異世界花屋(4話)
「サク!」
わたしはお母さんに呼ばれた。
お母さんが、泣きそうな目で私を見ていた。
ああ、そっか。
どろぼうしてきちゃったから、ばれちゃったのかも。
だから悲しい目をしているのかもしれない。
「ごめんなさい。わたし・・」
「何回も呼んだのだけど、返事が無くて・・どうかしてしまったのかと思ったよ」
外を見るととっぷりと日が暮れていた。
いつの間にか夜になっていたようだ。
サクラの見せる景色につい夢中になってしまって、時がたつのを忘れてしまっていたようだった。
「サク?ごめんと言っていたけど・・何かしたのかい?」
あ・・これは正直に話さないといけない。
「えっと・・売り物じゃないんだけど、アンさんのところからこれ勝手に持ってきちゃった・・謝りに行かないと」
はあ~っとお母さんがため息をついた。
「明日一緒に謝りに行こうかね。やってしまった事は仕方ないね」
****
「ごめんなさい」
次の日わたしは、お母さんとアンさんに謝りにお店に来ていた。
「言ってくれれば、花瓶ごとあげても良かったのに。こちらは気にしていませんから大丈夫ですよ」
アンさんは怒りもしなかった。
それどころか、持って行ったサクラをもらってもいいと言っていた。
「どうして盗んだのか・・まったく申し訳ありません」
お母さんとわたしは頭を下げる。
お母さんは、アンさんに小さい袋を渡そうとしていた。
「お気持ちだけで、気にしないで下さい。たまにお花を買ってくださるだけでいいですから」
アンは袋を受け取らずに笑顔で返した。
「ごめん・・なさい。わたしお花が、見たことのない景色を見せてくれて・・ずっと見ていたくなってしまって・・」
「お花の景色?」
「うん。白い大きな四角い建物があって、小さい子供が沢山いて庭で遊んでいる・・」
「それ、学校じゃないかな?多分小学校の庭に生えていたから・・」
後ろから黒髪のミライが現れた。
「俺、アンの彼氏でミライって言います。初めまして、サクさんのお母さん」
ミライは丁寧に挨拶をする。
「アンから聞いてはいたけど、随分大柄だねぇ。それでガッコウというのは?」
「異世界の人々が学ぶ場所の事です。ここだと見たこと無いから惹かれたのでしょう。お花の記憶が見れるとか凄いですね。サクちゃんは」
これは異世界の景色だったのか。
わたしはその事実に驚いた。
「大きくなったら、そのスキルで活躍できるかもしれませんね」
ミライはそう言って、わたしの頭を撫でた。
そっか、わたしのスキルで何か役に立てるかもしれない。
「わたしゃ、好きなように生きてくれればそれでいいけどねぇ」
お母さんは腕を組んだ。
出来れば、他人の役に立つお仕事が出来るようになりたいな。
少し先の未来を、わたしは夢見ていた。
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