【百科詩典】てんのうとしゅしょう【天皇と首相】

天皇と首相のありようの違いは、彼らのたたずまいをみればわかります。
天皇は「日本国民の安寧」を願うという本務を粛々と果たし、首相は「立法府、司法府を形骸化して、独裁体制を作ること」をじたばたと切望している。
両者の語る言葉の重さの違い、国民に向かうときの誠実さの違いは、日本人なら誰でもわかると思います。
政治と祭祀を2つに分かち、現実政治の専門家と霊的事業の専門家を分離した「ヒメ・ヒコ制」は古代の列島住民が着想したすばらしい人類学的装置でした。
天皇制はその遺制の知恵を今に伝えています。
ですから、天皇と首相のそれぞれが発信するメッセージに大きな隔たりが生じると、僕たち国民は困惑します。(中略)
でも、困惑していいのだと僕は思います。
困惑した国民が政治に向かって「ちょっと待って」と一言上げるきっかけになるなら、それこそが天皇制の功徳と言うべきでしょう。

〜内田樹『街場の天皇論』