SaaS新規事業立ち上げチームへ伝えたい10のこと

SaaS新規事業 立ち上げ時に気をつけるべき10のこと

SaaSの事業立ち上げには罠がいくつも存在する

SaaS事業の立ち上げを経験すると、そこにはいくつもの罠が存在することに気づきます。正直初めてのSaaS立ち上げ時にはそれに気づかず、たくさんの失敗を犯しました。そしてその失敗は後に大きな負債となり事業の成長スピードを鈍化させる原因となります。SaaS事業は事業の性質として長期的な連続性を帯びています。そのため、今の失敗が「今」だけでなく「未来」に対しても大きな影響を及ぼすことも多々あるのです。今回は今まで自分が経験してきた失敗を踏まえて、SaaS事業立ち上げの罠にはまらないための10のポイントをまとめました。

サマリー

伝えたいことは以下のスライドに全てまとまっております。本記事は補足情報として捉えてもらえればと思います。

1.「売る」よりも重要なことがある

SaaS事業の立ち上げにおいての最初の罠は「売る」ことよりも重要なことが存在しているという事実です。そして、頭ではわかってはいてもできないことNo.1です。人間は無意識に長期よりも短期を優先します。この無意識と戦わなければいけないのです。SaaS事業の立ち上げ当初から売上目標が存在すると、どうしてもそれを達成したくなります。その結果、誇張してサービスを営業する、本来価値を提供できない顧客に販売してしまう、顧客の声の言いなりになる。これらの過ちを犯し、気づいたら何の学びも何の価値も積み上がっていないことにふと気づくのです。SaaSにおいては「売る」よりも「使い続けてもらう」ことの方が圧倒的に重要であり、難しいテーマです。チーム全体がどこに顧客が存在し、何を求めていて、どうしたら価値を感じてもらえ、使い続けてもらえるのか。そのパターンを理解することこそが立ち上げ期においては最も重要になります。

2.「正しい」顧客のみに売れ

目の前に売れそうな顧客がいたら売りたくなっちゃいますよね。特に営業力が高い人であれば売れちゃうんです。これがSaaS事業の難しいところ。「売れる」ことと「使い続けること」に相関関係はありません。SaaSにおいて重要なことは「使い続けてくれる正しい」顧客を見つけて売ることです。それ以外の顧客は低いLTVと高いサポートコストが必要になる間違った顧客です。悪い体験を顧客に与えれば、レピュテーションリスクも高まりますし、間違った顧客へのサポートはCSメンバーも疲弊します。自分たちのサービスが「誰の」「どんな課題を」「なぜ解決できるのか」を定義し、まず正しい顧客を定義しましょう。

3.単価はとにかく上げろ 上げ続けられる料金設計に

米国のIPOをしたSaaS企業も多くはエンタープライズプランがあり、エンタープライズであれば一社当たりのARR単価が1,000万円を超えることもザラです。逆に言えば、そのような単価感で売れない、ARR単価が数十万円のプロダクトで大きくなるには、相当な顧客数を獲得できないと苦しいため長期的な成長が難しくなります。特に国内マーケットで戦うのであれば、エンタープライズに売れるかどうかは非常に重要な論点になります。直近上場した国内SaaSの雄であるSANSAN社もエンタープライズの顧客の売上構成比が約40%となっており、エンタープライズ導入が増えていることで顧客単価が大幅に上昇傾向にあります。その意味で単価は顧客の規模が大きくなったり、顧客の提供価値が増加すればするほど、上がる設計にしておく必要があります。

4.コア機能以外開発するな

プロダクト開発においてコア機能ではなく、新規機能をどうしても優先しがちな部分があります。何故ならばそれが新規顧客獲得に繋がるからです。この機能があれば売れるというロジックはあまりにもわかりやすい。だからこそ、コア機能よりも優先してしまう。しかし、立ち上げ期においてまず優先すべきは既存顧客であり、プロダクトのコアな機能です。コア機能は今後に渡って、全ての顧客が利用する機能です。ここの磨き込みこそが最もレバレッジがかかり影響範囲が時系列で見ても大きいんです。だからこそ立ち上げから半年から一年程度はコア機能をとにかく磨くことに注力しましょう。

5.カスタマーサクセスが最重要

SaaS事業の立ち上げにおいてわかっていてもできないランキング2位はこれだと思います。昨今カスタマーサクセスの概念が広がってきてはいますが、本当にこれを実践できている企業はまだまだ多くないと思います。何故ならば短期で見たらカスタマーサクセスは売上に与える影響が圧倒的に低いからです。売上の構成比を新規MRRと継続MRRで分解すれば、事業が2年程度経過するまでは全体の売上を上げる影響力が強いのは新規MRRになります。解約を0にすることよりも、先月より数社多く顧客を獲得する方がその月の売上は大きくなるんです。これらを防ぐためには事業責任者のカスタマーサクセスに対する真の理解と、それをチームに浸透させ文化にまで昇華させる動きが必要になります。長期で成長をするために、今何をすべきなのか。それを事業責任者は伝え続けなければいけません。

6.最初は「成功事例数」をKPIに

カスタマーサクセスを配置したとしても、立ち上げ当初に「解約率」をKPIに設定することは避けるべきです。解約率は遅行指標であり結果指標です。解約という結果を指標にするのはあまりにも遅すぎるのです。また立ち上げ当初は顧客の母数も少ないかつ、正しい顧客の定義も曖昧なので、解約を阻止不可能な顧客も一定混じります。そんな中でカスタマーサクセスが解約率を追うのは苦痛でしかありません。何よりもカスタマーサクセスのメンバーが仕事を楽しめません。カスタマーサクセスはSaaS立ち上げ当初において解約を当たり前に防ぐ存在ではありません。そうではなく、顧客の成功を創出するスーパースターなのです。だからこそ、「成功事例数」をKPIにすることをオススメします。顧客が成功したと実感する事例をどこまで増やせるか。導入事例の掲載に協力してくれる顧客をどれだけ増えるか。成功事例にコミットすれば自ずと正しい顧客も、成功までのCSの道のりも見えますし、この顧客の成功が次の顧客を呼びます。指標次第でカスタマーサクセスの仕事は大きく変化するからこそ、事業責任者は細心の注意を払ってKPI設計をするべきです。

7.責任範囲・意思決定方法を明確に

これはSaaS事業に限ったことではありませんが、チームで議論することに酔いしれることだけは防ぎましょう。事業立ち上げにおける議論は間違いなく「楽しい」プロセスです。そして仕事をしてる風になります。しかし、事業立ち上げにおいては実行が全てです。どれだけスピード感を持って実行し、検証を行い、学びを得ることができたか。その学びの積み重ねが事業の成功へと繋がるのです。もし責任範囲や意思決定の方法が明確でおらず、一つの意思決定に数日を要することが常態化しているのであれば、今すぐにでももっと早く意思決定できる体制やルール作りをするようにした方が良いと思います。

8.カスタマーサクセスに全ての責任を押し付けるな

日本においてカスタマーサクセスが浸透すればするほど、カスタマーサクセスを魔法のように感じ、全ての責任をカスタマーサクセスに押し付ける人が出てきます。カスタマーサクセスは魔法ではありません。カスタマーサクセスチームが単独で解約を防げる範囲は限られています。顧客体験は全ての部署が創出していることを忘れてはいけません。マーケティングからセールス、プロダクト。全てが一連の顧客体験を築き上げています。そもそもの顧客体験が悪いものであればカスタマーサクセスといえどもそれを覆すことはできないのです。解約率はカスタマーサクセス単体で改善するものではありません。全ての部署が事業責任者の責任のもと取り組むべき課題です。

9.落ち着く日は一生こない 今から全てを記録しろ

これはSaaS事業を二年運営した今だからこそ気づく大きな反省です。立ち上げ期は今が一番忙しいと思います。だからこそ、「後で整理すれば良いや」「落ち着いたら設計しよう」と情報の管理や記録を後回しにします。しかし、サービスが大きくなればなるほど忙しくなります。落ち着く日はこれまで一度もきませんでした。だからこそ、その時その時にスピードが遅くなってしまうとしても止まって情報を記録・蓄積した方が後々のためになります。事業責任者はかなり早い段階でどの情報をどのように記録し、管理するのかの設計を自分の責任で向き合うべきです。

10.チーム全員で飲みに行け

最後はありきたりですが、立ち上げ期においてはチーム間の信頼関係が全てです。特にSaaSは長期戦であり、短期ですごく上手くいくことなんてものはたいしてありません。SaaSの成長曲線は二次曲線的です。最初の成長は微々たるものです。軌道に乗るまでに数年かかることが当たり前です。そのかんは失敗の連続です。そんな中でも全力で全員が挑戦し続けられるかどうか、お互いを信頼して上手く行かないことがあっても、すぐに新しいことを前向きに始められるチームかどうか。それがSaaS事業立ち上げの命運を分けることになります。

最後に

以上、SaaS事業立ち上げ時期に重要となる10のことでした。全ての事業立ち上げに共通する内容もありますが、SaaSだからこそ注意しなければいけないことには特に注意していただければと思います。抱えた負債は解消に二倍の時間がかかると思った方が良いです。だからこそ、いかに負債を抱えずに長期の目線を持って事業運営をすることができるかが最終的に成長スピードに大きな影響を与えます。多くのチームがSaaS事業立ち上げの罠にはまらずに、最速で成長していくことを願っております。そんな筆者は現在「back check」というSaaS事業の立ち上げ真っ最中なので、少しでも興味がある人はtwitterで気軽にDMをくれると嬉しいです。


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