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根拠のある暗さが心地よい理由

小さい飲食店をやっているからか、そして照明に関する仕事もしているからか、ここ近年仕事を離れて訪れるお店ですごく敏感に感じてしまうのがやっぱり【照明】。結局仕事はオフにならないのが日常なのだと覚悟して、自身のテーマである"LIGHT" と"DISHES" を本気で追求していくことに拍車をかけていくことにする。上記、冒頭の写真は、先月2月にストックホルムに行った時、初日真っ先に訪れたストックホルム市立図書館。アスプルンドがデザインした名建築。空間と光との調和が美しく心打たれた景色。他、この地で刺激になった灯りを上げながら書いていきたいと思う。

街のカフェ。昼間でもキャンドルを灯すのが習慣なのは、パブリックでもプライベートでも常識のよう。


昨年リニューアルした、国立美術館のレストラン。ボールド天井の間接光が緩やかに空間の地明かりになっている。
だから、テーブル上のキャンドルのような小さな灯りがとても引き立つ。

暗さがもたらすもの

レストラン、ホテルのラウンジ、各種バーのグレードの高いところ、デザインコンシャス高いところはだいたい、共通して明るくはない。独特の"雰囲気"をつくろうとするので、自然と暗い。煌々と明るいところに比べて暗くするのだ。確かに、暗さは場所に高級感、敷居の高さをつくる。ある程度、集まる人たちの格さえも暗さによってつくられるのかもしれない。この暗さは、もちろんインテリアの素材、建築とも密接に関係してこそ醸されるのでちゃんと考えられてつくられるものだと思う。

ストックホルム市内を歩いていた時に見つけた、設計事務所らしき空間。ライトイヤーズのカラバッジョが各デスク
にあるという贅沢。

ただ暗いだけの空間

最近、気になるのは"暗くさえすれば良い"と思っている空間があること。パブリックの場なので、あくまでも私自身が感じたということを前提に書くのだけれども、ただ全体的に暗くしたらどうなるか・・? 想像してみて欲しい。レストランだったら、まずメニューが見えるかどうか。文字が小さくて見えないとかは、年齢的なことがあるかもしれないけど、その文字が見えるのかどうかは第一に明るさが関与するところ。全体的に暗いと、一瞬"雰囲気" はよく感じるかもしれないが、次の瞬間、「あれっ?」っていうことになる。思わず、スマホのライトをつけてしまう行動におよぶ。これは、バーでも同じこと。

セレクトする照明の基準

お店をつくる、場をつくる時、そこを運営する側の趣向はあって良いと思う。つくりたいイメージは経営、運営する側になければいけない。そのイメージを限りなく近い形に具現化するのが各分野のプロ。いろんなお店に行くとなんとなくだけど、ここはプロが入っているかどうかがわかるような気がしてきた。照明の視点からいうと、例えば透明なガラスのランプシェード、または裸電球むき出しの照明だけで空間が構成されているところがある。この場合どれだけ数多くつけていても"暗く"感じる。光の拡散させる方向を制御するものがないから。さらに、発光してる光源が目に入り視覚的に眩しさも感じてしまう。暗い上に眩しいって・・長時間過ごすにはツライ。意匠的に、透明なランプシェード、電球むき出し照明はあってもいい。それとともに、手元、テーブル上に必要な最低限な明るさを確保することを考えて暗さをつくるべき。

暗さの根拠を持つこと

wästberg (ウェストベリ)から、ディヴィッド・チッパーフィールドデザインの新シリーズの展示会場。空間の
り両サイドからほんのりと差し込む地明りと、テーブル上のキャンドルのみで空間を演出。

人が心地よく感じる暗さというのは、必要な明るさがあってこそ醸し出されるものだと思う。「料理が美味しく見えるために必要な明るさ」「人の表情がわかる明るさ」「人、もの、空間の良さを引き出す明るさ」これらがあって初めて暗さが生きてくる。そんな根拠のある暗さをつくってもらえないものかと感じている。もちろん、つくることは決して難しくない。そこには照明のプロのコンサルティング、プランニングを担う人たちがいるのだから。

ストックホルム市内のレストランRolfs Kök 。歴史ある老舗のスウェーデン料理のお店。

お店つくりには、インテリア内装設計、家具、テキスタイル、テーブルウェアなどの小物、そして照明、様々な要素が必要で、その全てのコンビネーションが肝だと思う。特に照明の担う役割は重要だと常々思っている。お店のつくるコンテンツを生かすも殺すも照明かもしれない。なんとなく良い雰囲気の店はいくつもある。暗さとか、明るさとか気にならない人だっている。でも私は、せっかく時間をつくって、お金も払って過ごすなら、根拠のある暗さの店に通いたい。もちろん、根拠を持った明るい店、根拠なき明るいだけの店もあることも忘れずに。

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