「村から追放された少年は女神様の夢を見る」第四話
最近急に、教会に訪れる人が減った。
怪我をする人がいないから良い事なんだろうけど。
「暇だね~」
「そうだな」
長椅子で二人してだらけていた。少し前まで、忙しかったのが嘘のようだ。世の中そう上手くは行かないらしい。
「久しぶりに町に出かけようか?」
ぼくとアリスは、気分転換に町に出かけることにした。二人で並んで歩くのは初めてだな。昼間の町は人も多く露店も出ていて賑わっている。アリスはいつもの修道服姿だ。
「そういえば、隣のミルドス町にも回復魔法で治療するところがあるのよね」
「へえ~。そうなんだ」
「そうだ!冒険者ギルドに行ってみない?行った事無いでしょ?」
まるで観光地に行くノリでアリスは話す。確かに行ったことは無いけど・・。ぼくとアリスは冒険者ギルドへ向かった。
冒険者ギルドと書かれた看板を見て、中に入った。中は意外と広かった。剣士や魔法使い、怪しげなフードを被った人もいる。多種多様な人種がいるようだった。食事を出来る場所もあるようだ。
「友達がここにいるのよね」
「アリちゃん!」
テーブルに座っていると、ギルド職員の制服を着た茶髪の女性が近寄ってきてアリスに声をかける。
「最近全然会わないし、どうしてるのかって心配してたんだんだよ?教会で何か始めたの?」
ギルド職員のマリリアさんは同郷の親友らしい。ふくよかで、胸部が目立っている。
ぼくがつい胸元を見ていると、アリスが足を踏んづけてきた。
「痛っ・・何すんだよ」
「いやらしい目で見てるからでしょ」
マリリアさんはアリスに話しかける。
「ねえ、変な噂になってるよ?」
「変な噂?」
「教会の回復魔法の治療が詐欺~とか、治療費が高い~とか・・」
周りの冒険者が遠巻きにぼくたちを見ている。変な噂がたっていたんだな。だからお客が減って来ていたのか。小さい声でマリリアさんは言う。
「隣町の治療院・・に目を付けられたのかもね?」
「ええ?まさかぁ」
それにしても変な噂か・・困ったな。
「お~・・教会で助けてくれた命の恩人じゃないか。あの時はありがとな」
皮の鎧を着た冒険者の青年に声をかけられた。ぼくが最初に治療をした人だった。
「変な噂たってるよな。でも俺は応援してるから頑張れよ!」
バン!と肩を叩かれる。
そうだ、心配していてもしょうがないよね。ぼくたちは今出来ることをするだけ。
冒険者ギルドに来たついでに、ぼくは無料で何人か治療をして帰ることにした。きっといつか理解してもらえる。いつまでも噂は長続きするものじゃないだろうから。
ここはリグルス治療院。2階の院長室でわたくしとリグルス院長は密談をしていた。
リグルスはフカフカの椅子にもたれかかっていて、指には貴金属の指輪が幾つかはめられている。
「これで、しばらくしたら潰れるでしょう」
ガラ町の教会でやっている回復治療は嘘だと噂をたてて、流した。隣町の小さい教会だ。そんなに警戒する必要は無いと思うのだが。リグルス様は何を考えているのかよく分からない。
昔は町民の為と言って始めた治療院だが、最近は営利目的が強い気がする。金貨一枚はすでに庶民感覚ではない。人は変わるものだな。わたくしが意見を言える立場ではないが。
「一応念には念をだな・・」
これも仕事だ。わたくしはリグルス様の言葉に耳を傾けた。
数日前の閑古鳥が嘘のように、徐々に客足が増え始めた。あれから、冒険者ギルドで何回か無料で治療したのが宣伝効果になったのだろう。予約制になり、数日先まで予約が埋まった。
「もういっそのこと、違う場所で治療したほうが良いんじゃないの」
アリスはお祈りに来る信者よりも、治療に来る患者が多い事に半分呆れていた。
「まあ、いいじゃないか。今まで通りで」
何人か治療していくうちに魔力が増えてきて、だるさも感じなくなっていた。もしかしたら、もっと多くの人を治療出来るようになるかもしれない。
今は午前中は2人、午後は3人という感じで治療をしている。
「お昼にしましょう」
奥の部屋で昼食を取る。アリスがご飯を作ってくれているのだ。最初の頃はイモばかりでそれは質素な物だったけど。今は色々な食材が並び、少し贅沢過ぎるような気がするくらいだ。鹿肉に、薬草サラダ、イモのスープまで付いている。
「グリーンが一番頑張っているんだから、しっかり食べてね」
見ると、アリスの食事の量が少ない気がする。聞くとダイエットしてるとか言うが、体が細いからする必要無いと思うのだけど。逆にもっと太った方が健康的だと思うんだけどな。
「誰かいるか?」
入口の方から声が聞こえた。ぼくは入口の方へ向かう。そこには黒いマントを羽織った青年が立っていた。腰には剣が差してある。
「今、休憩しているのですが午後じゃ駄目ですか?」
「魔物に襲われたんだ。すぐに来てもらいたい」
人が多くなったので予約で治療をしているが、最近飛び込みで来るのが増えてきたな。外に行くことをアリスに伝える。
「5人以上になるけど体は大丈夫なの?」
「少し魔力も増えてきたみたいだし、数人なら問題ないよ。行ってくるね」
マントの青年に案内され、少し町から離れたボタムの森に向かった。
ぼくは、時間までに帰ってくれば大丈夫と思っていた。
**
「怪我人はどこですか?」
結構歩いて、森の奥に入った。あれ?へんだな。この森って魔物ほとんどいなかったはずだけど?案内してくれるマントの青年は無言のまま、黙って歩いている。そういえば目も合わせていない。
「ここだ」
言われた場所に怪我人は見当たらない。風で揺れる木々の音のみ聞こえていた。
いつの間にかマントの青年はいなくなっていた。
ブスッ
体に衝撃が走った。背中を刺されたようだ。耐えられない痛みが走る。
「ううっ」
体から力が抜けて行く。立っていられなくなりその場に倒れた。
意識が薄れていく。
「こんなもんだろ。放っておけば勝手に死ぬ」
フードを目深くかぶった男は右手に血の付いた短剣を持ち、マントの青年に言った。グリーンの体を足で踏みつける。
「それにしても金を貰ったとはいえ嫌な仕事だ。冒険者稼業の方が大変だが、その分気楽だ」
「旦那の、何をそんなに怒らせたのかね?まあ俺らには関係ねえが」
「ちげえねえ。治療院に帰るぞ。一応報告しないとだからな」
フードを被った男と、マントの青年はボタムの森を足早に去っていった。
「え?」
私はキッチンで食器を洗っていた。何だか変な感じがする。胸がざわざわする様な・・。これが悪い予感という奴だろうか?
私はグリーンが行った方向を見た。
まさか・・ね。
ふわっと温かな優しい空気が私を包み込む。目には見えないのだけど。あっちに行って!と言っている気がする。
もしかして、女神様?
グリーンに何かあったのかしら。私はすぐに教会を出て、言われた方向へ向かう事にした。
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