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【東大生からテレビ記者に質問②ー2】「情報を一般の人々に届ける上で大切にされていることは何でしょうか?」

「あなたの鼻唄になりたい」
シンガーソングライターに憧れていた頃、こんな恥ずかしいことを夢見て曲を作っていましたが、さて問題です!「鼻唄」になれるのはどんな歌でしょうか?
メロディーに中毒性がある歌や、歌詞のシンコペーションが心地よい歌なども「鼻唄」になりやすいでしょうが、「鼻唄」になれる可能性が圧倒的に高い歌は決まっています。

「ついさっきまで聴いていた歌」です。一番最後に聴いた歌、それが「鼻唄」に採用される可能性が最も高い歌です。今度「鼻唄」が舞い降りた際には、ぜひご確認ください。もしくは、ある人の「鼻唄」を聞けば、その人が10分前に見ていたテレビ番組も予測できたりしますよ。

ですから、東大生からの質問に答えるならば、僕が「ニュース(情報)を届ける上で大切にしていること」、それは「原稿の最後の一文に魂を込める」です。テレビ報道用語では、文のことを「Q」と呼びますので、ラストの「Q」、いわゆる「ラスQに魂を込める」ということです。逆に言えば「ラスQ」を見れば、記者がどんな気持ちで原稿を書いたのかがわかります。

僕は経済記者なので、例えば「日産に対してルノーが経営統合を提案した」というニュースで「ラスQ」を比較してみます。

①ラスQ=「今後の両社の動向が注目されます」
「最低」のラスQです。中身なし。テレビ電波の無駄。記者は余程やる気がないが、締め切りに追われて投げやりです。そもそも原稿で「注目されます」など受動態を使うのは無責任です。記者が「伝える主体」になることから逃げているわけですから。

②ラスQ=「6月に開かれる株主総会で新しい経営体制が決まる見通しです」
「無難」なラスQです。今後の客観的な予定で締めるパターン。正直僕もよく書いてしまいます。しかし記者としての熱量と勉強量の足りなさを露呈しています。
ちなみに!「無念」なラスQの可能性もあります。実は、このあとに熱い魂がこもったラスQがあったのに、放送上カットされてしまった場合です。ドンマイ!

③ラスQ=「経営の主導権を巡る日産とルノーの対立がより激しくなりそうです」
「悪質」なラスQです。二項対立に単純化して仲の悪さを煽る、テレビ屋がよく陥る手法です。しかも本能的に。敵味方を作って視聴者の「怒り」の感情を引き出せば視聴率が取れると勘違いしています。事態はいつだって複雑なのに、シンプルな対立構造に落とし込んだせいで思考停止を招き、社会的解決から遠ざかります。そもそも、ラスQで複雑な状況を的確に表現すること自体が不可能なのです…と元も子もないことを言ってみまして、次。

④ラスQ=「業績が悪化した時期を狙ったかのような経営統合の打診、6月に株主総会が迫る中、日産の経営陣はさらに難しい舵取りを求められそうです」
「日経」なラスQです。ビジネスマン向け。生活者が眺めるテレビ向けではありません。ただ、このタイプのラスQも僕はよく書いてしまいます。反省。なぜなら、ひとつ大切な取材をサボっているからです。

「困っている人」に関する取材をサボっているのです。これまで何度も書いてきた通り、ニュースのスタート地点はひとつしかありません。
「困っている人がいること」です。
「困っている人」がいるからこそ、そのニュースは報道される価値があります。
先輩が教えてくれましたが、司馬遼太郎は「新聞やテレビは単なるinformationやknowledgeを伝えるのではなく、wisdom(英智)を伝えるべき」と言ったそうです。納得です。「英智」と呼べるほどのメッセージは難しいですが、せめて「生きていく知恵」につながるような「困っている人」に関わる情報を届けなくては、それは本来的にはニュースではありません。そしてその情報を込める場所、それが「ラスQ」なのです。

⑤ラスQ=「業績悪化の責任を追及される中、日産の経営陣が大幅なリストラに踏み切る可能性が高まっています」
「僕なり」のラスQです。まだまだ取材が甘く浅はかな内容でただただ申し訳ありませんが、これで一応何とかニュースにはなれた、と思っています。日産のニュースで「困っている人」は色々いますが、まずは世界中の工場や営業所で働く従業員とその家族だと思いましたので。
つまり、「『困っている人』に関する情報を、わずかでも取材して『ラスQ』に盛り込むこと」それが僕が「ニュース(情報)を届ける上で大切にしていること」です。

「一人前の記者面」をしてエラそうに語っていますけど、ごめんなさい、どうかどうかご容赦ください。このシリーズのnoteの冒頭で述べた通り、東大生の質問をきっかけにさせていただいて、半人前でも一応テレビ記者をやっている現在の自分の「社会的役割」を探し、そして言語化する試みなんです。だから続けたいです。勇気を持って、恥じらいも忘れずに、次の質問に答えさせていただきたいと思います。

※下記はこのシリーズの冒頭note。意気込んでます。