「村から追放された少年は女神様の夢を見る」第七話
「わぁ、凄いな」
ぼくたちは馬車で5日かけて、首都レーベンにやってきた。目の前に王城がそびえ立っている。これほど大きな建物は見たことが無かった。おそらく、一生来る事が無かったと思う。馬車は橋を渡り、城の中へ入っていく。城を囲むように川が流れていて橋を渡らないと入れないようになっているのだ。
馬車から降りると、ぼくとアリスは衛兵に案内され城内に入っていった。城内は少しヒンヤリしていた。
「グリーン珍しいのは分かるけど、さっきからキョロキョロして落ち着きがないわね」
アリスに小突かれた。少しくらい見ていてもいいと思うのだけど。お城に来る機会なんて滅多に無いと思うから。お城の中は広くて案内がなければ迷ってしまいそうだった。幾つ目かの階段を登り、大きな扉の前で立ち止まる。
「こちらで御座います」
両側からゆっくりと扉が開かれる。
「わたくしはレーベン国王女パトリシア・フォン・レーベンよ。遠路はるばるご苦労様」
赤い絨毯に大きなシャンデリア。部屋の中央には上品なドレスを身にまとった少女が優雅に椅子に座って手を組んでいた。銀色の髪は縦ロールが巻かれている。碧眼の瞳は微笑んでいた。
ぼくとアリスは頭を深く下げた。
「ぼくはグリーンです。ガラ町の教会で回復魔法を使い治療をしています。隣の女性はアリス、教会のシスターです」
「楽にしていいわ。そこの長椅子に座ってちょうだい」
長椅子を勧められてぼくたちは座った。教会にあるような木でできたものではない。肌触りが滑らかで、柔らかい。目の前にはローテーブルが置かれていて、メイドが三人分のカップに紅茶を注ぎテーブルに置いた。お茶菓子も置かれている。
「わたくしは人の色々な話を聞くのが好きなの。是非話を聞かせてもらえるかしら」
王女は紅茶の入ったカップに口を付けた。お城の中は時間がゆったりと流れているようだった。
ぼくは叔父から村を追い出されたところから~教会にいる現在の状況を話をした。
叔父に追い出された事を話すと「まぁひどい」と同情し、教会で暮らしていて回復魔法を使って治療していることを話すと、興味深そうにうなずいた。王女様とはいえ普通の人と変わらないんだなと思った。
「中々興味深い内容ですわ。気になったのは女神様のところですわね。女神様は会えるものなのかしら?」
「どうなのでしょう。場所も関係しているのかもしれませんが」
夢を見たのは教会の中だったし、会いたくても会えるものでもないだろうな。
「教会で寝れば会えるのかしら?」
「姫様、それはおやめください」
王女の後ろに立っている護衛から慌てた声があがる。
「ロイドまさか、するわけないじゃない。聞いただけよ」
「会える方法が解かったら、是非お教えしますよ」
「まぁ!楽しみにしていますわ」
王女様は純粋に喜んでいるみたいだ。
王女様との謁見は、直ぐに終わると思っていたけど、もうしばらく滞在してほしいと言われた。話し足りなかったのだろうか。ぼくたちは城の一室をあてがわれる。ぼくの部屋と隣がアリスの部屋だった。アリスは何故かぼくの所に来ていた。
「お部屋は流石・・豪華で広いのだけど、何だか落ち着かないわ」
「うん。それに緊張して疲れたよね」
ぼくはベッドに腰かけていると、アリスがぼくに寄りかかってきた。
「疲れちゃった・・このまま休んで良い?」
「・・うん」
アリスは安心して目を閉じる。ぼくも長旅で疲れていたのか、いつの間にか寝てしまった。
数日はお城での生活が珍しくて、見るものすべてが新鮮だった。料理や、お茶も高級な物ばかりだ。ただ、する事がないので暇になってしまった。お姫様は毎日忙しいらしい。時間を見つけては話をしに来ると言っていたけど。
「せっかく王都に来たのだから、街を観光したいわ」
アリスも退屈で、ぼくの部屋に来て窓の外を見ている。遠くまで来たのだから、それもいいだろう。お城での生活も飽きてきて、そろそろ帰りたいなと思っていた矢先。
「グリーン様、お客様がお見えです」
お城のメイドが知らせに来てくれた。ぼくたちの世話をしてくれている人だ。
「お客?お城にいるのに?」
わざわざ会いに来る相手なんて見当もつかない。首都レーベンに知り合いいたっけ?
ぼくの知り合いと言えば、元いた村の人たちか今住んでいる町の人たちくらいだけど。どちらにしても距離が離れすぎているし、会いに来る理由が無い。
「グリーン!やっと会えた!門番が疑って通してくれなくてなぁ」
まさかと思ったが、叔父のギルだった。そりゃ疑われるだろう。相変わらず薄汚い恰好をして酒くさい。どう見ても胡散臭いからな。でもわざわざお城に来るなんて。
「また一体どうしたの・・」
ぼくは、床に座り込んでいる叔父を見る。相変わらず不健康そうで、顔色が悪い。
「誰?お客さん?うわっ・・」
アリスは顔をしかめて後ずさっている。まあ、当然の反応だと思う。
パタパタ・・
「グリーン!続きを聞きに来ましたわよ~」
パトリシアが走ってこの部屋にやってくるようだ。ここ数日で王女とも仲良くなり、ぼくたちは名前で呼び合うようになった。歳が近い事もあり、王女から是非名前で呼んで欲しいと頼まれたのだ。
「きゃっ!この人は?」
入口付近にいた叔父を見て、パトリシアが顔をしかめる。
「おお!いいところに姫様!俺のグリーンは何かこちらに御用があったんですかい?もしよろしければ俺とも今後も御贔屓《ごひいき》に・・」
叔父は両手を揉んで、さらにねっとりとした視線をパトリシアに向ける。
「もしかして、グリーンの叔父様ですの?村を追い出したという・・」
「あ、あれは誤解でして・・追い出すつもりは毛頭なく・・」
「わたくしは噓つきは大嫌いなのです!この者をひっ捕らえなさい」
近くにいた護衛が叔父の腕を掴んだ。お姫様容赦しないな。
「え?ええ?」
叔父はうろたえていた。
「そうね。しばらく牢屋に入れておきなさい。頭を冷やすといいですわ」
「「えええ・・ちょっと待ってくれ誤解だ・・誤解なんだぁ・・」」
叔父の声が城内に響いた。城の地下の牢屋に入れられるらしい。本当何しに来たんだ。あの人は。
「お騒がせして申し訳ありません」
ぼくはパトリシアに頭を下げた。
「あの方が勝手に来たのでしょう?謝る必要はありませんわ」
あの後叔父は、尋問を受け相変わらず嘘を付いていたので国外追放になった。城に来なければ良かったんじゃないだろうか。何をしたかったのか、ぼくにはよく分からなかった。
「ちょっと刑が軽かったですわね」
「別に殺されかけたわけじゃないし、いいんじゃないですか」
そういえば、ぼくを襲った人たちは一体誰だったんだろう。身に覚えが無いんだよな。また狙ってくるかもしれない。その時はどうしたらいいのだろう。
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