

映画賞で言うと技術賞である。

僕は広告映像のディレクターだ。
ディレクターが「よくできてる」という言葉を素直に喜べないポイントはそこにある。

ここからは、というか全体的に 

※個人の意見です。 

※映像に限ります。 

なのだが、

「よくできてる」はつまるところスタッフの力なのだ(と雑に仮定してみる)。

撮影、照明、美術、CG、等等。
それらが突出して優れている場合はそこを褒められるわけだが、
平均的に全部署優れていて特に文句がないときはひっくるめて「よくできてる」という感想になる。
問題なのは内容(つまり監督の領域)がイマイチでも、
「よくできてる」と言われてしまうことがあるということだ。

要するに、「よくできてる」は、
優れたスタッフにお願いすることができれば
到達できてしまう領域なのである。

基本的に監督という職業の課題と責任は、
完成度もそうだが、芯は内容にある(と思う)。

もっというと広告であれ監督という仕事が作家のはしくれだとすると、
その課題と責任は"見た人の心を動かす"ところにある。

自分の心を強く動かした作品に出会ったときのことを思い出してほしい。
心が動いたときに出る感想は、「よくできてる」ではないはずだ。

僕の場合は「最高」「ハンパない」「ヤバい」というIQ低めの言葉と、
「感動した」「泣いた」「笑った」「まじウケる」「まじびっくりした」という感情っぽい言葉、
そこを超えたところにあるのが「好き」とか「好きすぎる」で、
さらに超えたところには「こんな作品をつくってくれてありがとう…」というのがあり、究極は「マジこれは絶対見た方がいい!」という布教活動である。

これは自分の作品に対して言われて嬉しい言葉と一致する。

「あれよくできてるね」と言われるより、
「あれマジ好きだわ」と言われるほうが何倍も嬉しい。

心が動くには、同じ業界や職種の近い人たちなら特に、
"クオリティ”という縦軸"と"好み”という横軸"が関係してくる。

(ややこしいのは完成度の縦軸の中にも好みは分布していて、
主に超絶プロフェッショナルクオリティが大好物の人もいれば、
個人的には荒削りなアマチュアクオリティ、つまりヘタウマが大好物な人もいる。そのへんはここではいったん無視します)

なにかものづくりしている人間は、基本的には

①完成度(クオリティ)で足切りしたうえで、
②なおかつ自分の好みに合ったもの

に対して「最高」「すげー」的な言葉が出る。はず。としてみる。

「よくできてる」はどのへんだろうか。


というわけでまた独断と偏見にもどづいて図にしてみたのが
この感想ストラックアウト[表]である。

うーん、やっぱり”「よくできてる」と言われたら「負け」である”は言い過ぎかもなぁ。
"好き嫌いは別として称賛には値する"といったところか。

やっぱり褒められてるってことか。

さあここでもうひとつ持論を混ぜてみる。
「スピルバーグのジレンマ」である。

絶賛されてる「ペンタゴン・ペーパーズ」が自分にはちょっとピンとこなかったのだが、
(感想ストラックアウトでいうと「すごいけど…」「ダメだった」にあたる)
これが単に自分の"好み"じゃなかったってことで片付けていいのか、と考えたときに、
昔から考えていたこの「スピルバーグのジレンマ」を思い出した。

ある観客が事前に内容を知らされずに映画を観るとする。

Aグループは「スピルバーグの新作です」と言われてから観る。
Bグループは「新人監督のデビュー作です」と言われてから観る。

たぶんだけど、

その映画の内容が客観的に観てごく平均的なクオリティだったとしても、
やはり両グループで評価はまっぷたつになるはずだ。

スピルバーグの新作だと言われて観たAグループの評価は低めで、
新人監督のデビュー作だと言われて観たBグループでは絶賛もされるだろう。


スピルバーグに限らずデフォルトでとんでもない期待値がセットされてるうえに、

がんばればがんばるほど次のハードルが上がる。

ふつうに超おもろい!レベルだと

"スピルバーグにしてはふつう"になってしまう。

これが「スピルバーグのジレンマ」だ。

大変だなスピルバーグ。「レディ・プレイヤー・ワン」超楽しみだけど。

小難しく書いてるが、要するに"期待値との差分"の話である。

人間の認知は全部これだ。

ヤンキーが更生したら褒められるのに…っていうこち亀のアレであり、
昼は女子大生、夜はキャバ嬢どっちを先に聞くかで印象がネガポジ反転するっていうアレだ。

「ペンタゴン・ペーパーズ」だってスピルバーグって知らなければ、前評判を知らなければ、
「よくできてる」って思ったかもしれない。

おや…?

もしかすると、

クオリティを縦軸にすると絶対評価だけど、

クオリティ軸をそのまま期待値に置き換えたら

それは相対的に変動する値になるかもしれない…。


ということでできたのがこの感想ストラックアウト[裏]である。

期待値の基準はその作者の実績や、

その作品の前評判によって超主観的に変動する。


とすると…

あ、「よくできてる」のゾーンが広がった

つまり。

「よくできてる」は自分(作者)への期待値が低かったとも言えるのではないか…?
「じゃん」が付くと決定的だ。

「よくできてるじゃん(お前にしては)」

うわー!

やっぱり褒められちゃいるけど根本的に褒められてなかったかも…。

と、考えたところで先週のnote、

「プロフェッショナルとは、「お客さんの方が楽しい」ことである。」

と少しつながった。

ここで先週とトータルでここまで7500字くらい書いたことが結局、
「プロアマの差は求められるハードル」という16文字ですむことだと気づいて戦慄しているが、せっかくなので粘ってみる。

こういうことだ。

やっぱりここまで7580字くらい書いたことが結局、
「プロアマの差は求められるハードル」という16文字ですむことだというのは間違いないのだが、それにしても…おっそろしー!


プロフェッショナルの「クソ」ゾーンの面積の大きいこと大きいこと。
やっと大好きな「アルマゲドン」がクソクソ言われる分けがわかったぞ。

そしてやっぱりそうだ、

「よくできてる」に素直に喜べないのは、
それが感想ストラックアウトで言うところの

[アマチュア]の方の「よくできてる」、
つまり"自分への期待値のもともとの低さゆえ"だとしても、


同じく[プロフェッショナル]の方の「よくできてる」、
つまり"驚くほどじゃないし好きでもないけどダメじゃないしクソではない"だとしても、
いずれにしても嬉しくないからだ。

※”嬉しくない”、からといって”ありがたくない”わけではないのでこれからもどんどん言ってください。

いちおう映像で”食えて”しまっている現状にあまんじることなく、
「上げに上げた期待値を常に超えつづけていく」ことでしか、
真のプロフェッショナルとは名乗れないですね。

やっぱりB'zはすごい。

そして期待値はバラバラで感想も幅広い拙作「東京彗星」

世に出したときにさて感想どんな分布になるか怖楽しみであります。


しかし感想ストラックアウトの図、我ながら…「よくできてる」



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コメント2件

どんなに論理的でわかりやすくアウトプットしても、心に響かないと相手は楽しくない。これ私はすごくむなしいと感じるんですよね。とにかく相手が最も楽しいかどうか?もちろん自分も楽しくないとですが。
コメントありがとうございます。むなしいと感じるのは、無意識に想定してた響いてほしかった人に響かなかったときですかね。自分がいちばん楽しいを突き詰めないと同じ周波数の誰かにとても深く響かない、という一面もあり、難しいところだと思います。
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