「村から追放された少年は女神様の夢を見る」第三話
「すみませーん。治療してもらいたいんですが」
女性の声が教会に響いた。
次の日も一人、また一人と毎日誰かしら来るようになった。最初は少し警戒して訪れる人がほとんどだ。
「おい、本当に治してもらえるんだろうな?こんなに安く?」
教会の中に入り、キョロキョロ辺りを見回す男性。がっしりとした体つきで、背中に大剣を背負っている。肩に包帯をぐるぐる巻かれていた。
「最初は疑っていたけど、町の人に聞いたから大丈夫よ」
茶色いローブを被り、大きい杖を持った女性が男性に寄り添っていた。
「座ってもらっていいですか」
ぼくは男性に長椅子に座るように促した。
何だか疑いの目を向けられているけど・・。
「料金は一律で銀貨2枚です。心配しなくても大丈夫ですよ」
ぼくは笑顔で話す。
「実は・・怪我の治りが遅くてな・・隣町のミルドスで治してもらおうと思っていたんだが、ここでも治せると聞いたから」
思っていたより傷が深いらしい。
動けないと仕事が出来ないので、このままだと金銭的に苦しくなる為治療に来たみたいだった。
「すぐ終わりますよ」
ぼくは意識を集中した。
『癒しの女神よ我に力を与えたまえ・・ヒール』
淡い光が、傷の部分を包んでいく。傷がみるみる癒えていった。
「おお!痛くない!」
男性は恐る恐る肩を動かした。包帯を外すとキレイな皮膚が見える。
「こりゃすげえ!疑って悪かったな」
ぼくは銀貨4枚を受け取った。
「あの・・ちょっと多いんですけど」
「気持ちだよ、気持ち、とっときな!」
**
「むう~」
患者が去ってから、アリスが頬を膨らましていた。どうしたのだろう。「理由を聞いても何でもない」って言って教えてくれない。何でもない訳ないのだけど。
「グリーンばっかりずるい」
アリスが呟いた。
「ん?何が?」
「何でもない」
何でもいいけど、機嫌を直してほしい。アリスはもくもくとお掃除をして、畑仕事をしていた。
「ぼくが何か悪い事をしたのなら謝るから!」
「グリーンは何もしてない。ちょっと私がイライラしてるだけよ」
私は、自室のベッドの上で私は毛布にくるまっていた。分かってる。グリーンは良い事をしているって。私が何にも役に立っていない気がして、イライラしているの。
だけどこんな事言えるわけないじゃない。
「私って心の狭い人間だったんだなぁ・・」
ベッドで毛布を握って顔をうずめた。
私も魔法が使えたらなぁ。
「グリーンばっかりずるいです。女神様、私にも何か力を下さい」
私は両手を組んで、初めて自分の事をお祈りしてみた。
何だか段々欲張りになっている気がするけど、気のせいだろうか?
私は教会の外をホウキで掃いていた。それだけならいつもの日常なんだけど。
「こんにちは」
声をかけられて、顔を上げると、20代くらいの二人の冒険者が立っていた。ひそひそと話している。男性の剣士、女性の魔法使いのパーティのようだった。
「こんにちは。教会に御用ですか?」
「本当に教会で回復魔法を受けられるのか?」
「はい、大丈夫ですよ。誰か怪我をされているんですか?」
「いや、ただ確認したかっただけだ。何かあったらすぐに頼れるだろうからな」
**
「「どいた!どいた!」」
筋肉質の男性が大声をあげて走ってくる。背中に怪我をした青年を抱きかかえていて、怪我をしたようだった。
「畑仕事中、イノシシに後ろから襲われたらしい。意識が無い」
背中の裂傷がひどく、出血も酷い。
「そこの長椅子に寝かせてください。すぐ呼んできますから」
私は慌てて、グリーンを呼びに行った。
ぼくは両手を青年にかざして、言葉を唱える。
『癒しの女神よ我に力を与えたまえ・・ヒール』
淡い光が青年の全身を包み込む。酷かった傷は跡形もなく消え去っていく。直ぐに意識を取り戻す青年。
「すげえ~本当なんだな」
「回復魔法初めて見たわ」
「怪我は治っていますが、しばらく安静にしていてくださいね」
ぼくは、怪我をした青年に話しかけた。出血した血は直ぐには戻らないのだ。血は、時間が経てばゆっくり増えていくらしい。
いつしか、用もなく教会を訪れる人が増えた。回復魔法を見たい見物人だ。そう都合よく怪我人が現れるとは限らないのだけど。
「最近急に、人が増えてきたみたいだけど、大丈夫?」
「ん?」
ぼくは汗を拭っていた。魔力を使うと体が熱くなるみたいで、やたらと汗をかくのだ。
「ああ、うん。まえほど怠く無くなったし、平気だよ」
「なら、いいけど。頑張り過ぎて倒れちゃうのも心配だしね」
「でも、なんだかいよいよ教会らしく無くなってきたわね」
「え?」
「何でもないわ」
最近5人以上、人が来ている気がする。魔力は何とか持っているみたいだ。さすがに夕方になるとくたくたになっていたけど。
グリーン 15歳 女神からスキルを貰った人族
スキル 回復魔法 初級レベル3
魔法 ヒール(5)
HP30/60
MP5/40
ここはミルドス町のリグルス治療院。回復魔法で治療をする施設だ。入院するベッドも完備されていて立派な施設だと思う。
「最近妙な噂を聞いたのですが・・」
わたくしは院長に、最近聞いた噂を話した。隣町の教会で回復魔法を使って治療をしているという。しかもここより安いので、人が殺到しているらしい。どこまで本当だか分からないが。
「あそこの教会は、若い女が一人で応急手当をしているだけのはずだが・・ミイケ念のため調べてみろ」
「承知いたしました」
院長は、指にはめている金の指輪をしきりに撫でていた。
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