見出し画像

林檎の季節

今年も、林檎の季節がやって来た。
それは近所の青果店で、真っ赤で艶のある大きな“シナノスウィート”が4つで250円という安さで売られているのを見つけてからだ。
もちろん買って帰り、毎朝食べた。
とても甘くて瑞々しかった。

それから間を置かず、山形の大きな“ふじ”をたくさんいただいた。
急に林檎が集まって来てちょっと持て余しそうになった時、ふと、買ってあった本の事を思い出した。それはとても綺麗な本で、ジャムやシロップ、オイルサーディンなど、保存食のレシピを載せている本だ。

その本を開くと、林檎を煮詰める保存食が載っていた。
綺麗な本を書店で見付けて、いつか作ってみようと思っていた保存食、正直、若干面倒くさいなという気持ちもあったが、せっかくのチャンスなんだからと、やってみる事にした。

“りんごのキャラメル煮”が美味しそうだったから、それにした。
フライパンに砂糖を入れて熱し、キャラメル色になったら剥いて切っておいた林檎を入れて煮詰める、工程はそれだけだ。
大きな林檎を4つ剥くのは中々骨が折れた。それに、空腹時だったので、美味しそうな林檎を食べられないもどかしさに悶えた。中の軸の部分を取り除いた時に端っこをちょっと食べた。
甘いなぁ。林檎の官能を認識した。
林檎農家になってみたい、なんて思い始めていた。

砂糖をフライパンに入れて熱すると、みるみる溶けてトロトロになった。元々水気はないので、溶けても塊だった。
結構すぐキャラメル色になってきたので、林檎を投入した。
キャラメルが等しく行き渡るように混ぜていると、林檎から水分がどんどん出てきて煮物のようになった。

グツグツと音を立てて、キラキラ黄金に輝く林檎、甘い匂いがしている。生で食べる林檎を、煮詰める、という不思議な行為。

それはちょっと音楽に似ている。
僕が作った曲、ずっと1人でギターを弾いて歌っていた曲に、初めてバイオリンが入った時、エレキギターとベースとドラムが入った時、のような感動。
不思議な技術、ある意味余計な技術。だけど、いやそれゆえ、なんてロマンチックなんだろう。その無意味な美しさ、とでもいうべきものに痺れた。
(でもきっとその無意味な技術にも、目に見えない理由があるのだ。)

出来上がった林檎は、もう元の林檎ではなかった。眺めてうっとりするような美しさを持っていた。フライパンに残ったキャラメルは林檎の味と香りが移って、ジャムになっていた。あぁ、なんて美しい事だろう。魔法としか言いようがない。

りんごのキャラメル煮は、冷蔵で1ヶ月保存できる。タッパーに詰めて、少しずつ取り出して食べている。ヨーグルトに合わせたり、食パンに乗せてシナモンを振りかけてトーストしたり。
タッパーを開ける度、美しい魔法の事を思って、胸が少しジーンとする。
林檎というものが、今までよりも一層好きになった。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?